第42話 雌豚すかうと
国語の授業をサボった俺達は、国語の担当先生からお叱りを受け、無事に放課後居残りが確定してしまった。
俺と月影さんはクラスメイト達が帰った教室で、ふたり、本日みんなが見ていた動画を、先程国語担当の先生から借りたノートパソコンで再生し、隣り合って見ている。
一つのノートパソコンをふたりで隣り合って見ているもんだから距離が近い。
至近距離なため、月影さんの匂いがダイレクトにやってくる。月影さん特性の天然アロマが俺のノーズにクリーンヒット☆
──あかん。俺、最近佳純に毒されているな。
「こ、こんなことになるなんて最悪だよなぁ」
変態的思考を遮断しようと、動画の途中に彼女へ話を振ってしまう。
「くっ。気配を置いたはずなのに……自分が実力不足が情けない……最悪」
どうやら俺と彼女の感性にはかなりのズレがあるらしい。本当に気配を置いていけるとでも思っていたのだろう。
「そういえば、忘れ物を取りに行ったと言っていたよな。なに忘れたんだ?」
「ノートと間違えて履歴書を持って行ってしまった」
「りれき、しょ?」
どんな間違いだよと一瞬時が止まりかけたが、彼女が話の流れで紙の履歴書を見してくれる。
「紙の履歴書じゃん」
つい珍しくって声に出てしまった。
「最近はもっぱらアプリってイメージだけど、まだウチみたいに紙の履歴書で募集してるところってあんだな」
「あ、そうだ」
自分の履歴書を見てなにか思い付いた月影さんは、そのまま履歴書を俺に手渡してくる。
「なに?」
「降井くんってバイトしてるよね。中々バイトに受からないから履歴書を確認して欲しい」
「いや、俺はバイトというより家の手伝いだ。履歴書を書いた経験なんてない」
「それでも私より先に社会を経験している。先輩」
ここで押し返しても引かなそうだな。それと、こんなクールビューティーから先輩って言われてちょっぴり嬉しかった。
「あんま良いアドバイスはできないぞ」
「全然構わない」
保険をかけた言葉に、それでも良いと言うのなら、彼女の履歴書を拝見するとしよう。
それにしても、履歴書に貼られてある証明写真は大体どんな美人でも多少なりとも崩れるってのに、この学園の三大美女のクールビューティ担当様ったら証明写真でもお美しいこって。
この見た目なら接客業は引く手あまただろうに、受からないなんて不思議だな。
──あ、醸し出される雌豚感を見抜かれているとか。
「別におかしいところなんて(中身が変態以外)ないけど、強いて言うなら志望動機がネットから拾ってきてるって印象だな」
「やはり……そこがダメ……」
「ダメってこたぁないけどさ。志望動機なんて小遣い稼ぎだろ? それを深く書けってのは酷な話しだよな」
こっちの浅くて軽い感想に月影さんはふるふると首を横に振った。
「小遣い稼ぎじゃない」
「なんか理由があんの?」
「お父様に社会経験をしろと言われた」
「お父様って……月影さんは良いところのお嬢様とか?」
「……ぼちぼち」
否定しないってことは、この子ったらもしかしてかなりのボンボンとか? でもまぁ納得だわな。見た目の雰囲気からお嬢様感は出ているし。
「社会経験しろってことはバイトはなんでも良い感じ?」
「くノ一かアサシン」
「どんな志望だよ!!」
「そこでより気配を置く訓練を励みたい」
「今日の気配を気が付かれたの相当ショックだったのね」
「悔しい……」
まるで気配を置くことに青春を捧げたみたいな悔しがたをしてらっしゃる。どんな悔しがり方だよ。
「そんなバイトなんてありません」
「ワンチャン?」
「ねぇよ」
割とまじで言ってそうだから怖いんだよ、この子。
「だったら異世界で魔法を使うバイトをしたい」
「なにを、妥協してます、みたいに言ってんだよ。異世界なんて行けるかっ」
「降井くんだってさっき異世界転生したと思ったくせに」
「くっ……」
そういえばこの子ったらさっきの俺の様子を全部見ていたんだっけ。恥ずかしくて死にそうだわ。
「つ、月影さんは、さっきも異世界転生と転移の違いを教えてくれたけど、異世界系とか好きなの?」
「好き」
「だったら本屋とかは? そういうラノベに囲まれて仕事するとか楽しそうじゃない?」
「ふっ。甘い。既に本屋は3回落ちている。精神はズタボロ」
「なんでそんな堂々と言えるんだか……」
異世界好きのお嬢様がドMねぇ。そういえば、異世界もののアニメにドMのお嬢様があったなぁ。あれも結構人気で、月影さんがそのキャラにそっくり──。
「あ……」
思い付いた事柄に対して、つい声を漏らしてしまった。そんなもんだから、月影さんが首を傾げている。
「月影さん。変態が集まるバイト先に興味ない?」
「え、な、なに、いきなり、へ、変態?」
「アットホームな職場。気の合う仲間と一緒に働いて稼がないかい?」
「全てお父様が言っていたブラック企業が使う単語が含まれている」
「ブラックなんてとんでもない。ウチはピンクだ(ある意味)」
「変態、ピンク、コスプレカフェ……」
ピキーンと閃いた月影さんは身体を隠すような仕草をしてみせる。
「わ、私に、えっちな格好させる気!? エロ同人みたいに、エロ同人みたいに♡♡」
「なにをとろけた顔して嬉しそうに言ってんだよ!! んなことさせるかっ!!」
「わからない……私にあんなことや♡ きょんなことをぉ♡」
はい、簡単にドMスイッチ入りました。今日何回ドM発動させるんだよ。
「でも、今回はそれで良い。その感じが俺の思い描いたコスプレのキャラに近いぞ」
「ああーん♡ やっぱりエロ同人みたいなことさしぇるんだぁぁ♡ やりますー♡ あやめ、バイトしましゅゅ♡」
「やんのかいっ」
でも、それは大助かりだ。月影さんが入ってくれれば今回のコスプレ案は必ず成功する。
本人もちょうどバイトを探していたから良いだろう。
俺の発案が成功する未来を思い描くと今からわくわくするな。
──とか言ってる場合じゃなかった。
感想文のことをすっかり忘れており、俺達は追加で怒られてしまった。
コスプレはまた次回にお預けである。




