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第69章

69.

題目;リングハートに於ける土着の魔法体系に関する考察

執筆;王立ルトビア魔法学大学校紋章学専攻 ジェニフィー・ラングドシャ

はじめに;

現在私は在学する専攻課程を休学し、このランス王国の海の玄関口であるリングハートに長期滞在をしている。紋章学を専攻する身としては異国の魔法体系を学ぶ事は非常に興味深い事であり、本稿は帰国後の正式な執筆に向け、現時点の検討状況を簡単に纏める事により忘備録と為すものである。

リングハートに於ける魔法の使われ方;

海運が主要産業であるリングハートに於いては、やはり海事関連の魔法適用に関し、ルトビアあるいはランス王国の他の地方に比較して大きな発展が見られる。

特に海上の気象状況を把握し天候の急変を察知する為の遠見術や、突風雨による船舶の過失を防ぐ為の防御魔法の発展が著しい。

遠見術について;

近年の大地球体説に基づき、外洋を航行可能な大型の船舶には、他の地上都市施設では見られない高さの鐘楼が装備されている。これは元々は帆走の為のマストとして造られた物に、その高度を利用して監視要員の観測定位置を確保した物であり、城郭に於ける櫓と同等の機能を有する。

しかしながら大地球体説に拠れば、その鐘楼の海上高に基づき視認可能な範囲は制限されており、視認範囲を広げる、つまりより遠距離の海洋気象状況を把握する為には船舶の安定性を無視した高度を持つ鐘楼を建造せしむる必要が生じてしまう。

この問題点を克服する装置が遠見術の『遠視鏡』であり、それを使う者の意識を分離し前方に投射する事で、通常の視認距離を感覚的に延長せしむる。

遠見鏡の発展に見る、魔法学伝播に関する考察;

古来、魔法学は魔族の地より一律に伝播したと考えられているが、この遠見鏡自体が魔族より伝播した訳ではない事が分かっている。その根拠は、最初に当該装置を装備した船舶の名称と時期が判明しているからであり、従来より知られていた意識人格の分離手法(これについては魔族の魔法書への記載が確認可能な物である)を改良して、船舶装備に応用した事がはっきりしている。

当該事例より考察せしむる事は、魔法学の伝播は魔族の地からの単純な拡散にあらず、伝播の途中で(今回の事例では海運拠点としてのリングハート)その地の土着的要件に基づき改変改良され拡散しているという事実である。

つまり、同様に魔族の魔法学が伝播した先であっても、文化や気象の異なる地域への伝播は、その体系の淘汰や発展に関する地域的要件による差異が生じている可能性が高い。

今後の課題;

本稿に於ける仮説は魔族の地からの地理的距離と、伝播した魔法学の体系の変化にはある程度の相関関係があるであろう事を示唆しており、可能であれば他の遠隔地に於ける魔法学の体系の採取と地域間での相互比較が望まれる。


「はぁ・・・。大風呂敷を広げちゃったけれど、検証は実質的に不可能かしらね。アイリーンさんがルトビアに戻るとなったら、私も大学に戻るだろうし。各地の魔法学体系の比較なんて、紋章学とは直接は関係ないし・・・」

ジェニフィーは商会の一室に割り当てられた自室の机で、頬杖を付きながら独り言ちた。

一人だけだと、ジェニフィーの持つ普段の清楚な感じは壊滅的な程に薄れ、ぼうぼうな髪と、うず高く積まれた魔法書や書き掛けの論文が机を占領する様は、彼女もまたルトビア大学の学生としての気質、つまり、簡単にいえば一般人より若干以上に変人である事を明確に示していた。

要するに、普段はそれを上手く取り繕っているだけ、とも言える。


そして、彼女がこの世界に於ける魔法学の大家としてその名を知られる様になるのは、まだまだ後の事、また別のお話ではあった。


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