表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/91

第62章

久しぶりです、不定期ですが、再開です!

62.

新たにデヴラ商会の会長となったアイリーン嬢の付き人(自分でも秘書などとは言うのは、ちょっと、はばかられる気がする。そもそもステラさんの例で分かる様に秘書というのは、やはり豊かな胸を所持している必要がある、と思う、多分)などというのは、身を隠す地位としては適切なのかもしれない。そのアイリーン嬢が魔族に身を売り商会を潰しかけたデヴラ男爵に代わり商会の改革の為に、このランス王国の港町、リングハートに長期の滞在をしているというのは、不自然さを隠し目指す積荷の到着を待つには最適な理由付けだったろう。

と言って、アルティフィナもこれまでの日々を、積荷を待ってただ無益に過ごしてきた訳でもない。新たな街で新たな情報網を作り、必要な情報を探してきた。

何時、誰が、アルティフィナの張った網の中に飛び込むのか。

昨夜遅く、警護の商会子飼いの冒険者たちに守られ、積荷が届いた。

そして商会の倉庫に運び込まれる荷の周囲には、最近はアイリーンが連れてきたシャーロット配下の近衛騎士団が張り付いている。荷を狙う者にチャンスがあるとすれば、アイリーンがこれ見よがしに喧伝した、商会主催の舞踏会の警護に多くの騎士団が駆り出される今夜だけ。

アルティフィナの張った蜘蛛の巣の様な細い糸には、今夜に狙いを定める何者かの胎動が、僅かな糸の震えとなって感じられていた。

まだ、それが何者なのかは、アルティフィナにも分からない。

ただ、その存在だけが、そこにあった。


「狭いじゃない! もっと、そっちに詰めなさいよ。ああ、なんでそんなにデカいのよ!? 無駄よ、無駄!!」

声を抑えていると今ひとつ迫力に掛けるが、それでもグレンは狭い木箱の中で身を屈め、縮めた身体を更に縮こめた。ここでアルティフィナに反論したところで何も解決しないどころか、下手をするとこれまでの入念な計画をかなぐり捨てて狭い木箱の中で騒ぎ出しかねない。これまでの経験からアルティフィナ相手に無駄な事はしない、それがグレンの信条でもあった。無駄な事は無駄、グレンは世の中の理不尽さという物を、物心付いた時から重々承知している。

ついでに言うと、倉庫の守衛の一人が、既に何者かに買収されているのも承知している。

分かっていて、泳がせていた。

そして今夜に合わせ、件の守衛は『裏口の鍵を掛け忘れた』事も、勿論重々承知の上だ。


「そろそろ真夜中だぜ。真夜中も過ぎれば、舞踏会もお開きだ。また、あのうるさい騎士連中が、この古びた倉庫にも戻って来る。だとすれば、ソイツが来るなら、そろそろだな?」

当然、舞踏会のホスト役であるアイリーン嬢はここにはいない。

今日は新たに商会を任せられたアイリーン嬢の、お披露目会と言っても良い。この街の要職とその警備の者は、全て出はからっている。

「ところで、アルティは今日ここに来る奴が誰か、本当は分かっているんじゃないか?」

グレンは身体を丸めたまま、木箱の隙間から倉庫の入り口を睨む。

まるで、恋敵でも睨む様に。


「・・・残念ながら、情報屋が掴んだのは『今日、誰かが来る』だろう事だけよ。何よ、やけに突っかかって来るじゃない?」

グレンは、しれっと、そう答えるアルティフィナの横顔を盗み見た。

ちょっと見た目では分からないが、その深淵のごとき漆黒の瞳に浮かべた苛立ちは多分、図星という事だ。

鎌を掛けただけ、だったのだが。

やはり『情報屋が掴んだのは』それだけでも、アルティフィナは具体的に推測を立てているのだろう。長い付き合いだ、それくらいは分かる。


「で、俺はそいつを捕まえれば良いんだな?」

このやり方は自分でも汚い気がするが、何も情報なしで戦いに臨む訳にもいかないだろう。

これで、ソイツが『人間か如何か』が分かる。

そして、悔しいが、その答えはグレンにも想像がついていた。


「・・・ごめんなさい。ソイツの相手は、まだ、グレンでは無理よ。多分、ここに来るのは・・・」

ダンッ、と音を立てて、倉庫の扉が開かれた。

否、木の扉が引き千切る様に、把手ごと消滅した。

後方に放り投げられた扉が、ガラガラと石畳を打って転がった。

鍵は、開いていた筈なのだが。

「人目を避けてわざわざ今日にしたはずなのに、この人目を憚らない強引なやり方。・・・馬鹿よね」

アルティフィナも、もうこちらだけ隠れているのは無駄とばかり、木箱の蓋を押し開け外に出た。

「あなた馬鹿じゃないの?それで、副魔術師とはよく言ったものよね?」

両手を腰に当て、隠れる事なく胸をはる。


「ふん? 小娘、ワシを知っておるのか? 我こそは、我らが魔王の軍団、ベルデル城塞が副魔術師、ベーレンゼイルだ」

ベーレンゼイルと名乗る男は、『一番上の一組』の腕を横に広げ名乗りを上げた。その肩の下には、第二第三の腕が組まれている。六本腕の異形の怪異、それが副魔術師を名乗る男の姿だった。


久しぶりです、不定期ですが、再開です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ