告白の言葉
国王は三人の反応を見て、悪戯っぽく微笑んだ。
そして少し勿体ぶりながら続けて話す。
「告げたというのはブランカ殿の気持ちで、私が彼女に惹かれているという事は黙っていたのだよ。私が惹かれていると告げれば、彼は遠慮して私達から離れようとするだろう。だから私は敢えて告げなかった。彼の本心を彼の口から聞きたかったのだ。それに‥彼と離れるのは嫌だった。初めて心の底から欲した友人は彼だけだったからね」
「え‥と、父は何と?」
「まるで熟れたトマトみたいに、真っ赤になって狼狽えていたよ。クックック‥‥今でも思い出すだけで笑いが込み上げてくる。そこで私は悟ったのだ。彼も同じ気持ちだったのだとな」
「私がこんな事を言うのも何ですけど、父上は‥それで良かったのですか?」
「私は欲張りで独占欲が強いのだよ。どちらかを失うのは嫌だった。それならば二人共が側にいる方がいいと思ってな。ブランカ殿に告げたところで、叶わない事は十分分かっていたから‥‥。二人が上手くいって側にいてくれる事を望んだのだ」
「それでは陛下が我々の両親の仲を取り持ったのですか?」
「いいや。二人共両思いなのに、お互い告げる事は無かったな。側で見ていて焦れったかったよ。
でもそれは彼なりの配慮だったのだ。私が彼の本心を聞いた時、私の表情から彼も悟ったのだろう。ブランカ殿に対する気持ちが同じであった事を」
「それじゃあ一体どうやって父と母は結婚したのですか?父は何度聞いても教えてくれないのです」
「それは多分照れているな。かなりロマンチックな告白だったからのう」
「えっ!?お父様がロマンチック!?ダジャレで告白したの間違いでは?君と一緒に食べる、目玉焼きの黄身(君)が好きみたいな」
「リアはダジャレのセンスがあるね。そうだ!ダジャレセンス大賞でも企画してみようか?」
「どういう訳かオセアノの人って、なんとか大賞をやりたがるわねぇ。どこかの大賞と被りそうだから、それはやめて!で、陛下、ロマンチックとはどの様な告白だったのでしょう?」
「それなんだが、私から聞いたという事は、大公には秘密にしておくれ。たまたま、偶然、目撃してしまったのだからね」
「はい。ネタ‥いえ、秘密にします!」
「レイリア、良からぬ事を考えているね?」
「い、いいえお兄様、これっぽっちもそんな事は!陛下、教えて頂けませんか?」
「ふむ。くれぐれも私の名は出さないでくれよ。あれは我々の卒業が迫っている頃だった。大公はブランカ殿に手紙を渡して、森に呼び出したのだ。あの、ブランカ殿が登った木の下にね。ブランカ殿は頰を紅潮させながら、私にだけこっそり教えてくれたよ。そこで私は離れた所で覗き‥いや、見守る事にした。ブランカ殿は息を切らせてやって来たが、そこに大公の姿は見当たらず、不安そうな顔をしていた。だが大公は木の上にいたのだ。そしてこう言った。"最初に君を見た時、妖精かと思ったよ。私の国は妖精を信仰し、愛し、敬う教えがある。だから私は妖精の様な貴女を、愛し、敬い、生涯大切にすると誓うよ。どうか私だけの妖精になってくれないか?"とな。そして言い終わると木の上から飛び降りて、彼女の前へ跪いたのだ。ブランカ殿は涙ぐみながら"貴方こそ私の妖精よ。だから私をバルコスへ連れて行って"と言って、彼の手を取った。高価な宝石や指輪より、ブランカ殿にはよっぽど響いたのだな。見守っていた私は胸が熱くなり、二人の姿に強く憧れた‥‥」
「お父様‥カッコいいわ!!」
「これは‥‥大分敷居が高くなったな。これ以上の言葉を言わなければ、リアの心には響かない」
「女性にとってやはり言葉は重要なのか‥。しかし父がそんなロマンチストだとは、初めて知りました」
「そうだな。私もこの時初めて知ったよ。そして心から二人の幸せを願うと同時に、もう三人で過ごす事が出来ないのだという寂しさが溢れて、自然と涙が溢れてきた‥。卒業と同時に二人は婚約し、一年後に行われた結婚式には私も出席したよ。まあ、その頃には私にも寂しさを埋めてくれる、かけがえのない女性が現れたがね。エドゥアルド、それがお前の母のカタリーナだ」
「私の母上‥ですか?父上、教えて下さい。父上は今まで、母上の事を話してくれた事はありませんでしたね?」
「お前の母に‥‥私は酷い裏切りをしてしまった。その罪悪感から私は、カタリーナの事を話してはいけないと思ったのだ。穢れた私からその名を口にされたら、彼女は亡くなった後でも苦しむだろうとな」
「父上は‥‥なぜ母上を裏切ったのですか?」
「あれは‥悪夢としか言いようのない出来事だった‥‥。全てを話す時が来た様だ。長くなりそうだが、もう少し私の話に付き合ってくれるか?」
「「「ええ。話して下さい」」」
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