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第24章

24.

酷暑がもたらすお店の売り上げの減少と、従業員増加に伴う諸経費増加に依る経営の危機的状況への対策として打ち出したのは、地味だが営業時間帯の変更と販路の拡大だ。

この季節、街に人通りが溢れるのは、まだ外気温が上がる前の朝市会場周辺と、夕暮れて日差しが和らいだ後の大通り。まずは朝市会場での出張販売、つまり出店の出店だ。これは中々に好評で、売り上げが大幅に伸びた。

問題は持ち帰り希望のお客様に対する、商品の持ち帰り手段の提供で、デポジット制(ビン代を保障金として預かる)を採用。この世界では貴重なガラスのビンは、実は珈琲や紅茶という中身その物よりも高い。つまり持ち帰り客は三倍以上の値段となるが、次に来店した時にビンを返してくれれば、ビン代が返金される。実はこれ、毎朝持ち帰って翌朝返すのを繰り返すという習慣化を促し、結果的に固定客が増えた。

しかも初めて朝市で商品を買ってくれたお客には、商品と一緒に『夕暮れ刻に、涼しい喫茶店でアイスティー/アイス珈琲は如何ですか?』カードを添えて手渡す。朝市で紅茶を頼む客には紅茶カード、珈琲を頼む客には珈琲カードを渡すという芸の細かさ。(やはり紅茶カードの方が捌けるので、わたしは意地で紅茶を注文のお客にも、密かに珈琲カードを渡していたりする)これで、夕方は店の方でリピーターが狙える。

そうなってくると、前後に営業時間が伸びた訳で、しかも日中は相変わらず客が来ない。もう、他店でもやっているが、日中は閉店にしてしまった。この日中の暇な時間はグレンでいろいろ遊んで・・・、とかは辞めて、わたしの副業に回す事にする。

で、早速、今一つ乗り気がしないので棚上げしていた、副業の方に手を付ける事になった。


「アイリーン様の一人目の花婿候補は、オークランド伯爵です。オークランド伯爵家は帝国議会に議席を持つ名門ですが、先代の時に領地は帝国に返上しておられます。ルトビアに於いては昨年末に前伯爵が亡くなり、現伯爵が後を継がれました。三人の花婿候補の中ではもっとも地位も高く、有望視されています」

珍しく、シャーロット嬢が饒舌な気がする。説明は淀みなく淡々とだが『お嬢様に関わる事は、全て頭に入ってます』そんな感じ。

逆に言えば、アイリーン嬢に関係ない事には限りなく疎い、とも言う。

如何やらアイリーン嬢本人よりも、その周辺の方がアイリーン嬢の結婚話に気合が入っている様だ。

大体、本人が納得しているならば戦争を起こそうなんて、考えないわよね?


「参ったな、その伯爵、かなりの女ったらしだって聞いたぜ? 街でも良い噂なんざ、聞いたことがない。そんなヤツの身辺調査って、大丈夫なのか?」

相変わらずオロオロと情けなくも、わたしの顔色を伺うグレンだった。

だから、もっとしっかりしなさいって!

『ぐぇっ!?』

脇腹に肘鉄を食らったグレンが、カエルが潰れた様な声を出す。

朝市での出店販売を撤収し街の南端の喫茶店に戻ったわたしとグレンを、アイリーン嬢とシャーロット嬢が迎えてくれた。流石にピンクの縁の伊達眼鏡に、ピンクっぽい金髪をツインテールにしたメイド姿の第四皇女を衆目に晒すのは憚られ、込み合う朝市での出店販売はわたしとグレンだけでやる事にした。なので、まだ大学が夏休みで授業のないアイリーン嬢たちは、先に喫茶店を開けて待っていてくれている。

相変わらず、お客は、こないけどね。

日中が休業なのか、単にお客がこないのか、微妙なところだけど。


「会ったこともないですが、オークランド伯は・・・、好みではありません」

ぼそっ、とアイリーン嬢が呟いた。

ちょっと!

そういう問題じゃ、ないでしょ!

いや、問題だけど。

わたしには、一応納得している様な事も、言っていたくせに。

会った事もないのに、だからこそ、調べるのでしょうが。

思わず睨み付けると、アイリーン嬢が慌てて目を逸らした。

どんなにメガネっ子でツインテールでフリフリのメイド服(スカート丈短め)でも、我儘は許されない。

ちょっとぐらいなら許しても良いかもしれないが、それは『それでは夕方の営業まで、一緒にわたしのベッドで午睡を取る事にしましょうね?』とか、誘ってからに取っておく事に決定。

何事も、TPOが大切なのよ?


「まずは頂いた紹介状を持って、伯爵家のメイドとして面談を受けに行ってみます。わたしが不在の間は、済みませんが一旦アイリーン嬢をこの店に送り届けてから、グレンとシャーロット嬢で朝市の方をお願いします。グレン、アイリーン嬢とシャーロット嬢に手を出したら、切り落とすからそのつもりで」

何をか、は明言していないが、ナニですね。

シャーロット嬢に準備して貰った紹介状には、わたしが王城に付随する後宮で、優秀なメイドをしていた旨が書かれている。伯爵の身辺を洗い、裏が取れたら適当なところでお暇を頂くという、完璧なプランだった。

正直なところ、わたしの親切な忠告に真っ青になっているグレンの方は、余り心配はしていない。

そもそも、グレンにはそんな度胸はない事は、わたしが良く知っている。

問題は、残された人員で折角上向きかけたこの店の経営が、ちゃんと切り盛り出来るのか、それが心配だわ。

でも、それもお仕事。

皆、頑張るのよ!

あ、まずは昼寝しよ・・・。


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