第44話 鈍感主人公は流行らない
本日からカフェふりーは、『この異世界やばすぎわろた』通称、『このやば』のコスプレイベントが開始した。それと同時に月影彩芽の初出勤となる。
俺は主人公のアズマのコスプレで、クーネスのコスプレをした月影さんの接客を見守っている。すっかり新人教育係になっちまったなぁと思いつつ、有紗と違ってしっかりと接客をしている様子に安堵の息が漏れる。
「自由きゅん。これ、まじ、っぱなくない!? 可愛すぎてウケるんですけど」
俺が月影さんの接客を見守っていると、魔女っ子スタイルの有紗が嬉しそうに隣にやって来る。
有紗のコスプレは、このやばの魔法使いくくりんのコスプレ。ギャルプラス魔女っ子の破壊力ときたら、癖に刺さる。
「確かに似合ってるな」
「でしょでしょ☆」
褒めると素直に嬉しそうにギャルピースで返してくる。陽気が過ぎるよ、この魔女っ子。
「ねーねー。私はどうかなー?」
俺達の会話に入って来た佳純は、このやばの女神マリンのコスプレをしていた。
ほんと、この子、見た目だけは女神級だから恐ろしく似合っていやがります。
「佳純も、っぱなく似合ってるよ☆ やっば、あーしらガチでヴィジュ最強♪ ガチ卍」
有紗は息をするようにスマホを取り出し、パシャパシャとふたりで自撮りを始めやがった。
「業務中のスマホは禁止だぞー、有紗」
「わたしは有紗ではない。我が名はくくりん。天才大魔法使いで最強魔法を操りし者。っしょ☆」
「惜しいな。最後の最後に有紗が入っちゃった」
「くくりんの役、むじぃ」
そんなやり取りをしていると、「すみませーん、くくりーん」とお客さんがくくりんをご指名する声が聞こえてくる。流石は作中№1キャラ。このカフェで一番クオリティの高いクーネスよりもくくりんの方が声がかかりやすい。
「呼んでるぞ、くくりん」
「イエッサー。インフェルノでまっしぐら」
なんか色々と間違っているくくりんだが、お客さんはあまり気にしないのか、「写真良いですか?」とお願いして、「全然よきまるっすよー」なんてくくりんが言いそうにないセリフなのに、「わぁ、ありがとうございます」なんて喜んでおられる。これが作中№1人気の実力なのか。有紗の実力関係ないけど。
「ね、自由くん。今回の私のコスはどうかな?」
くくりんの人気に圧倒されているところで、隣の女神様が改めて聞いてくる。
「あ、ああ。似合ってるよ」
「……それだけ?」
どうやら感想がしょぼかったみたいで、ご不満な顔をしておられる。
「えっと……女神っぽい佳純にぴったりだよ、とか?」
「なんで疑問形なのよ」
呆れながら彼女は軽く、くんくんと鼻を鳴らした。
「ま♡ まぁ♡ 本当に似合ってるって思ってくれてる匂いだから♡ 今回はそれで許してあげる♡」
「ちょっと待て。匂いで俺の感情がわかんの?」
「ふふ♡ 自由くんの匂いは♡ 単純だからね♡」
それって俺の心を読むのに等しいことなのでは? 待て待て。ますますラスボス感が漂って来てんぞ、このラスボス様。
「やめろ。お前はやっぱり嗅ぐの禁止!!」
「禁止されると萌えるタイプ♡」
「んがほぉぉぉ!!」
このラスボス様の返しに地団駄しか踏めない。
そんな光景を見たお客さん達が、「おおー!!」と歓声があがる。
「流石はアズマとマリンだ」
「今のやり取りも原作っぽい」
「流石の夫婦漫才」
パチパチと拍手をくれる中、佳純が、「どうもー春花秋月」と言いながら接客に向かって行った。あかん、あかん、俺も働かないと。
そうは言っても、やはり作中で人気なのは女性キャラ達。一応主人公のコスプレをしているが、俺の人気はあまりない。ロロックをやっていた時が俺の中で一番人気のピークだったなぁとかちょっと寂しい気がする。あのコスプレをしていた時は脳汁垂れ流しボンバーだったよな……。あの快感は忘れることもできない……。でも、盛り上がっている店内を見渡すと自分の人気なんてどうでも良く思える。少し前までの光景とは思えない、な。
「少し前までの光景とは思えない繁盛だよね」
「……お前まで俺の心読むのか、色葉」
「お前まで?」
「いや、なんでもない」
いつの間にか隣に立っていた色葉は、くくりんの友人キャラである、ぼちちに扮していた。相変わらずクオリティの高いコスプレをしておられる。
「自由くんがなにを考えてるのかなんて表情を見ればわかるよ。幼馴染なんだし」
「こえーよ、幼馴染」
「自由くんだって色葉の顔見て、大体わかるでしょ?」
そう言われて、「まぁな」とすぐに肯定できる辺り、俺達の絆って深いよなぁとか思ってしまう。
「本当に色葉のおかげだよ、こんなに繁盛したのは。ありがと」
「色葉はなにもしてない。ただ自分の好きなことをしただけだよ」
「その、自分の好きなことをしただけってのが結果、他人を、店を救ったんだ。だから、ありがとう。これからも一緒にやっていこうな」
「……そういう無自覚な発言はやめた方が良いよ」
「無自覚じゃなくて、自覚ある礼なんだけど」
「鈍感過ぎる主人公は流行らないよ」
「どういう意味」
「そういう意味」
そう言って、ベッと舌を出して仕事に戻る色葉はなんだか色葉らしくなかった。
あ、色葉の奴、役になりきっているのか。
でも、ぼちちってあんな役だったっけ?




