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元公爵令嬢、辺境の再生はじめました ~失恋したので、推し(領地)の経営に全振りしたら氷の騎士様が離してくれません~  作者: 藍沢 理
第4章 陰謀と共闘

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第3話 攻城戦

 太陽が真上から少し傾いた頃だった。ノルドクレイの簡素な城壁に、乾いた風が吹き抜ける。見張り台から鳴らされる警鐘の音が、村中に響き渡っていた。


 来た。


 わたくしは、城壁の上から、地平線を埋め尽くす隣国軍の威容を冷静に見下ろしていた。


 初めて見る殺意の固まり。斥候から聞いたのは、その数およそ五千。


 対する我が方の兵力は、レオンハルトの騎士と、武装した領民を合わせても、その十分の一にも満たない。


 絶望的な戦力差。けれど、わたくしの脳内に、恐怖という非生産的な感情は存在しない。これは、プロジェクトの最終プレゼンテーションだ。わたくしが築き上げてきた全てが試される。


「敵前衛、重装歩兵。後方に騎馬隊。陣形に乱れなし。……なるほど、教科書通りの布陣ですこと」


 わたくしの分析に、隣に立つレオンハルトが頷く。


「典型的な力押しだ。だが、それ故に、奇策には脆い」

「ええ。では、始めましょうか。我々の最初の反撃を」


 わたくしが合図を送ると、城壁の下に控えていたギデオンが、大きく手を振った。

 敵軍が鬨の声を上げて前進を開始する。

 大地が無数の軍靴の響きで震えた。

 彼らが、わたくしたちが設定したキルゾーン――谷間の隘路(あいろ)へと差し掛かった、その瞬間。

 崖の上から、無数の樽が転がり落とされた。樽は地面に叩きつけられて砕け、中から粘性の高い液体が溢れ出す。それは、先日完成したばかりの、高濃度蒸留酒と獣の油を混合した特製の可燃物。


 この世界に、ワインとエールはある。しかし蒸留技術はない。アルコールが発火するとは知られていない。


 一本の火矢が、夜空に赤い軌跡を描く。

 次の瞬間、谷は地獄の業火に包まれた。

 敵兵の悲鳴が、炎の音にかき消されていく。

 わたくしは、その光景を、ただ、無表情で見つめていた。計画通りだ。こちらの人的損耗を最小限に抑え、敵の士気を最大限に削ぐ。完璧なコストパフォーマンス。


 けれど、わたくしの胸の奥で、何かがちくりと痛んだ。



 その頃、後方の丘の上。隣国のゲルハルト・シュトライバー将軍は、自軍の先鋒が、見たこともない罠によって一瞬で壊滅する様を、信じられない思いで眺めていた。


「なんだあれは。魔法か? いや、魔力の流れは感じられない。だとすれば、あの業火はなんだ。あれは人間の知恵によるものだというのか」


 彼の脳裏に、マイズナー侯爵から伝えられた、あの女の情報が蘇る。


 エリアーナ・フォン・ヴァイスフルト。王都を追われた公爵令嬢。だが、その女が、この辺境の地で、次々と奇跡を起こしている、と。

 将軍の顔が、怒りと屈辱に歪む。


「こんな、田舎の小娘一人に、この私が、してやられたというのか。許さん。断じて、許さん」


 彼は伝令兵に向かって、怒声を発した。


「全軍に伝えろ! あの城壁の上に立つ女は魔女だ! 辺境の魔女、エリアーナの首を取った者には、望むだけの褒賞を与える!」


 その言葉は兵士たちの間に、瞬く間に広がっていった。

 戦の目的は、領地の制圧から、一人の女の首へとその姿を変えた。エリアーナに対する、個人的で狂気に満ちた狩りの始まりだった。


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新作はじめました! 違うテイストで面白いのでよろしくお願いします‹‹\(´ω`)/››‹‹\(´)/››‹‹\(´ω`)/››
魂が響かない令嬢は、精霊の血を引く公爵様の『錨』となる ~偽りの婚約から始まる、たまゆらに縛られない本当の愛~
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