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第60章

済みません。

ふ、不定期で・・・。もごもご。

60.

焼き芋は生の芋より、ずっと甘い。

これはサツマイモのでんぷんに熱を加える事で酵素(βアミラーゼ)が作用して、元は含まれていない麦芽糖を大量に生成するからだ。麦芽糖は元から含まれるショ糖に比べると半分くらいの甘さしかないが、加熱時の酵素分解によって生成される量が半端ない。しかもじっくり焼く事で水分が減り、更に甘みが凝縮される。

因みに、ここでサツマイモと呼んだ芋は、正確にはサツマイモとは言い難い。中身がサツマイモっぽいだけで、外見と言うかその皮は何故かオレンジ色。しかも、焼くと真っ赤(貴様は、ゆでだこかっ!?いや、せめて赤カブか?と言うべきよね、野菜括りと言う事で)で、この世界でも何処となく粗食という印象がある。

しかしながら、たとえ粗食だろうとオレンジ色だろうと、剰え真っ赤だろうと何処の世界でも、女子は甘い物には目がない。


「皆さん(もごもご)、朝早くから私たちの為にこんなご馳走を(もごもご)用意して下さり、本当にありがとうございます(もごもご)・・・」

アイリーン嬢の挨拶に、朝の食堂に集まった皆がもごもごと、相槌?を打つ。

何故か、アイリーン嬢が王立ルトビア魔法学大学校を一時休学し、ランス王国にあるデヴラ商会の立て直しに向かうという話しは、瞬く間に大学女子寮の面々に知れ渡っていた。

女子寮、恐るべし。情報管制の欠片もない。

出立の朝、朝食前の食堂で急遽開かれた焼き芋パーティーは、アイリーン嬢の壮行会という名目となっている。


「この山吹芋、(もごもご)、とっても甘いです!(もごもご)」

何かリスっぽい小動物状態に両頬を膨らませたジェニフィー嬢が、もごもごと、そうのたまった。ちょっとジェニフィー嬢の持つ清楚な印象が薄れ、わたし的には悲しかったりもする。

そう、山吹芋というのが、この世界におけるサツマイモの呼び名だった。オレンジ色=山吹色、という訳で、何処と無く和名っぽい日本情緒があった。

参加者の女子大生たちのうち何人かは、前回の幽霊騒ぎの際に晩餐を共にし、ついでにお風呂にも一緒に入った仲ではある。更に、幾人かにはそのまま、あれやこれや、してしまったりも、している。

ほら、不可抗力だし。

同じ女の子だから、浮気じゃないし。

減ったりしないし。

更には、当人たちの記憶には残っていないし。(アイリーン嬢を除く、だけど)


「それにしても(もごもご)英雄王はよく、アイリーン様のランス行きを認めましたね?(もごもご)」

ステラさんの巨乳を持ってもホカホカの焼き芋の魅力には抗し難いらしく(少なくともあの胸は、大量に芋を食べても造られる事はないはずだ)、渡された焼き芋を堪能しながら、そう聞いてきた。

なのだが、少なくともアイリーン嬢はわたしが側を離れた深夜を除き、城に住む父王に会う時間があったはずがない。そして、普通は深夜に謁見は不可能だろう。わたしがアイリーン嬢の寮の私室に戻った時、アイリーン嬢はスケスケのネグリジェを纏っただけで、とても父王を深夜に起こし、自分が休学してまでランス王国に行こうとしている事に了承を得てきたとは思えない。

アイリーン嬢が、もごもごを良いことに、ステラさんから目を反らせた。

つまり。

父王の了解を得た事になっているのは、アイリーン嬢の嘘という事だろう。

あぁ、このまま行くと、わたしは第四皇女の誘拐犯!?


「す、済みません、私としたことが!(うっ!? げほげほ、もごもご)これを、預かって参りました、アイリーン様宛てです(もごもご)」

喉を詰まらせ涙目のシャーロット嬢が、慌てて一通の封書をアイリーン嬢に手渡した。

「『気を付けて、行って参れ』との伝言です」

アイリーン嬢が驚いているところをみると父王からの伝言、というより、自分の出立を父王が知っていた事に驚いたらしい。シャーロット嬢が伝えたのか他の誰かからなのか、如何やら、何れにしてもアイリーン嬢の父親として、アイリーン嬢本人が思っている程には、無関心ではなかった様だ。


「あ、ありがとう・・・」

アイリーン嬢が、受け取った封書を胸に掻き抱いた。

これでわたしの、第四皇女誘拐の汚名は晴れた。

さぁ、ここからがお仕事よ!(もごもご)


済みません。

ふ、不定期で・・・。もごもご。

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