表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/91

第13章

13.

王立ルトビア魔法学大学校の女子寮ともなると、普通に遊戯室がある。置いてあるのは卓球台、・・・ではなく、如何やらビリヤード台の様だ。(一応、温泉があったので卓球台とか、ビン詰めのコーヒー牛乳とか出てきても驚きはしないけど)

台はポケットのない四つ玉仕様で、壁には大きなキューラックが掛けられ、使い込まれたキューが並んでいる。

むぅ、これは、良い。

わたしも前世で学生をしていた頃は、大学の講義の隙間でこの手の店に通っていたものだ。自分のキューを持ち込む様な連中(この手の輩は、そもそも大学の講義には出ていないので、根本的に費やす時間数が違う)には勝てなかったが、そういう連中は流行のポケットばかり。古き良き四つ玉好きの連中の中では、わたしはそれなりの腕前だったと思う。

もう一度、こちらの世界で学生生活をエンジョイするのも良いかも。

・・・サキュバスの身では、入学は無理そうですけどね。


「うん、これは・・・、何もないわね」

部屋は、良い。

良いのだが、少なくとも怪しいところはなさそうだ。

ついて来たがるアイリーン嬢を宥めすかして如何にか部屋に止め、遊戯室の場所だけを聞き出すのには、それなりに体力(と、テクニック)を要したのだが。先程のお返しとばかり改めて愛でさせて貰ったのだが、如何やってもこうやってもアイリーン嬢の理性は奪えない。もう、サキュバスとして自信過失してしまいそう。何か、アイリーン嬢のわたしへの執着を強めて頂いただけの様な。

そこまでして頑張った割には、この遊戯室では余り収穫があったとは言えない。

まぁ、世の中、何時も努力に見合った成果があるとは限らない。不本意だが、一旦、アイリーン嬢の部屋に戻ろうかしら。

大人しく、もう寝ていてくれると良いのだけど。


「おや、見掛けないお嬢さんね?」

ビリヤード台の木製エプロンに腰掛けて(本当は、これはマナー違反。スレート面の水平を保つ為。でも、今のわたしは体重も軽いので、きっと大丈夫?)足をぷらぷらと部屋を見回していたわたしの背中に、柔らかな声が投げ掛けられた。

ゆっくりと振り返ると、出ました!

メガネっ子の幽霊!(因みに、眼鏡の縁は赤だ)

あ、でも足は、ちゃんと?ある。


「『俺の背後に立つな』とは言わないけれど、何時の間にそこに来たの? あなた、全然気配がしなかったのだけど?」

気配がしなかった、ではなく。今でも気配がない。

こ、これはちょっと、ヤバい系?

ゴーストとかレイスとか、少なくともスケルトンでもない。当たり前か。

気配はないが、部屋の気温が少し下がった気はする。

で、それって、まさか『本物』って事はないわよね!?


「ふふっ、やっぱりあなた、私が見えるのね? 皆、私の存在は感じるのだけれど、私の存在その物を見る事が出来る娘は、あなたが初めてよ。私はアルネリーゼ。あなたは誰?」

幽霊にはお似合いの?水色のワンピース。

薄いブラウン掛かった金髪は、肩の辺りで切り揃えられている。ジェニフィーさんが見せてくれた絵の中の少女そのままに、ブラウンの瞳がわたしを見つめる。

多分、アイリーン嬢に匹敵する美少女だが、この大学でも既に研究過程に進んでいるという彼女の年齢は、わたし(の外見)よりも大分、上の様だ。

うん、一応わたしの守備範囲は広いので、問題ないですけど。

少なくとも今は、それは問われていなかった。


「わたしはアルティフィナ。ジェニフィーさんたちに頼まれて、行方不明になったあなたを探しに来たの。女子寮の子たちは寮で幽霊を見たっていうから、何かあなたに関係があるかと思って寮の中を探していたの。教えてちょうだい、今のあなたには気配がないわ。今わたしが見ているのは、あなたの影。本当のあなたは何処にいるの?」

アルネリーゼ嬢に問いかける。

その時、アルネリーゼ嬢がわたしに見せたのは、何か悲しみだったのだろうか?

浮かべたその微笑には影がある、そんな気がした。


「そう・・・。でしたら、図書室に来て・・・」

そう言い残すと、メガネっ子もとい、アルネリーゼ嬢の影は、ふっ、とかき消す様に消え去った。

・・・これは、微妙だ。

本人が言うのだから、そこにいる、若しくはそこに、何かがある。

女子寮の女の子たちが見た幽霊騒ぎの原因が彼女なら、彼女はいったい図書室で何を?

だが、素直にそこに行くのは、飛んで火に入る何とやら。

まぁ、行くしかないわよね?

一応、お仕事(かなり趣味)だしね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ