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29話 平凡な町ベルガ

 神獣姿と化した玖音に乗り、当てもなく走らせること数時間。

 通り掛かった町に、凛は休憩がてら立ち寄る。


 ビフレフトから少し離れたところに位置する町・ベルガ。

 規模としては大きくもなく小さくもなく、目立った特徴のない平凡な町であった。



 町に入った凛はまず、道中で倒したモンスターの素材を換金する為、冒険者ギルドを訪れる。

 人数が増えた分、かかる旅費も多くなる。

 手持ちの資金も、これまでの旅で目減りしていたので、こまめに稼いでおかなければならなかった。


(ハーレムも頭数揃ってきたことだし、ここらでちょっと留まって稼ぐのもいいかもしれないわね)


 カウンターで買い取り査定を待っている間、凛はそんなことを考える。

 すると、その時、後ろを歩いていた三角帽子の少女が足を捻らせて転ぶ。


「あっ」


 転んだ拍子に、抱えていた採取品やモンスター素材をぶちまけてしまう。

 足元に転がって来た鉱石を、凛は拾って、その少女に差し出す。


「はい、これ。拾うの手伝うわ」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ありがとうございますっ」


 少女は頭をぺこぺこと下げながら、床に散らばった物を、慌てて拾い集める。

 その様子は、非常におどおどした感じであった。


 凛は拾うのを手伝いながら、少女を眺める。

 三角帽子に杖という典型的な魔女の恰好で、よく見ると、両目には星のマークが浮かんでいた。


(この子は……魔女族かしら? 集落外で見るのは珍しいわね)


 一見、人間に見える、この少女は魔女族の子であった。

 目に浮かぶ星マークが特徴で、生まれつき魔法の能力が非常に高い。

 一般的な人間とは違い、交配ではなく、特殊な木から産まれる為、魔女族は女性しかいなかった。


 生まれる場所が限定的で、種族としても閉鎖的な傾向があるので、魔女族の集落以外で見るのは、なかなか珍しいことである。



 この世界に来て初めて見たこともあって、凛が物珍しさに眺めていると、後ろの方から怒声が響く。


「おい、ラピス! どんくさいことしてんじゃねーぞ。さっさと運べ!」

「はいぃぃ! ごめんなさい!」


 怒られた魔女族の少女は、慌てて落ちている物をかき集め、凛から拾った物も受け取ると、一礼して、そこから離れて行った。



 凛はその子が気になった為、引き続き買い取りを待ち続けながら、様子を窺う。

 魔女族の少女は一人せっせこと往復して荷物運びをしているが、他のパーティメンバーらしき人達は、椅子に座って休憩していた。


(えっ……。これ、虐待じゃないの?)


 魔女族は魔法の能力が高い代わりに、体力が低い。

 しかも、まだ少女なので、こんな力仕事を任せきりにするのは、虐待も同然だった。


「もっとシャキッと動け。そんなんじゃ、何時まで経っても、借金返せねーぞ」

「はいー!」


 口出ししようと思った凛だが、彼らの言葉が耳に入って踏み止まる。


(うーん……借金があるなら仕方ないのかしら。借りたお金は返さないとね)


 可哀そうとは思ったものの、借金という正当な理由があった為、部外者の凛が口出しするべきことではなかった。



 凛が買い取りを終えてカウンターから離れると、入れ替わりで、そのパーティが呼ばれ、魔女族の少女がカウンターへと小走りで駆けて行った。


 換金を済ませた凛は、そのまま依頼掲示板の前へと移動する。

 そこで目ぼしい依頼はないかと探していると、偶々、近くだった少女のパーティの会話が聞こえてきた。


「あいつも馬鹿だよな。どれだけ働いても無駄だとは知らずに」

「あんた、あの子を何時まで、こき使う気?」

「そりゃ最後までだ。荷物運びとしては優秀だから、使い倒して、潰れたら奴隷に売る」

「きゃはは、鬼畜ー」


 穏やかではない会話が耳に入り、凛は眉を顰める。

 どういうことかと話を引き続き聞こうとしたところで、魔女族の少女が戻って来る。


「換金終わりましたー」


 魔女族の少女は、換金したお金の入った袋を。パーティのリーダーらしき青年に受け渡す。


「おう。じゃあ、お前の取り分はこれな」


 袋を覗いたリーダーの青年は、中から小銭を数枚取り出して、魔女族の少女に渡す。


「えっ、これだけ……?」


 それは一日の生活費にもならない金額だった。


「さっきのやらかしを差し引いた分だ。地面にぶちまけたせいで、素材の買い取り価格が下がっただろ」

「査定してくれた人は、そんなこと一言も……」

「今回は偶々大丈夫だったとしても、次は下がるかもしれない。お前は失敗ばかりするから、また同じことをしない為の罰だと思え」

「で、でも、これだけだと、宿屋の支払いすら……」

「口答えする気か? 毎回毎回、迷惑かけておいて、マイナスにしてやってもいいんだぞ」


 リーダーの青年に強く言われた少女は、諦めて口を閉じてしまう。

 そこまで見ていた凛は、もう見ていられないと口を出す。


「ちょっと、それはあんまりじゃないの?」

「あ? 誰だよ、お前。外野は黙ってろ」

「部外者だけど、使い潰して奴隷に売るだなんて話聞いたら、ねぇ。口出ししたくもなるわよ」

「なっ……て、適当なこと言ってんじゃねー」


 青年は聞かれているとは思っていなかったようで、動揺して目を泳がす。

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