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第42章

済みません、暫しお休み。

9月24日(木)再開予定です。

42.

運河を航行する荷船は船自体の推力に依らず、長いロープで繋がれた馬が引く事で進む。運河の両岸から均等に引けば最も望ましいのだろうが、街道は片側にしかないので一本の長大なロープに芋弦式に馬が並んでいる。概してこの世界の馬は頑丈な種が多い様だが、荷船を引くのは特にスピードよりも牽引力と体力を重視したのだろう、がっちりとした肢体の栗毛たちだった。先頭の馬にのみ、御者が跨っている。更にその前方には、ロープには固縛されない警護の騎士たちが露払いの為に伴走する。

警護の騎馬や船を引く馬の数は荷船の大きさに依るが、デヴラ商会の荷船はこの運河を通る事が出来る中では最大の船腹を持ち、全長20メートル全幅2.5メートルに達する。総勢20頭を超える馬の後ろから、大型の荷船がしずしずと進んでいた。


「如何やら、来やがったぜ」

そう言うグレンに、今更『何が?』と問う者はいない。わたしたちの目的は一つだけ、デヴラ商会の荷船の珈琲豆の強奪、・・・もとい、荷船にあるはずの密輸品を押さえる事。デヴラ商会の帳簿係であったウエンバンの命を奪う事となった、それなりの理由がそこにあるはずだった。

本当のところは、その先にあるデヴラ男爵の所業を暴く事が目的。下手な結婚相手では、わたしとしても安心してアイリーン嬢を託す事は出来ない。

何かしらね、多分、保護者として?

理由づけは、微妙なところではある。


「アイリーンさん、危なくなったら直ぐに逃げるのよ? シャーロットさん、くれぐれもアイリーンさんをお願いね?」

実は、この作戦の要は当初の予定から大幅に変更されていて、アイリーン嬢だったりする。

うーむ、成功したら成功したで、アイリーン嬢を図に乗らせる事になりそうで心配だ。

事を起こすのは、出城から少しルトビアの街に近づいた辺り。

運河から離れた街道沿いの草原には、中身のないツー・ヘッド・ティタノボアの皮が隠されている。その一方の咢は閉じた状態で縫い合わされていて、中の肉を取り出した時の(どちらかと言うと皮を剥いだ時の)裂け目も縫ってある張りぼての蛇の抜け殻だった。で、その抜け殻に『風の魔法』で空気を送り込む役が、有り余る魔力を有するアイリーン嬢という訳だ。

この際は少し魔力を枯渇させて、大人しくなってくれた方が良い。

それはそれとして、上手くすれば、びよーん、って感じで頭の一方が街道を進むお馬さんの前に伸びてくる。

うん、何かイメージ的に凄く美しくない、というか下品過ぎる。

やっぱり、止めようかしら・・・?

罪のない馬たちには申し訳ないが、某所の人気アトラクション顔負けの『突如、大蛇が襲い掛かってきた』迫力は、元が本物だけにかなり期待出来る。


「お任せ下さい。妃殿下の貞操はこのシャーロットが命に代えてお守り致しますので、ご安心を」

決意を新たに、シャーロット嬢が片手持ちの騎士剣を引き抜いた。

いやいやいや、それは如何でも良いから、まぁ良くはないけど、普通に命の方を守って下さいませ。

今日のシャーロット嬢は、ぶかぶかのケープの下に軽鎧を着こんでいる。赤髪の方は、相変わらずポニーテールだ。全体的に軽量でありながら、グレンのツー・ハンデッド・ソード程ではないにしても十分過ぎる程長い剣は、馬上からの斬り下ろしを想定した物なのかもしれない。ちょっとシャーロット嬢の太刀筋を見てみたい気はするが、それを見る様な事態は避けたいところだ。


「ステラさん、私は負けませんわ! それに、アルティフィナさんは、年上より幼女の方がお好みなのです。王族の名誉に掛けて、負ける訳には参りません」

いやいやいや、その発言は色々と間違っているし、問題がある、というより、もはや問題しかない。

まぁ、わたしの守備範囲は広いけど。

アイリーン嬢がステラさんに妙な対抗心を燃やしているが、『今日は、アイリーン嬢はこない』と踏んでいたステラさんが期待を外された事に起因する。飛び込んで来たアイリーン嬢とステラさんの間で、それぞれに腕を引っ張られたわたしは、危うく胴体が真っ二つに・・・、なる訳はないが、その場を収めるのに要らぬ体力を要してしまった。

・・・一体ナニを期待してたの、ステラさん?

大体、グレンもいるんだし。そもそも、今日は徹夜でお仕事だって、知ってるでしょう!?


「フッ、如何にアイリーン様といえど、その胸ではアルティフィナさんの心までも思い通りにする事は出来ませんわ」

ちょっと勝ち誇った感じのステラさんが、胸を張る。

えっ?

何か大きくなってません?

思わず、見入ってしまった。

「もう、男装には意味がないので、サラシを外してみました。アルティフィナさんは、そちらの方が好みかと・・・」

ステラさんが頬を染めて、熱の籠った視線で見詰めてくる。

えっ?

思わずこちらも、その瞳と胸の辺りを視線が往復してしまう。

で、でも相変わらず男装ですよね?

でも、胸だけはしっかり主張している、そのアンバランスな感じが・・・。

『きーーー!』と地団駄を踏むアイリーン嬢を、どうどう、とシャーロット嬢が宥めてくれている。

ステラさんの役割は、送り狼だ。混乱に乗じて荷船を引く馬たちの中に紛れ込み、『混乱を持続させる』事が目的。中々に危険な仕事だ。

て、いうかステラさんには、状況を混乱させる才能はあるらしい。もう少し後までその能力は、保留しておいてほしい物だけど。

さて。

いよいよ、お仕事、頑張りましょう!


済みません、暫しお休み。

9月24日(木)再開予定です。

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