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第19章

19.

群れなすスケルトンを、一体々々叩き潰す。

暴風の如く振り回される錆びたモーニングスター(よく肩が外れないものだ。外れても、直しやすそうだけど。スケスケで丸見えだし)を掻い潜り、頚椎に直接、特殊警棒の棒先を突き入れる。

吹き飛んだ頭骸骨が仲間のスケルトンたちの頭上を舞い、残された首から下も力を失ってガラガラと崩れ落ちる。

囲まれなければ、わたしだけなら多分、何とかなる。

だが、困った事に今は右手に特殊警棒、左手にアイリーン嬢。アイリーン嬢は押し寄せるスケルトンに怯んで、城へと逃げるタイミングを逸してしまった。

一時は茫然自失のていだったが、今はわたしの動きを邪魔しない様、それでいてわたしから離れ過ぎぬ様、上手く立ち回ってくれている。

流石王族、立ち直りが早い。

因みに、アイリーン嬢もネグリジェでスケスケ。

関係ないか。

そして、おそらく百体はいるだろう猛り狂うスケルトンの向こうには、上級魔族と思しきアルネリーゼ嬢が、赤い淵の眼鏡の奥から真紅の瞳を見開き、じっとわたしを見詰めている。

恥ずかしいので、止めてほしい。

それは、それとして。

未だ眼鏡を取らないのは、アルネリーゼ嬢は、・・・実はメガネが好きなのかもしれない。


「し、しまった・・・」

押し寄せるスケルトンの動きに、思わず釣り出されてしまった。

通路を埋め尽くすスケルトンに、わたしとアイリーン嬢の間に割り込まれてしまうのは致命的だ。

まずい、アイリーン嬢との距離が開く。

今なら引き返せるが、前方のスケルトンに自分の背中を晒す事になる。

「ええい、儘よ!」

前方のスケルトンの腰骨を蹴って居並ぶスケルトンたちに蹴り倒し、身体を捻って向きを変える。

わたしを見詰めるアルネリーゼ嬢の口元が歪んだのを、視界の隅で捉える。

待っていたのだ、アルネリーゼ嬢は。

こっちより、能力的にずっと優位な癖に。上級魔族、エゲツなさ過ぎる。

熱い視線に思わず背中がぞわっ、とした、その時。


「ギャーっ!?」

突如背後から、悲鳴が聞こえた。

駆け寄る先のアイリーン嬢が、キョロキョロと周囲を探っているが、少なくともアイリーン嬢の身に何かがあった訳ではなさそうだ。

勿論、わたしはあんな、下品な悲鳴を上げたりしない。

下品よ、下品。

となると悲鳴を上げたのは、勝利を確信し口元にはイヤラシイ(かなり主観が入っているけど)を浮かべたはずの、アルネリーゼ嬢だ。


「お嬢さん、こんなところで、如何されましたかな?」

聞こえて来たのは、多少、狂気が混じっている気もするが、実に品の良いイントネーションだった。

この渋い声、聞き覚えがある!


「あっ!? おじさまっ!? 助けて、おじさま!」

怯えるアイリーン嬢を抱き締めつつ振り返ると、寮に着いた時にわたしを案内してくれたデュラハンのおじさんだった。

そりゃあ、普通は驚くわよね。話し掛けてるのは、左手に持った生首だし。但し兜を被っているので、それ程エグくはないのが助かるけど。

右手の両刃の剣からは真っ赤な血が滴り、鋼鉄製の甲冑の胸にも飛び散った鮮血が滑る様な模様を刻んでいる。スケルトンは幾ら切っても血が飛び散る事はない訳で、鮮血の主はおじさまの横で左腕を失い膝をつくアルネリーゼ嬢だ。

あのぉ、何があったのでしょう?

だが、正直、敵の心配をしている場合ではない。


「おお、このベルゼンクラーク、お美しいお嬢さんの為なら、身を粉にして働きましょうぞ。さぁ、さぁ、いざ参らん!」

おぉ、流石、準ボスキャラ。

しかも、固有名詞あったんだ?

もはやアルネリーゼ嬢には見向きもせず、周囲のスケルトンを次々と屠り始めた。

だが、上級魔族ともなれば、片腕を失ったぐらいでは勝ったとは言えない。おじさんだって、首切れてたって気にしてないでしょ?

だけど、チャンスだ。

さぁ、もう少しだけ、お仕事よ!(もう、早く終わらせて、お家帰って寝たい・・・)


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