破壊願望有りの死にたがり
「黒羽を下げてちょうだい」
エイミの命でメイドが黒羽の車椅子の方向を変え、それから部屋を出て行った。
「エイミ、私はあなたとは一緒に遊べないわ。アキラやオーナー、笹本さんがそうしたいならあの人達があなたの傘下に下るのは反対はしない。でも、私はあなたに雇われるつもりはないわ。あなたの言う安全には興味がないの」
と美里が言った。
「あらぁ、そんな悲しい事おっしゃらないで、お姉様。私達は一緒にいるべきなんですわぁ」
「あなたの理想論にはつきあえないわ」
「そうではなくて、それが現実ですの」
「?」
「お姉様、あなたがエイミを邪魔だと思うなら、どうぞ殺しておしまいになればいいわ。そうでしょう?」
「そうね、でも、私はクズしか殺さない。私が認めたクズしか」
「お姉様の中ではエイミはクズじゃありませんのねぇ。嬉しいわぁ。そうよねぇ。お姉様もアキラだって、絶対にエイミを殺せないわ」
「そうね……アキラはあなたを迷惑に思いながらも、あなたには手を出さないわね? どうして? あなたの執事さんが強いのは確かだし、あなたの背後には巨大な組織があるというのも知ってるけど……そんな事で?」
「そんな事はお姉様にもアキラにも何の害にはなりませんわ。あなたもアキラも破壊願望有りの死にたがりですもんね」
エイミはうふふと笑った。
「でもねぇ。エイミもそうなんですのよ」
「そうって?」
「破壊願望有りの死にたがりやなんですの」
「あなたが? 嘘でしょ」
「いいえ、そうなんですの。いつか、アキラかお姉様に殺されたら幸せですの、でもアキラはエイミを殺さないんですのよ。お姉様もそうね……無理でしょうね?」
美里は先ほど永遠の恋人の頬を切り裂いたカッターを再び手にした。
黒羽の心臓に突き立てたアキラのナイフはそのまま黒羽の胸に刺さったまま運ばれて行ってしまった。
そこへ、「お茶のおかわりはいかがかな? お嬢様方」と言いながら長身の男が入ってきた。中年の男だったが綺麗な顔立ちをしており、そして美里はその男に見覚えがあった。




