第82章
82.
罪を犯した時。
最も重要な事は、何だろう?
犯した罪の内容か、その内容証明たる告発か、あるいは断罪の場である裁判の行方か。
あるいは償いという名の強制か、それとも形などありはしない、許し、なのか。
もし、罪に色があるとするならば、きっとそれは緋色なのだろう。
誰かの罪を告発する、そんな色。
あるいは、魔族であるアルティフィナの、瞳の色、でもあった。
既にシャーロットからは、きつく釘を刺されている。
もし、仮にそれを見つけたとしても、触れてはいけない。
更には見てもいけない、という。
そんなんでは、それが目指す『禁呪の魔導書』なのか分からない。
せめて、ペラペラとめくってみて、書かれた文字を見ない事には、それが『緋文字』で書かれているのかも分からない。
「もし、もし見付けたら、読んで見たいですね・・・」
大学を休学してこのリングハートに来たけれど、まだ、生涯を費やすべき明確な研究テーマが決まっている訳ではない。
(少なくとも、魔術研究に一生を掛ける事に関しては、ジェニフィーの中では何の違和感もない決定事項だった)
勿論、大学での研究テーマであった紋章学、その一角である魔法陣の研究は奥深く、大学の、というよりは人族の魔術研究の王道と言っても良い。
だが、少なくとも、この魔導書は違った。
緋文字という位だから、その文字自体に魔力が込められているのかもしれない。あるいは、単なる解説書ではなく、誰かの詠唱を書き取ったものかもしれない。
「詠唱、かぁ・・・」
ただ、柔軟に何音節もの詠唱をこなす魔族に比べたら、人間が描く限られた魔法陣の効力は、少し魅力に掛ける。
端的に言うと、物足りない。
でも、仕方ないのだ、魔族に比べたら微々たる魔力しか持たない人間は、魔法陣の力を借りるしか、有効に魔力を発現させる術がない。
もっと、こう・・・、決まり切った処理を記述するのではなく。
同じ魔法陣でも、記された詠唱を都度『書き換えて』走らせられないものかしら?
それはジェニフィーの生まれ育った世界とは、また違った理を有する世界で、コンピュータと呼ばれる計算機が、誕生当初の決まり切った処理を行うハードロジックから、やがてプログラミングと呼ばれるソフト制御へと置き換えて行く、その過程の模索に等しかった。
むぐ、ぐぅ、と乙女らしかなる唸りを残して、ジェニフィーは周囲を忘れ思索の中に埋没していった。




