第43話 導かれし変態たち
「みんなー、お疲れ様ー。ちょっとだけ集まってくれるかなー」
本日最終日である、『俺の妹が同級生なわけがない』のイベントが終了したカフェふりー。
親父が労いの言葉を放ちながら従業員を集めた。バックヤードにいる色葉を除き、俺達従業員は素直に親父の言葉に従ってテーブル席に腰を下ろした。
「はい、ということで、今回のイベントも無事終了しました。みんな、ありがとうございます。特に水瀬さん。メインで頑張ってくれてありがとう」
「いやー、あーしなんか失敗ばっかで……」
「確かに失敗は多かったかもしれないけど、その分理解力があって同じ失敗は繰り返さなかったよね。それが成長しているってことだよ」
「成長……してるんすかねー」
「してるよー。これからもよろしくねー」
「えへへ。よろしくお願いします」
親父に褒められて嬉しそうにしている有紗。そりゃあんだけ仕事ができないと落ち込んでいたところに、店長から成長してるって言われたら嬉しいか。
「雪村さんもありがとう。キャラになりきってくれてすごく助かったよ」
「ありがとうでござる」
佳純のやつ、まだキャラになりきってやがる。
「えー、じゃあ当初の予定通り、今回で、『俺の妹が同級生なわけがない』のイベントは終了。それで次回なんだけど……」
そこでチラリとこちらを伺うように親父が見てくるので、コクリと頷いて立ち上がった。
「次回のコスプレ案、決まったの?」
佳純が牛乳瓶の蓋みたいな眼鏡を外し、髪をかき分けた。
あの、佳純さんやい。その、眼鏡を外したら超絶美少女で、しごでき女子が仕事終わりにやるような仕草、正直にどストライクだからやめていただきたい。ときめいてしまう。
「決まったんだ。次はなにすんのー?」
さっきの褒められたテンションを引きずって有紗がキラキラの眼差しで見てくる。
ギャルが純粋な目で見つめてくるな。ギャップでどうにかなりそうになるだろうが。
コホン。切り替えるようにわざとらしく咳払いなんか一つ。
「みんな、次回のコスプレ案はこれでいきたいと思うんだ」
俺の合図と共に、バックヤードから色葉と、コスプレをした女性がやって来る。
「色葉、ありがとな。俺に任せろとか言ったのに、結局色葉に頼っちまって」
「むんふー」
あ、この子、鼻息荒くしてて、全然こっちの話し聞いてないや。
「自由くん。こんなほぼ完成系を連れて来て、んもう♡ こんなのまんま、『この異世界やばすぎわろた』のクーネスじゃないですかー♡」
どうやら色葉は癖を発動されておられるみたい。
「『この異世界やばすぎわろた』通称、『このやば』は、引きこもりのニートが異世界に転生するテンプレ王道物。しかし、主人公のアズマを筆頭に女神マリン、魔法使いのくくりん、女騎士のクーネスの全員が狂っている、ギャグとテンションぶち上げのドタバタコメディファンタジーです。私も大好きな作品で、んもぅ、このクーネスの出来といえば、夏コミでも通用しちゃうハイレベル♡ やっべ、よだれが──♡」
勝手にアニメの概要を説明してくれた色葉。夜のテンションでぶち語っておられ
る。
「えっと、そのクーネス? のコスプレってもしかして……」
「うぃ。彩芽じゃーん」
佳純と有紗は一瞬で誰がコスプレをしているのかわかったみたい。速攻でネタバラシとなる。
「そうそう。みんな、さっき面接した月影彩芽さんがこの店で働くことになったよ」
月影さんの登場で親父が軽く説明してくれる。
「今日、面接して、仕事現場を見学したいって言ってくれたんだけど、色葉ちゃんの目が輝いちゃって、今日はクローズ時間に次回のコスプレ案のお披露目って形で初出勤してもらったよ」
親父の説明を聞き終え、佳純はそんなに驚きはないみたいだが、有紗が予想外だったみたい。少しばかりびっくりしている様子だ。
「え? え? どしたん、彩芽。彩芽ってコスプレとか興味あったん?」
「それはこちらも同じ。佳純も有紗も、まさか降井くんの店で働いているとは思わなかった。いつから働いていたの?」
「最近だよ」
「あーしも最近」
「……良かった。私だけ仲間はずれにされていると思った」
「そんなことするはずないっしょ」
「そうだよ。彩芽だけハブるとかあり得ないから」
「二人とも……」
ここに女の友情が更に深まった瞬間を見た気がする。
「それじゃ彩芽も仲間に加わったなら、秘密、喋っとこうか」
あ、うん。その空気をぶち壊したのはやはりラスボスだったか、佳純。
「え!?」
クールビューティな月影さんが普段あまり出さない声を出した。
「秘密ってなになにー?」
有紗が興味津々に二人の顔を見比べると、佳純が容赦なく言ってのける。
「この子、ドMの雌豚よ」
「ちょ、佳純!?」
いとも簡単に秘密をバラされた月影さんは手で顔を覆い、恥ずかしそうにしている。しかし俺にはわかる。こりゃまんざらでもないって感じだわ。
「へぇ、そうだったんだ」
有紗がなんともまぁうっすい反応をするもんだから、月影さんは覆った手の隙間から顔を覗かせて彼女へ問う。
「引かないの?」
「親友をそんなことで引くはずないっしょ。それに──♡」
完全に油断していた。まさか急に有紗がばぶみを発動するなんて思いもしなかった。
「わたしなんてばぶみのしょたコンなんだしー♡ ねー♡ 自由きゅーん♡♡」
「んんんー(やめろー)!! んんんんんんんんんんんんんー(親の目の前でやめてくれー)!!」
天国と地獄に一番近い場所からの俺の嘆きは、「そうそう」という佳純の声にかき消されてしまった。
「くんくん──はぁぁ♡♡ くっさぁ♡♡ 最近、女の子とばかり絡んでる自由くんの匂い、やばぁ♡♡ くさすぎて脳天逝っちゃうぅ♡♡」
相変わらず、俺を助ける気のない佳純の発言は、ここ最近鋭くなっている気がする。臭いって言われるの地味に傷つくんですが。
「有紗……佳純……」
月影さんは今の状況を噛み締め──
「だったらぁ♡ 私もドM発動して良いんだよね♡」
感動のドMを発動しましたとさ。
「降井くん……私にもキツイの頂戴♡」
「んんんんんんんん(よく見ろクソアマ)!! んんんんんぅんんんんんんんんん(こちとら窒息しかけてんだよ)!!」
「ぶっひ♡ 相変わらず強い、言葉♡」
クーネスのコスプレのまま、月影さんはドMを発動させていた。つうか、今のでなんで伝わるんだよ。つうか助けろよ!!
そんな俺の思いは届かず、そのまま幸せにブラックアウト。
「なんか、僕の店に変態な子ばっかり集まってくる」
「ですねー」
親父と色葉はいつもの光景と言わんばかりにまったりとクローズ作業を開始していた。




