第37話 ギャルのウミャ娘
今日は親父が風邪を引いてしまい、カフェはお休み。自分の風邪が原因で休みなもんだからなんの文句も言えない。
少しでも自分の罪悪感を軽減したいもんだから、今のうちにやれることでもやろうの精神で、調味料や布巾等、細かいものの買い出しに行くことにした。別に頼まれちゃいないけど、家にいてもゲームやら漫画を読むことくらいしかやることないんだよな。これが無趣味の末路。いや、それらも立派な趣味なんだが、情熱を注いでいるかと聞かれると違うから、やっぱり趣味とは言えないんだよなぁ。なんか趣味でも見つけないと。
趣味、趣味なぁ……と、なにか良いもんでもないかと思いながら自宅兼カフェの玄関を出たところで驚きの顔があった。
「あ、おいすー」
ウミャ娘の人気キャラ、ナースネーチャが立っていた。
一瞬、色葉だと思ったが、違う。まじまじと見ると、ネーチャの根本からギャルの波動を感じることができる。色葉にそんな波動は出せまい。
「有紗、か?」
尋ねると、「あ、えと……あはは」と少しはにかみながら照れていた。
「やっぱ、名前呼ばれるのちょー照れるね。朝も学校で自由くんと目が合った時、ちょー恥ずかったし」
当たりだったみたいだ。
しかし、学校で目を逸らしたのはそれが理由だったんだな。そんなことを言われると、俺だって恥ずかしくなってしまい、つい、視線を逸らした。
「それで、有紗。今日は休みにしたはずなんだけど、聞いてなかったか?」
あんの、ラスボス変態めっ。自分だけ気持ち良くなって有紗に言うの忘れてやがったな。
「佳純から聞いたよー」
あ、すみません、佳純さん。完全に疑ってました。やはりあなたは完璧な変態です。仕事のできる変態でしたね。
「でもさ、ほら、あーしって足引っ張ってばかりじゃん? だから少しでも役に立ちたくてさ。手伝えることとかないかなーって」
「それでコスプレして来たのか」
「コスプレカフェなんだから、休みの日もコスプレっしょ。あーしの好きなキャラで来たよん☆」
そういえば月影さんが、有紗はほとんどウミャ娘とか言ってたっけ。それって、ウミャ娘が好きってことだったのか。実際、有紗は足が速いし、ウミャ娘っぽいと言われれば、それっぽいけど……。
「確か……ナースネーチャって三番人気なイメージなんだけど」
「誰が仲良し三人組の中で三番人気だっ!!」
「いや、誰もそんなことは言ってないんだが……」
「ふんだっ。わかってますよーだ。どうせ佳純と彩芽で人気が競ってんですよー。あーしなんて、ただ絡みやすい二人の出汁なんですよーだ」
いじけてしまった。有紗の中では学園の三大美女の中で一番人気がないと思っているらしい。そんなことはないと思うがな。実際、彼女はモテるし。男子から話題に上がらない日はないと思う。それに、他二人に加えて、まだばぶみはマシと思えてしまう。いや、十分、変態なんだけどさ。他の二人が強烈過ぎるだけだ。
「ごめん。ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。それよか、休みなのに手伝ってくれるのか?」
話をすり替えるように言ってのけると、流石は切り替えの早いギャルなナースネーチャはいじけるのをやめて答えてくれる。
「もちろんだよん☆ そのために来たんだし」
簡単に話を変えることができたのは良いんだが……。
「今から買い出しに行くんだよな……」
「買い出し? 全然おっけー。あーしも付いて行くね」
「いや、その恰好で……?」
「え、だめなん?」
「いや、有紗が良いなら良いんだ。うん」
どうやらコスプレで外出しても抵抗のないギャルらしい。よくよく考えれば店までコスプレして来たってことだもんな。
♢
買い出しを手伝ってくれるナースネーチャに扮した有紗と、ふたり並んで近所のスーパーに向かう。彼女の機嫌が良いのか、それとも陽キャなギャルだからか、はたまたナースネーチャのコスプレをしているからか、なんだか楽しそうに歩いてらっしゃる。
たまに通り過ぎる人が異様なものを見る目をしてくるのだが、彼女はなんにも気にしていない様子。なるほど、学園の三大美女として日々注目されている身としては、そんな視線は微塵も気にならないということか。
「こうやって並んで歩いているとデートっぽいねー」
「で、デート……!?」
俺みたいなぼっちが、こんな陽キャのギャル様とデートだなんて恐れ多い。あり得ないシュチュエーションだし、有紗だってからかい口調で言って来ているんだ。そんなつもりは毛頭ないのだろう。
「あはは。自由くん照れちゃって♡ かわいいでちゅねー♡」
ほれみたことか。俺の反応を見てばぶみを発動させてやがる。やはり俺の身体目的なのね、この陽キャのギャル様。でも、見た目がナースネーチャな彼女に言われるのは癖が爆発しそうになる。
しかし、だ。
そりゃ主観的に見たらこんなもんはデートにならんだろうけど、これ、客観的に見たらどうなんだ? 傍目から見たらデートに見えなくもないよな……。
「自由くん、さっきまで赤かった顔が青色になってんだけど、情緒不安定?」
「いや、こんな光景を学校の奴等に見られでもすれば俺は吊し上げられて殺されるかもしれない……」
「は? なんで?」
「俺みたいなぼっちが、学園の三大美女様と一緒にいるなんて分不相応だろ。ただでさえ、今もクラスの陽キャ達に睨まれてるってのに、こんなところ見られたら殺されちまう……」
頭を抱えて本気で悩んでいるというのに、そんな俺を見て、「なにそれー」とケラケラと笑って来やがりますよ、このギャル様。
「そもそも、学園の三大美女? かなんだか知んないけどさー。ただのクラスメイトでしょー。それに今はナースネーチャだし」
見て見てーと、こっちを見ろと言わんばかりのアピールをされてしまう。
「確かに、パッと見は有紗だってわかんないか」
「でしょー」
そう言うと、俺の腕にしがみついてくる。それでドキッとしてしまった。
「今はウミャ娘とトレーナーさんなんだから、大丈夫☆」
「いつからナースネーチャのトレーナーになったんだよ。俺は素顔のままだから、クラスの奴等に見られたら、ぼっちのくせに生意気だぞって言われちまう未来は変わんねーよ」
そんな弱音を吐き出すと、彼女は前髪をかき分けて言ってくれた。
「そん時はまた守ってあげる」
キュン。なにこのイケメンナースネーチャ。ばぶみを感じるんだけど。




