第16話 商売繁盛ならお店もバージョンアップしていかないといけない
「ね、彩芽。あの動画、見た?」
「見た。やっぱりナギくんはさいこー。佳純は見た?」
「ナギくんの良さは異常だよねー」
異常なのはお前らだよ……。なんて声を大にして言いたいが、そんなことを言えば面倒になるのは目に見えてわかるため、ここはお口をバッテンにして黙っておくことしかできない。
二年四組には学園の三大美女と呼ばれる美少女達(変態)がなんの因果か集まってしまった。
巻髪セミロングの令和ギャル風味の美少女、水瀬有紗。テンション高めのノリの良いムードメーカー。司会者系美少女。ギャル担当。そして、ばぶみたっぷりなしょたコンだ。
ロングヘアをサラッと下ろしている美少女、月影彩芽。口数は少ないが、キレのある言葉選びで間を取り持つモデレーター系美少女。クールビューティー担当。そしてドMの雌豚だ。
ストレートで肩下くらいの長さの清潔感のある髪をした美少女、雪村佳純。物腰柔らかい態度で話の流れをまとめるファシリテーター系美少女。清楚担当。そして匂いフェチの真正変態。俺はラスボスだと思っている。
ほんの数日前までは他のクラスメイト達みたく、彼女達を青春の象徴として捉え、眩しくて直視できないよーって感じだったが、今となっては秘密を知ってしまい、闇が深過ぎて見えないよーって感じ。
彼女達の秘密を握ってしまい、ハラハラな学生生活を送る反面、コスプレカフェの経営の方は順調だ。右肩上がりで絶好調と言っても過言ではない。しかし、安定した客入りを確保できていないため、まだまだ試行錯誤が必要である。
「あ、あ、あの、自由く、ん……」
教室の廊下側。一番前から一つ後ろの席。そこが俺の席。その前に座っているのは幼馴染で同じカフェで働く七式色葉。今日も長い髪は前髪と眼鏡で素顔がよく見えないが、俺の周りの女子で一番まともな人である。趣味がコスプレで、コスプレをすると性格が変わるだけなんて、あの学園の三大美女と比べると女神みたく思える。いや、前髪が長くてよく見えないが、普通に可愛いからね、この子。
「こ、こんかい、今回こそは、今回こそは必ず、あなたを救ってみせる、から……!!」
最近不機嫌な色葉だが、俺が学園の三大美女全員から脅されていると勘違いしており、俺に救いの手を差し伸べる女神様と化していた。
いや、まぁ実際に困ってはいるので、このまま救い出して欲しいのは欲しいんだけどな。
♢
「ふたり共。ちょっと相談があるんだけど……」
少し早めに店を閉めたカフェふりーの店内には、少しどんよりとした声を出す親父の降井晴天の声が鈍く響いた。
本日も満員御礼。売り上げは右肩上がりだというのに、どうしてそうも曇った表情をしているんだか。
「親父。店が繁盛してるってのに、そんな景気の悪い顔なんてしてたらお天道様がそっぽ向いちまうぞ」
「そうは言ってもさー、ここ最近、休みがないのは流石に辛いよー」
へたぁーとテーブルに項垂れる親父様。良い年した中年がなんちゅう格好だよ、おい。
「こんなの労働基準法違反だよ。36協定ってなに? おいしいの? 状態だよ。ブラックだ。ブラックコーヒーよりブラックだよ」
「落ち着け親父。雇用主側に労働基準法は適用されねぇだろ。それでフランチャイズのコンビニが揉めた件があって、ウチも気をつけないといけないって言ってたろ。つうか、高校生にそんな話すんな。知らん」
ぶー、と頬を膨らませる年齢不詳の可愛い系中年男性。腹立つわ、こいつ。
「ね、色葉ちゃんもしんどいよねー」
「え、えと、た、確かに、しんどい、ですけど、お客さんが入ってくれるのは良いこと、ですから、文句はないというか……」
「ほらー。色葉ちゃんもしんどいってさー」
まぁここ最近の客足を見ると、一気にしんどくなったから体が付いていけないってのはわかる。俺も正直、しんどい部分がある。
「でもよ親父。かといってなにか案があんのか?」
聞くと、「ふっふっふっ」と怪しく笑いながら起き上がった。
「よくぞ聞いたよ、我が息子よ。ここで僕はアルバイトを召喚しようと思う」
「アルバイト??」
「今の状況で、業務時間を減らす、メニューを減らす、サービスを減らすなんてのは顧客満足度が下がってリスクが大きいと思うんだ。今の売り上げならアルバイトを何人か雇う余裕もあるから、思いきってアルバイトを雇おうと思う」
「なるほどな……」
確かに色葉以外のアルバイトを雇うってのは良い案だとは思うけど……。
「なにか引っかかる?」
「いや、親父の案は良いと思うし、俺もそうするべきだと思う。だけど、ウチはもう普通のカフェじゃなくてコスプレカフェだ。そう簡単にコスプレに適した人材が見つかるのか? そこをケチって適当に雇うと痛い目に合いそうだぞ」
「あ、あの……」
色葉がおそるおそる手を挙げた。
俺と親父が彼女に視線をやると、慌てて視線を伏せた。だけど、言いたいことがあるみたいで、頑張って口を動かしてくれた。
「い、色葉が、じ、自由くんにやったみたいに、あた、新しい人をメイク、す、するよ?」
彼女の親切心に親父は少し複雑な顔をしてみせた。
「ありがとう。色葉ちゃんの意思は凄く嬉しいんだけど、それだと色葉ちゃんのタスクが増えちゃう。今でも十分にやってくれているよ。アルバイトの子にこれ以上──」
「色葉は!!」
色葉が珍しく立ち上がって親父に抗議した。
「色葉はコスプレさせてもらっているこの店に貢献したい!! 色葉は晴天さんも、じ、ゅぅくん……のことも家族同然だと思ってる!! ただのアルバイトじゃないよ!! だから、やりたい!!」
勢い良く言い放ったあとに、冷静になったのか、そのまま静かにすわり、「です……」と小さく敬語だけ付け加えていた。
こんな色葉なんて初め見たな。
俺と親父は互いに見合った。
「親父。どうやら人材の方はウチの職人がなんとかしてくれるみたいだな」
「だね。わかった。僕だって色葉ちゃんは娘同然だと思っているよ。そんな娘がやれるって言うなら、頼っちゃうね」
「……は、はい!!」
「ようし、だったら早速、アルバイト募集をかけるぞー」
「「おおー!!」」




