アトリエ
美里の運転する軽自動車が近づくと、門扉が自動で開いた。
確かにセレブが住んでいそうな巨大な高級住宅だった。
「すごいわね。映画スターなんかが住んでそうじゃない? プールとかもありそう」
「プールもサウナも、コンサートホールもありますよ」
と山田が言った。
「ふーん。施設育ちって言ったけど、ずいぶんとセレブな家に貰われてったのね」
「ええ、そうですね。世間一般的にはエイミ様はシンデレラガールでしょう。でもそれが幸せとは限りません」
「そう? 着る物にも食べる物にも苦労しなかったんでしょ?」
山田はそれには答えず、高級車が何台も止まっているガレージを指した。
美里はそこへ車を乗り入れ、エンジンを止めた。
「こんな高級車に囲まれて、アキラの車がおもちゃみたいね」
美里は車を降りて助手席の方へ回った。
腕にはお気に入りのブランドバッグを提げている。
中身は釘打ち機で今日はカートリッジも満タンにしてある。
助手席のドアを開けて、ブランドバッグから刃渡り三十センチのナイフを取り出す。
これもアキラのコレクションから拝借してきたものだ。
山田の首にそれを突きつけると、山田の顔が焦る。
このまま首をザシュッと切り裂かれても不思議ではないからだ。
美里がそれをするのに躊躇などしないという事を山田は十分知っていた。
美里が絞めていた結束バンドをぶつっと切ってやると、山田は大きく深呼吸した。
「こちらです」
山田は先に立って歩き出した。
美里はナイフをバッグに入れて山田の後について歩き出した。
両開きの大きなドアを開けると、メイドや黒服が何人も美里を笑顔で出迎えた。
何の笑顔だろう、と美里は思った。
殺人鬼を迎え入れて、しかもむしろ誇らしげに美里へ友好な笑顔を見せる。
今このメイドの笑顔を切り裂いてやったら、どうするかしら?
やっぱり笑顔を私に向けるのかしら?
美里はそんな事を考えて、つまらないわね、と思った。
山田についてホールを奥へ歩いて行くとくるくると螺旋階段があり、その上からエイミが登場した。
「お姉様! ようこそいらっしゃいましたわぁ!」
「エイミ、先日はうちにお茶をしに来てくれてありがと」
と言うと同時に、美里はバッグから釘打ち機を取り出して、エイミに向かって発射した。
もちろん当たるとも思っていない。
普通の家の二階じゃないのだ。
映画のセットのような階段の上だ。
とても届くまい。
美里の発射した一発目は階段のどこかに当たって「カーン」と音を立てて落下した。




