第56章
お待たせしました、再開です!
ただ、済みませんが、当面は不定期掲載となりそうです•••。
56.
ランス王国は聖ルトビア王国の西方に広がる大国で、北方で国境を接する帝国にも匹敵する強国とも言われる。その歴史は帝国よりも更に古く、長きに亘り安定した王政を続けていた。ただ、近年は国が疲弊しその国土は荒れ『もし帝国に領土的な野心があったならば、忽ち押し潰されるのでは?』などと実しやかな噂が人々の口に上ったりもする程に、衰えつつもあった。
もちろん、それを口にする者も帝国もまた、他国に干渉するには国力が乏しい事を知ってはいたのだが。
ランス王国が衰えつつある国を如何にか維持出来る理由の一つは、海運に依る少なからぬ富の流入にある。多くの商船とそれを海賊から守る私設海軍が出入りする海港は、ランス王国の中でも唯一活気のある、いわばランス王国中の富を集めた様な街だった。
各国の有力な商人はこの街に商館を建て、港に巨大な倉庫を借りるというのがごく一般的なやり方で、デヴラ商会もそのやり方に習い商いを拡大してきた。今は亡きデヴラ男爵が居を構えていたのも、その商館だったのだが、男爵が死に商会の所有者が変わったとあっては、現地の商会も全くの動揺もなしという訳にはいかない。多くの者が商会に見切りをつけて去り、流通しきれない在庫商品が倉庫に溢れ、逆に必要な商品が買い付けられない混乱した状態が続いていると言う。
そう考えるとアイリーン嬢にとってデヴラ商会を下賜された事は、必ずしも幸運とは言えないのかもしれなかった。
「私は今や、父王から賜ったデヴラ商会の所有者です。ランス王国の商館が混乱しているのは、私も噂で聞いていますが、今まで自分では何も出来ずにいました。ですが、このまま商会が潰れる様な事になっては、私も父王に顔向けが出来ません。一度、ランス王国まで私自身が赴いて、商会の立て直しを図りたいと思っていました。ですから、これは良い機会なのです。・・・アルティフィナさん、アルティフィナさんは商会の関係者という訳ではありませんが、魔物も跋扈する道行、旅行と思って一緒に来て頂けませんか? 勿論、グレンさんも一緒に!」
さ、流石、第四皇女、いざとなると決断力はあるは、演説は様になっているは、その小さい胸(失礼!)と体で妙な説得力を持っている。如何やら胸の大小は、そのカリスマ性とは関係なかったらしい。当たり前か。
「ア、アイリーン様、いきなりそう仰いましても、父王陛下が何と仰るか・・・」
一方、慌てたのはシャーロット嬢だった。
それは、そうよね。
いきなり上司に転勤を決められても、困るだろう。既に一度、王城から街の南端の珈琲店に転勤になった過去はある(しかも騎士なのに、制服がメイド服!)が、今度は街の北端から南端どころか、ルトビアからはずっと遠隔地だ。仕えるアイリーン嬢の我儘に何処まで応えるか、シャーロット嬢だって熟考が必要だろう。
「まずはアイリーン様の休学を届け出て参りますので、アイリーン様も今日中に父王陛下の了解をとって下さいませ」
へっ!?
今日中、って言いましたシャーロットさん?
この主従、如何やら即断即決の気風を地で行くらしい・・・。早速、一礼したシャーロット嬢が準備室を後にする。赤毛のポニーテールが跳ねて、扉の向こう側に消えていった。
「それでは、私も一旦屋敷に戻り、準備をして参ります。オークランド家の馬車なら快適な旅が出来ると思いますので、馬車を持って参りましょう。私も、アルティフィナさんが来てくれるとなれば、安心ですわ。きっと、楽しい旅になりますね! ・・・では、後程」
続いて、今夜ぽふぽふするはずの胸が、去っていった。
いや、男装の(一部解除済み)ステラさんが、颯爽と身を翻した。
揺れたっ、揺れてました。 ・・・もう、いなくなちゃいましたケドね。
あぁ、我が手が届かぬうちに、って言うか、ステラさんも決断、はやっ!
流石、たとえ庶民並みに貧乏でも、元は貴族階級。俗世のしがらみを感じさせない、と言うか、おそらくは何も考えていない・・・。
「あ、あの。私も同行させて頂いて、良いでしょうか? 私も、アンネリーゼ先輩が如何してこんな箱を作ったのか、知りたいのです・・・。アルティフィナさん、皆さんと一緒に旅が出来るなんて、楽しみですね! では、私も自分の休学届を出して来ますので・・・」
わたしの腕をすり抜けて、ジェニフィー嬢も準備室を後にする。
えーと、アンネリーゼ嬢は別に、自分では木箱を作ってはいません。
そうか、やはりこの大学の生徒は、変だ々々と思っていたが、やはり即決ですか。
現役女子大生、恐るべし。
はぁ。
これで、今夜の『一緒に温泉に行こう!』計画は対象を失って、頓挫する事が確定した訳ね。
取り敢えず、わたしも、グレンの待つお店に帰るか・・・。
「アルティフィナさん、勿論、今夜は、私の部屋に泊まって頂けますね?」
ひぃえっ!?
何故か、その水晶の様な透明な瞳を爛々と輝かせ、アイリーン嬢が近づいて来る。
な、何かそこにあるのは、王族の気品とかカリスマ性というより、単なる肉食系の欲望だったりする気が・・・。
ロリ(一応、合法なはず?)に襲われるわたしって、如何なんだろう・・・。
ま、負けてはダメよ!?
サキュバスの誇りを思い出すのよ、アルティフィナっ!
お待たせしました、再開です!
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