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チョコレート・ハウス 死  作者: 猫又


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作戦会議

「ちょっと分かったことがある」

 とアキラが言った。

「何?」

 レアステーキを食べ終わり、アキラはカランとナイフを皿の上に置いた。

 美里は自分だけよーく焼いた肉をまだ切っていた。

 藤堂は立ち上がり、コンロにヤカンをかけた。

 デザートはマロンクリームたっぷりのモンブランだ。この時期、国産の栗は高価だ。

 外国産の栗も手には入るが藤堂は国産にこだわるし、何より味が濃厚で旨い。

 贅沢だがそれで手に入る幸せな時間は何にも代え難い。

 エイミの所へ行けとは言ったが、藤堂はアキラの事を気に入っていたし、今更三人の暮らしを手放すのは寂しい。

 それに何よりアキラは美里を守れる。

 美里の為ならば何も躊躇しない頼もしいボディガードだ。

 コーヒー豆のよい香りが漂い始めたころ、

「美里の周りをうろちょろしてたエイミの手下は黒羽って男だろう。体のでかい、強面の奴だろ?」

「そうね、そんな感じだわ。ラガーマンみたいな」

「エイミの護衛で強い。元警察官だ」

「警察官? 世も末だな」

 と藤堂が二人の前にコーヒーカップを置きながら言った。

「美里が角だして怒るような変態マンさ。エイミのとこ以外じゃ生きる場所がねえ」

 美里はコーヒーを一口飲んで、それから急いでモンブランを四つに切り分けた。

 もぎゅもぎゅもぎゅ、とモンブランを一心不乱に食べてからアキラに視線を向けた。

「どんな変態なの?」

「ネクロフィリア、しかも少女限定」

「死刑ね。抹殺すべきだわ」

 美里がまだ握っていたケーキフォークでアキラの前のモンブランをぶすっと突き刺した。「ちょ、まじか、俺の!」」

 美里に睨まれ、藤堂が新しく切り分けてアキラの前にまた置いたので、アキラは話を続けた。

「しかもエイミが調子にのって、永遠の恋人だとか作品を作ってやったもんで、すっかりエイミの忠実な下僕だ」

「永遠の恋人?」

「そう、永遠に年をとらない、少女のままの姿で、余計な事はしゃべらない、いつでも黙って微笑むだけ、でも人形じゃないんだ。元は人間の少女の屍体からつくったからさ」

 美里のように先に食べておけばよかった、と藤堂は思った。非常に美味くできたモンブランだが食べる気を失ってしまった。

「へえ、一億円くらいするんじゃないの? エイミの作品って高いんでしょ?」

「さあね」

 アキラは肩をすくめて次のケーキを奪われないようにさっさと食べ終えた。

「その黒羽が殺しの映像を持ってるのか?」

 と藤堂が聞いたが、アキラは肩をすくめた。

「さあね、殺しの映像をガチで撮られたかどうかはまだ分からねえ。エイミのとこに黒羽は戻ってないしな。美里がみさかいなく殺したあの男が黒羽の罠ならあり得るって話だけどな。美里を二、三日、つけてりゃどっさりお宝映像を撮り放題だろうから、ぜんぜん苦労しないだろうからな。ちったぁ気をつけて殺りやがれ」

 アキラに言われて美里は唇を尖らせた。

「……しばらくどっか行こうか」

 と美里が言った。

「え?」

「あたしとアキラががいなくなればいいって話でしょ? エイミとアキラの事はともかく、笹本さんとオーナーに迷惑をかけない為にはそれがいいんじゃない。店の名前を晒されるのは駄目よ。客商売なんだから」

「それは駄目だ。出て行くなんて」

 と藤堂が言った。

「君が出て行くくらいなら」

 と藤堂がアキラを見た。

「何だよ」

「アキラ君、頼むからエイミと結婚してやれ。ご祝儀ははずむし、ウエディングケーキも豪華な三段を作ってやる。中まで全部食べられるやつにしてやるから」

「ふざけんな!」

「美里が出て行ってしまったら、君責任とってくれるのか?! 美里は家出の前科があるんだ。朝起きたらいなくなってたんだぞ! どうしてくれるんだ!」

「知らねえよ!」

「それか今すぐエイミを殺してこいよ!」

「それが出来たらもうとっくに殺ってるっての!」

「どうして殺せないんだ? 好きなのか? 愛してるんだろう? だったら結婚してやれよ!」

 テーブルを挟んで二人はにらみ合った。

 それから気まずそうにそれぞれにカップを取り上げた。

「だったら、アキラ……」と美里が言った。

「何だよ」

「永遠の恋人をかっぱらってきなさいよ」

 美里の言葉にアキラと藤堂はぶっとコーヒーを吹き出した。

「はああ?」

「それは……」

「それがあれば、その栗バネの動きを牽制出来るわ」

「栗バネじゃねえよ。黒羽」

「その恋人はエイミの所にあるんでしょ? あんた、ちょっとかっぱらって来なさいよ」

「え~~」

「アキラ、見たことあるの? どうせ趣味の悪い物なんでしょ? エイミの作品だもん」「まあな」

「失敗したら結婚してやれよ」

 と藤堂がしつこく言ったので、アキラはまた藤堂睨んだ。

「エイミからも提案があるんだけど」

「あら何?」

「何だ?」

「藤堂さんを殺したら映像を消してやるってさ」

 アキラがはははっと笑った。

「それに何の意味があるのよ?」  

 と美里が言い、藤堂も、

「適当な事を言うな」

 と言った。

「本当さ。エイミと黒羽を殺すか、藤堂さんを殺すか、だったら、藤堂さん一人の方が簡単なんだけど」

「アキラ。そしたらあたしがあんたとエイミと栗バネを殺して永遠の恋人とやらを破壊する。それも楽しそうだけど残るのがあたしだけはちょっと寂しいわね」

 と美里が言った。

「確かにその恋人をさらってくるっていうのはいいアイデアかもな。エイミよりもとりあえずその黒羽の動きを封じられる。エイミの所へ戻ってないのはまだこの付近でうろうろしてるかもしれないし」

 と藤堂が言ってアキラを見た。

「あんたを殺す方が簡単なんだけど」

「美里に嫌われるぞ」

「あんたがいなくなって美里が困るのはチョコレートを作る奴がいなくなる事だけだ」

 また二人でにらみ合う。

 二人のくだらない言い合いを腕組みをして美里は眺めていたが、

「ちょっと、明日の朝ご飯の食パン切らしたから買い物に行ってくる」

 と言って立ち上がった。


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