少女人形
「そう! 素敵でしょう? お姉様の仕留めた獲物をアキラの考えた拷問道具でエイミが芸術的に拘束するの!」
とエイミが嬉しそうに言った。
美里はその写真を眺めていたが、すぐにぽいっとテーブルの上に放り出した。
「アキラが考えたの?」
「そうよ。アキラは才能があるわ。いつだって素敵な拷問道具を考えてくれるの。特に今回はお姉様を傷つけたんですもの。念入りの残酷な物を用意しましたわ。黒羽はコンクリで覆われたパペット人形の中。身動きも出来ず、ただ泣きながら座ってるだけ」
美里ははあーーとため息をついた。
「彼、あなたの部下なんでしょう? あなたの為に私と戦ったのよね?」
「エイミはお姉様を傷つけろなんか言ってないわ。丁寧にお連れしてちょうだいと言ったのよ? それなのにアキラに聞いたら、顔中擦り傷だらけに打撲跡だらけだったらしいですわね。使えない部下はいらなくてよ」
とエイミはティーカップを持ち上げて紅茶を啜った。
「タイトルは『静寂』でしたのにこの子、夜中に背中をゆすって動いたりすすり泣きしたりで少しも静寂じゃありませんでしたから、出してあげましたのよ。そしたらすっかり大人しくなってしまって。最初はエイミ様エイミ様って言ってましたのに、今じゃ美里様、しか言わないんですの。すっかりお姉様に心を奪われてしまって」
美里は黒羽を見た。
視線はうつろでただ口元だけがかすかに動いている。
「あなたって残酷ねぇ」
と美里は心からそう言った。
「いいえ、黒羽はずっと恋人と結ばれたいと望んでおりましたのよ。ずっと一緒にいたい、永遠に、それが叶って幸せなんですわ」
「まあ、そうかもね、あなたみたいなご主人から逃れられて幸せかも。あなたの命で何人も傷つけてきたんでしょう?」
「お姉様ほどじゃありませんわ」
エイミはふふふと笑った。
美里は再び黒羽に視線を戻した。
やつれて老人のようになってしまった哀れな黒羽。
筋肉隆々で、自信満々に美里を殺そうと挑んできた時の方が素敵だったのに、と美里は思った。
美里は立ち上がって、車椅子の黒羽に近寄った。
腰をかがめて、黒羽の顔を覗き込む。
目はうつろでどこか遠くを見ているような視線。
何も彼の目には入らないのだろうか。
美里はにやっと笑って、黒羽が抱きかかえている恋人をがっと掴んだ。
エイミが「まあ」と言った。
黒羽は何の反応も見せない。
美里はそのまま恋人人形を両手で掴んで黒羽から奪い去った。
「絶対、恋人を破壊してやるって言ったの覚えてる?」
抱える物がなくなった黒羽の両腕がだらりと下がった。
恋人を奪われても黒羽の意識は変わらなかった。
視線は遠くを見て、ぶつぶつと呟いている。
黒羽恋人は元は生きた少女であり、幼女、そして生きていない女しか愛せない黒羽の為に望んでその身を人形に変えた。
黒羽はもう二度と老いていく少女達をその手で破壊せずに、そして彼を拒絶するような醜い人間の女達を相手にしなくてもよくなったのだ。
黒羽にとってはエイミは神でもあった。
美里の手に移った少女人形はずっしりと重く、その年齢に相応しい体重を保っていた。
滑らかな肌はほんの少し暖かく、頬はピンクに染まり、唇には柔らかな笑みをたたえている。黒髪は艶やかで美しく、ドレスから出たすらりとした手足。
美里はジーパンの後ろポケットに挿してあったカッターナイフを片手で取り出すと、チキチキチキと刃を出した。
そして少女人形の綺麗なピンク色の頬を切り裂いた。




