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チョコレート・ハウス 死  作者: 猫又


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20/37

私の人形はよい人形

 前にいた場所とは違って、ジョニーは全然怒られなくなった。

 おかみさんの所ではあたしが客を取る時間までに準備が出来てないと酷く怒られてたし、それ以外でも通りがかりに殴られたり蹴られたりはよくある事だった。 

 みんな、ジョニーをうすのろとか呼んでたし、あたしの事もバカだって言ってた。

 あたしもジョニーもそこにいた人の事、大嫌いだったけど普通に笑ってた。

 そうしないと余計に意地悪されるから。

 あたしに傷をつけるとおかみさんが怒るから、代わりにジョニーが叩かれたりした時もある。だからここで怒られない、叩かれない生活にジョニーはほっとしたようだった。

 でも誰かに呼ばれたりしたらすごく汗をかいて、上手に返事が出来ない。

 前にいたとこの人と違って、ここの人は礼儀正しくて清潔で賢そうな人達ばかりだったから。バカにされたりとか叩かれたりとかはない代わりに話しかけてももらえない。

 用事があるときだけ言いつけられるけど、それ以外はジョニーもあたしも誰の目にも入ってないような感じだった。

 それでもあたしは客を取らなくていいだけ、ジョニーはいじめられないだけ天国のような場所だと思った。



 あたしはその時ジョニーに車椅子に移動させてもらってからDVDを見ていた。

 この大きなお屋敷の中には図書館みたいなのがあって、たくさんの本やDVDがあるって、ジョニーが誰かに教えてもらって、そこで借りてきてくれてる。

 昔、昔、まだ手も足もあった頃、あたし映画大好きで、友達の家や彼氏の部屋ではたくさん見てたんだ。だからすごい嬉しい。好きなのは恋愛映画で、同じDVDを何回も借りてきて見てた。

 一番最初の彼氏はずっと年上で、すっごく綺麗な顔の人で、優しい言葉をいっぱいくれる人だった。

 おいしい物を食べて、借りてきたDVD見て、散歩に行ったり。

 何をしてた人かは知らないけど。

 一番最初に腕を無くしたのはその人に頼まれたからだけど、でも今でもそんなに嫌いじゃない。はっきり顔も思い出せないんだけど。とにかく優しくて凄く綺麗な顔だった事だけ覚えてる。名前? 何だっけ。


 ここには時間がたくさんあって、いろいろ昔の事を思い出してしまう。

 おかみさんのとこでは毎日客が来て、あたしの体をいろいろいじくって、嫌な事もいっぱいやらされて。錠剤とか飲まされてよくぼーっとなってたから、毎日が過ぎるのも何となくだったけど、今はやる事もなくて座ってるだけの時間が多くて、だからいろいろ思い出してしまう。本当にあったことなのか、夢だったのかなぁとか思う事もあるけど。 

 DVD見てる時は本当に最初の彼氏の事ばかり考えてしまう。

 それ以外の彼氏の事はもう全然覚えてない。

 最初の彼氏に頼まれて切断ショーで腕を切ってから、次の彼氏もその次の彼氏も金目当てにあたしに近づいてくる男ばかり。

 でも断れなかった。

 だっていつか最初の彼氏が迎えに来てくれるんんじゃないかって思ってたから。

 そんなはずないのは分かってた。

 でもそう思ってたいだけだったんだよ。

 なんでだろう。やっぱりバカだからかな。



「美貴ちゃん」

 とエイミさんが部屋に入ってきて、ジョニーはぱっと椅子から立ち上がった。

「お、おはようございます」

 とジョニーがもごもごと言った。

「おはよう」

 エイミさんはにっこりと笑った。

 やっぱり綺麗な笑顔だったし、エイミさんが部屋に入ってくるだけでいい匂いがふわっと部屋に広がった。

 

「お散歩に行きましょうか」

 とエイミさんが言った。

「は、はい」

「今日は寒いから暖かくして。ジョニー君」

「はい!」

「美貴ちゃんにこの袋の中の服を着せてあげて?」

「はい!」

 エイミさんの後ろからメイドさん達が箱や紙袋を持って入ってきた。

 ジョニーは慌てて、その紙袋を受け取った。

 その間にメイドさんがあたしに近づいてきて、それまで着ていた服を脱がせられた。

 パンツ一枚になったあたしの両腕と両足に。

「あの、何ですか」

 メイドさんは無言だった。

 そして大きな箱の中から細い長い肌色の物を取り出した。

「あ」

 それは足だった。

「動かないで」

 と言われてじっとしていたら、その足をあたしの太腿の切断面に合わせた。

 金属の留め金が付いていて、それはとても冷たい感触だった。

 膝とカカトの部分はなんていうんだろう。動くみたい。

 メイドさんは膝の部分を曲げて、車椅子に合う形に動かした。

 それを見ていたら短い腕の部分を引っ張られた。

 冷たい!と思ったら。

「は」

 左右に腕が伸びている。

「へ」

 最初は変な形だった。

 ふざけて踊ってるみたいな腕。

 でも自分が腕を伸ばしているみたい。

「いいわ。ちょうどいいわね!」

 とエイミさんが優しく笑った。

 メイドさんが姿見を引っ張ってきてあたしの前に置いてくれた。

 裸だった。でも足があって、腕があって。

 車椅子に置かれてるんじゃなくて、座ってるみたいなあたし。

 ちゃんと足も腕もちゃんと肌色で。

 何年ぶりだろう。

 五体満足なあたし。

 動かないのは分かってるよ。

 でも。

 あたしはあんまりびっくりしてしまって、じっと鏡の中の自分を見てた。。


「オシャレして出かけましょうよ。素敵なカフェに美味しいチョコレートでも食べに行くのはどうかしら?!」 

 とエイミさんが言った。

「は、はい」

「ジョニー君、お出かけの準備が出来たら、広間に連れてきてちょうだいね」

「はい!」

 ジョニーがピンッと背筋をのばして返事をした。 


 ジョニーがかがみ込んだので何をしているのかと思ったら、靴下を履かせていた。

 分厚いニットの靴下。赤でオレンジで緑で。なんて可愛いんだろう。

 それからブラジャーをつけて、薄いタートルネックのアンダーシャツを着せてもらって、

分厚いカラフルなセーターを着せてもらった。

 パンツの代わりに大人用のオシメをつけるのは、外出先で間に合わないと困るから。

 ジョニーが連れて入れるトイレも限られるから。

 毛糸のパンツもはかせてもらって、ロングスカートをはかせてもらって。

 丈の短いダウンジャケットを着させてもらって。

「美貴ちゃん、ブーツもある」

「うわぁ、可愛い」

 ふわふわしたファーのついたブーツを両足に履かせる。

 手にもオレンジ色の皮の手袋をはめて。

 帽子もかぶって。

 姿見に映ったあたしは手も足もある普通の女の子に見えた。 


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