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第10章

10.

わたしが連れ込まれた?アイリーン嬢に割り当てられた寮の一室は、仮にホテルの部屋でいえばツインのスーペリア、スイートルームには劣るが十分に広く長期の滞在でも宿泊客が圧迫感を感じない位に広い。古風なゴシック調の寮の食堂に比べると少しモダンな感じで、より過ごし易い気がする。地下の迷宮の跡に作られたので窓こそないが、わたしの店の二階の生活空間全てを合わせたよりも広かった。しかも窓を模した壁紙の向こうで、月明かりに照らされた草木が揺れている(様に見える)、よくよく確かめなければ魔法によるフェイクとは分からない。これ、多分、時間帯によって外の景色が変わるのだろう。

ほ、本物の窓があるから、わたしの勝ちよ! と内心で拳を握り締める。

ふぅ。あ、あっちの壁の額の絵、報酬にくれないかしら・・・。


「あ、このピンクのネグリジェ、素敵! 下着はこれね? む、むっ、黒とは、色っぽいわね・・・。黒の下着にピンクのネグリジェかぁ、流石アルティフィナさん、侮れないわ。こっちのバスタオルは、浴場にもあるから持ってきた分は、濡れたままベッドに腰掛けたりする時にでも使う事にして、今日は使わなくて良いかしら?」

うん、確かにバスタオルは入っていたらしい。

後、枕は抱えて来たから、ある。それは知っている。それしか知らないとも言う。枕は既にわたしの手を離れ、わたしに割り当てられたベッドの上に移動しているが。

わたしは枕同様にベッドの上に放り出され(別に本当に放り投げられた訳ではないけが)、代わりにわたしの荷物がアイリーン嬢のベッドの上に広げられ、厳しい検閲を受けている。

へぇ、わたし、あんなネグリジェ、持ってたんだ。あ、グレンが買ってくれたんだった。・・・着たことないけど。

って、グレンてば、どんな顔して買ったのだろう?

想像してみるに、それって、危なくない?

着ないので気にもしていなかったが、実はグレンは変態だったのかも。恋人が変態に育ってしまったとしたら、それはひょっとしてわたしの責任なのかしら?

頭が痛くなってきた。


「これは、何かしらね? 」

ジェニフィー嬢が下着とタオルの間から、長さ30センチ程の黒塗りの金属製の棒を掴み出した。あぁ、それは今夜は周りじゅう女子ばかりなので、慰み様に・・・。そんな訳はない。かつて、わたしがドワーフの鍛冶屋に特別注文で造って貰った、特殊警棒だ。


「ああ、それは特殊警棒、えっと、折りたたみ式の棒術の棒です」

軽く振ると1メートル程の棒になる。そして棒術の基本は、至ってシンプルだ。つまり、その棒を、思い切り敵の頭に叩き込むこと。


「凄いですね! アルティフィナさんは騎士みたく、この武器で魔物と戦うんですね?」

人間からすると、所詮魔物も魔族も一緒。魔族が魔物を従えている様に見えているらしいが、わたしの命令を魔物が喜んで聞いてくれるかというと、けしてそんなことはない。そうなら楽なのだが、先程のゴーレムの様に知性が無かったりすると、わたしの『誘惑』の対象外だったりする。

そんな時こそ、その特殊警棒の出番! なのだが、残念ながら普通に考えて、いくら金属製でもゴーレム相手にわたしの腕力では、役に立たない。


「ごめんなさい、それは無理です。その棒は護身用ですから・・・」

特殊警棒には他にも使い様はあるが、余り無理の出来るものではない。そもそもわたしの場合、基本的に荒事はグレンに任せる事にしている。そうでなければ、あのでかい体が無駄だと思う。無駄よ、無駄。大体、毎晩押し潰される、こちらの身にもなってほしいものだ。


「分かりました。心配しなくても、可愛いアルティフィナさんには、私たちが指一本触れさせませんわ!」

アイリーン嬢の決意表明に、寮生たちが頷く。

いや、わたしはこの寮に出るというメガネっ子幽霊に会いにきたというか、問題事を解決すべく来たのであって、この娘たちに守られに来たのではないのですが。

何かもう、本末転倒となりつつある。

良いのか、わたし?

「さぁ、アルティフィナさんの替えの下着も準備したし、早速アルティフィナさんを洗って差し上げましょう!」

へっ?

な、何か、愛でるつもりが、愛でられる方になりつつある気が・・・。


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