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44話 ラピスvsアラン

 和やかな空気になるが、その時、ゴブリンの巣の屋根が吹き飛び、中から大きな鬼のモンスターが姿を現す。

 遅れて入口からは突入班の人達が血相をかいて出て来た。


「みんな逃げろ! あいつら、ギガント・オーガ飼ってやがった!」


 ゴブリン達はテイマーの如く、他種族であるギガント・オーガを飼育していた。

 ギガント・オーガは巨体で力が強く狂暴な、極めて危険なモンスターである。

 ゴブリンの巣を叩くようなメンバーで、討伐できるような相手ではない。


 包囲班の人達も、持ち場を放り出して逃げ始める。


「あらら、あれは普通の冒険者には厳しいわ」


 他の冒険者達が大慌てで逃げる中、凛達は平然としていた。


「何突っ立ってるんだ! お前らも早く逃げろ!」


 突入班だった人達の数名が凛達の方へと逃げてくる。


「あれ、私が倒しちゃっていいですか?」

「何、馬鹿なこと言ってる! お前らも、さっさと逃げるんだよ!」


 突入班だった人達は凛を怒鳴りつけて、逃げ去って行った。

 相手にされず、凛は溜息をつく。


「勝手にやるしかないわね。あれ相手に大人数で行くのも何だから、私一人でサクッと倒してくるわ」


 凛はそう言い、一人で突撃して行った。

 玖音達は走り去って行った凛を見送る。


「あれを倒したら終わりかの。結局、ただ退屈なだけだったわ」


 三人とも、もう終わったものと考え、呑気に見学を行う。

 だが、少し離れたところにある木の影から、それを眺める者達が居た。


――――


「あいつ、一人で行く気かよ……」


 アラン達は担当場所が重要な位置でなかったことをいいことに、早々に持ち場を放り出して、ずっと凛達のことを監視していた。


「ねぇ、アラン。私達も早く逃げた方がいいんじゃないの?」

「いや、この状況、俺達にとっては都合がいい。危険だが、戦況が混乱してて、しかも、あの女と他の奴らが分断された今、仕掛けるには絶好の機会だ」

「……やるのね」

「ああ、まずあいつらを始末してから、不意打ちで仕留めるぞ」


――――


 凛が戻るまでの間、玖音達はのんびり雑談して待つ。


「あれ倒したら、追加で報酬出そうじゃの。強引に引っ張り出されたから、その分、食事の献立に要望出してやるのじゃ」

「玖音さんって、やっぱり食いしん坊?」

「なっ、誰が食いしん坊じゃっ」


 食いしん坊呼ばわりされた玖音は、思わず言い返す。

 毎回の食事を楽しみにしていた為、もう玖音は他の子達にも、そういう目で見られるようになっていた。


「ひっ、すみませんっ、すみませんっ」


 ラピスが怯えて平謝りし出したので、玖音は落ち着いて言う。


「別に儂は食いしん坊などではない。ただ、食べることぐらいしか娯楽がないから、楽しんでいるだけじゃ」


 すると、シーナが尋ねる。


「それ、食いしん坊とどう違うの?」

「うぐ……お主は言うの」


 性格が全然違う三人な為、雑談も凸凹した感じになっていた。



 多少噛み合わないところもありながらも話に花を咲かせていると、突然、ラピスに向かって一本の矢が飛んできた。

 一早く気付いたシーナが小刀で、その矢を斬り落とす。


 玖音達が振り返ると、木の陰からアラン達が姿を現した。


「チッ。勘がいいな」

「……アランさん。何しに来たんですか?」

「何しにって? お前らを始末しに来たんだよ。俺達のことを散々馬鹿にしやがって。お前らだけは許さねぇ」

「正気ですか? そんなことをしたら、ただでは済みませんよ」

「ふっ、そんなのゴブリン共のせいにすればいい。幸いこんな状況だ。お前らを殺したところでバレやしない」

「そういうことじゃないのですが……。考え直すなら今のうちですよ」

「今更命乞いか? だが、もう遅い。貴様らはここで死んでもらう」


 アラン達は武器を引き抜く。

 だが、その直後、アラン以外のメンバーの身体が発火した。


「きゃああああっ」

「熱いっ! 何で!?」


 全身を包む激しい炎により、メンバー達はあっという間に黒焦げの死体となった。

 そして、アランや玖音達の周を包囲するかように、炎の壁が現れる。


「何だよ……。一体、何なんだよ、これは……」


 突然のことで動揺しているアランに向け、玖音が言う。


「己の行動の結果じゃ。恨むなら自分の愚かさを恨め」

「ま、まさか、お前もアーティファクト持ちなのかよ」

「何でもかんでもアーティファクトと考えるのは、大間違いじゃぞ。まぁ、凛に関しては半分当たりじゃがな」


 玖音はそう言って、一歩後ろに下がる。


「丁度良い機会じゃ。ラピス、儂からの卒業試験を与える。一人で此奴を始末しろ」

「わ、分かりましたっ」


 指導に協力していた講師の一人として、玖音はラピスに試練を与えた。

 ラピスは覚悟を決め、杖を構える。


 周りは炎に囲まれ、アランに逃げ場はない。


「糞がっ」


 追い詰められたアランはヤケクソで、ラピスへと斬りかかった。

 ラピスが即座に杖を掲げると、前方に氷の壁が出現し、アランの剣を受け止める。

 直後、氷の壁にヒビが入り、砕け散るが、その破片がショットガンのように撃ち放たれた。


「ぐあっ」


 至近距離で破片を受けたアランは、全身血塗れとなる。


「な、何だと……。お前なんかが、こんなことできるはずは……」

「凛さん達に鍛えてもらいました。あまり私を舐めないでくださいっ」


 ラピスが杖を掲げ、太く鋭い氷柱を発現させる。


「ち、畜生。元はと言えば、お前が……。お前さえいなければ……!」


 飛ばされた氷柱が腹を貫き、アランは絶命する。

 躯となったアラン達を、ラピスは冷めた目で見下ろした。


「余裕じゃったな。これで儂からの指導も免許皆伝じゃ」

「はいっ。ありがとうございますっ」


 講師二人から免許皆伝を受け、ラピスとアラン達の因縁にも決着が着いた。

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