第39話 ゆびきりげんまんなんて懐かし過ぎて微笑ましい
『俺の妹が同級生なわけがない』のイベントも、そろそろと終了させようかという話になったカフェふりー。閉店後にはいつも通り、店長の親父と従業員達が集まっての話し合いが行われていた。
「色葉。次回案はどうする?」
いつも通りに話を振ると、こっくり、こっくり船を漕いでいた色葉が数秒遅れで反応する。
「あ、え、えと、ご、ごめんなさい。な、なに?」
「疲れてる?」
「だ、だだ、大丈夫、です」
大丈夫と言わんばかりにガッツポーズを取る色葉だが、長い前髪の奥には疲労が見えていた。
「僕達はなんでもかんでも色葉ちゃんに押し付けてしまっていたようだ」
色葉の様子を見た親父が悔やむような顔をすると、ペコリと彼女へ頭を下げる。
「すまない。色葉ちゃん」
「あ、い、いや。べ、別に疲れてはいないというか……」
「色葉、ごめんな」
親父に続いて俺が謝ったあと、佳純と有紗も頭を下げる。
「七式さんに頼りっぱなしで、ごめんなさい」
「七式パイセン。まじ、さーせん」
「ちょ、まっ、ちがっ……」
優しい色葉のことだ。そうやって否定してしまうのだろう。本当に俺達は、特に俺と親父は色葉の力に頼りすぎている。
「親父。次回のコスプレ案は俺が決めても良いか?」
「ぬ……」
腕を組んで、ギロリと俺を見てくる親父。そりゃそんな目にもなる。
俺達がしているコスプレはお遊びのコスプレではない。生活がかかっているコスプレなんだ。コスプレカフェに切り替えてから売上は上がった。それはお客さんがクオリティを評価してくれたり、また来たいと思ってくれたからだ。コスプレのクオリティに加え、学園の三大美女が二人も入ってくれたことも大きい。色葉だけでも凄かったのに、二人のヴィジュアルが加わることで、更にカフェふりーは盛り上がっているんだ。もう中途半端なことができないところまで来ているもんだから、親父も俺も真剣に考え込む。
「正直、僕と自由はコスプレに関して同じレベルだと思うんだよね」
「それはそうだな」
「だったら、雪村さんや水瀬さんに案を出してもらうのはどうだろうか?」
「佳純と有紗……」
俺は二人を見比べる。
……あ、あかん。佳純の頭の中は匂いでいっぱいだろうし、有紗の頭の中はばぶみでいっぱいって顔をしてやがる。こんな変態共に俺達の生活を賭けたコスプレなんか任せられない。
「いや、ここは俺に任せてくれないか」
「……まぁ、自由がそこまで言うのなら良いけど」
「任されよう」
ドンと胸を叩く。今回のコスプレ案は俺で決定になった。
♢
有紗がバイト仲間になる前までは佳純を家まで送っていたが、有紗が入ってくれてからは二人いっぺんに親父が車で送ることにしている。二人の家の距離はそこまで遠いものでもないし、従業員を守れるのならばと言うのと、夜のドライブが好きな親父が、趣味のついでに二人を送ってあげている。
なので、色葉を送る日々に戻った俺は、たった数歩の距離だが、バイト終わりに彼女を送ってあげることになった。
「体調は大丈夫なんか?」
最近、変態達に捕まってばかりで、幼馴染との会話が減ってしまっていた。たった数歩の距離だが、色葉へ話を振ると、ぶんぶんと首を横に振る。
「ち、違うの。た、体調が悪いとか、ひ、疲労が溜まってるとかじゃなくて、その……き、昨日、夜更かししちゃった、だ、け」
ボソボソと顔色が良くない理由を教えてくれて、そのまま続けて教えてくれる。
「な、夏コミが、ち、近くなってきたし、こ、コミケのコスプレの動画見てたら、止ま、らくなって、昨日、寝てなくて」
「あー、ね」
そういうことか。
夏コミってのは詳しくないが、漫画を売るだけじゃなくてコスプレも盛り上がっているらしい。
「そういえば、去年は出なかったのか?」
「わたた、色葉如きが恐れ多いでございまするする」
すんげーナチュラルなオタク語を聞いた気がする。やはり佳純や有紗は根本が陽キャだから無理があるんだよな。色葉こそオタク語の申し子。色葉こそオタクのバイブルと呼んでも過言ではない。
「高校生は出れないとか?」
「い、いや、高校生だから、保護者同伴じゃなくても良いとは思う。同意は必要だけど……」
「だったら今年は出たら良いじゃん」
「ひゃひ!?」
なんちゅう驚き方をする子なのかしら。夜中の住宅街に色葉の声が響き渡っております。
「夏コミって夏休み期間にあるんだろ? だったら出てみたら?」
「で、でも、お、お店が……」
そうか。去年も色葉は店を優先して出てくれたんだな。去年は普通のカフェだったから売上も悪かった。でも、今年は違う。
「店は軌道に乗ってるし、去年みたいに色葉を心配させないくらいのものになってるから心配すんな」
「で、でも……」
こりゃあれだ。色葉の奴、ビビってやがる。本当は出たいけど、店を盾にしているが、誰かに背中を押して欲しいパターンのうじうじだ。長い付き合いだ、それくらいわかってしまう。
「だったらさ、みんなで行こうぜ」
「え?」
「店の宣伝にもなるだろうし。ウチの店の看板コスプレイヤーってことで、色葉が出てくれたら大助かりだ。もちろん、店のために行くんだから、俺も親父も行くぞ」
色葉のコスプレ技術のレベルは絶対に高い。それを世間に露出したいだなんて誰目線だって話だが、ここまで一緒にやって来たからこそわかる。
「え、えと、ほ、ほんとうに、一緒、してくれる?」
「ああ」
「約束してくれる?」
そう言いながら小指を突き出してくる。
「ふふ。なんだ、それ」
「ち、小さい頃から、じ、自由くん、これを、したら、絶対に、約束守って、くれ、たから」
「そんなことしなくても守るけどな」
少し照れながらも、突き出された小指を絡ませる。
ゆびきりげんまんうそついたらはりせんぼんのます。ゆびきった。
小さな子供みたいな約束を果たすと、色葉は満足そうに笑っていた。
「色葉はさ、夏コミに向けて色々と準備しろよ。店のことは俺に任せとけ」
「……うん。うん。わかった。自由くんの次回案、楽しみにしてるね♪」




