掌で踊る
新聞発行日の水曜日。部員各々が内の指定箇所にプリントアウトした新聞を貼り付けたらは部室に戻ってお茶やお菓子をお供に次回の内容を決める。作業フローとしては普段と変わらないが、部員の様子に異変が生じていた。
「新史せんぱい! 今日は私の手作りクッキーですので、いつもみたいにみんなに遠慮しないでたーんと召し上がってください!」
「ははは、ありがとう」
新史は普段あまり絡んでこない水菜に違和感を覚えながらも、女子生徒を虜にする爽やかスマイルで丁寧に応対している。その斜め向かいでは、勇がそっぽを向いて市販のポテトチップを咀嚼している。
「おいおいおい、何が起きてんだ? まさか乗り換えられちまったのか?」
勇のとなりでコーラを飲む神威が勇に問うた。
「乗り換えって、別に…」
「勇くん、キミは一体何をやらかしてしまったのだね?」
勇の正面でリスのようにクラッカーを噛る見知。
「何をって、特に何も…」
そして、傍観者気取りで黙り込んでいるが、脳内が混乱状態の少女がひとり…。
はわわわわ! どうしようどうしようどうしよう!? もしかしてこれって三角関係!? だってだってだって、今までは不入斗さんが長万部くんを好きで、たぶん知内さんが木古内さんを好きで丸く収まっていたけれど、長万部くんがあまりにも尻込んだせいで不入斗さんに愛想尽かされてこういう結果を招いてしまったんじゃ…。
「新史せんぱいは素直に喜んでくれるので嬉しいです! やっぱり人生素直じゃなきゃですね!」
はははははーと爽やかスマイルを絶やさない新史であるが、この状況を見ている見知がどう思っているのか気になって仕方ない。
「さすが水菜ちゃん! 人生素直がイチバンだよな!」
火に油を注ぐ輩が一名。麗がさりげなく睨みつけ、委縮。
「はい! 素直にならなきゃ孤独死まっしぐらです!」
アイツどういうつもりだ? まさか本当に? くそっ、なんかうぜぇな…。
◇◇◇
同刻、軽音部のメンバーが集まる講堂。携帯用プレーヤーで自分たちが演奏した曲をチェックしている一人の女子生徒は、新聞部の状況を想像しながら薄ら笑いしそうになるのを堪えていた。
これでアイツは当然モヤつくだろうし~、アイツは混乱、アイツは嫉妬。あー面白い! でもね、高校生活には限りがあるんだよ? このくらいの刺激を与えてやらなきゃ、青春を謳歌できないじゃん? だからぁ、今は私の掌の中でコロコロ転げ回ってればいいのさ~。前に私が神様気取りのおバカさんに仕掛けて二人のオンナを嫉妬させたときみたいにね~♪
でも、あれは私も本気だったのにな~。
それはともかく、人生って刺激的じゃなきゃつまらないよね~。自分がおバカなフリしてるとさ~、単純なヤツらが集まってきて~、私をバカにするのぉ。実際のところ私もマヌケだけどさ、マヌケと単純は違う。だからね、単純なヤツらが単調な行動を繰り返して同道巡りしてるとイラついちゃって、たまにちょっとしたドラマを作りたくなっちゃうんだよね~。それで実際、変態神様と文学少女気取りの変態お花畑をくっ付けてあげたんだし。
そう考えると、少しくらい感謝してほしいな。私っていう女神さまに。あははははー。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
新史を有効活用できた回w




