逃げた神々と迎撃魔王 現世編 〜おしかけ異世界転移して来た、怪力金髪美女と変態金髪美女。俺の人生のパートナーは、身に覚えのない娘からの贈りものだった〜 中編
俺は夢を見ているのかもしれない。美人二人に両腕を組まれながら、電車で移動するのが目立って恥ずかしかったからじゃない。 昔は、いやつい最近までは俺だって羨ましいと思っていた口だ。だが、実際やってみると我ながら結構キツい。
慣れているやつは気にも止めないし、むしろあえて見せつけるだろう。俺には出来ない。そんな無神経な振る舞いは無理だ。
「思っていた以上に堅物なのね。もっと簡単に理性が飛ぶ予定だったのに」
悪いか。俺はそうやって生きて来たんだ。リエラは恥じらいもなく人前で裸になりやがる。娘に教育されたというが、俺の娘を変態の元締めみたいにするなと言いたい。
電車に乗るまでも、結構な苦労があったんだよ。サンドラはそうでもないのだが、リエラは商人の血が騒ぐのか、とにかくうるさい。
サンドラがキレてリエラの口を縛り、マスクをつけて着させていたパーカーのフードを被せた。リエラの両腕を後ろに回して縛り、繋いだロープを俺に持たせた。マジかよ⁉
「勝手に外したら斬るよ」
ぐもぐも言っているリエラはサンドラの脅しにコクコクと頷く。なんだか妙に慣れてやしないか。この状態で電車に乗って行かなければならないの?
視線が痛い。俺まで罰を受けてる気がするのは気のせいじゃないはずだ。
異界の人間は人目など気にしないのか、俺にべったりくっついたまま結局洞穴までやって来た。そういうプレイに思われたのか、とにかく通報されなくて良かったよ。
「そろそろ、それ外した方がいいんじゃないか」
流石に暗い洞穴で後ろ手に縛ったまま歩くのは危ない。仕方なさそうにサンドラがリエラの縛めを解く。なんで残念そうな顔をするのか、本当にわからん。
彼女達はどこで情報を得たのか、簡単に洞穴を見つけてどんどん奥へと進んでゆく。洞穴に棲む蛇が這い寄ろうが、蝙蝠が飛び交おうがお構い無しだ。
いったいどうしてそこまで確信を持って進めるのか不思議だった。
「あたしらの世界に対応している山があるんだと。どっちが元になっているのかは、わかりゃしないけどさ」
霊峰とか神山とか呼ばれている地が、サンドラ達の世界にもあるようだ。そこと、この富士山はよく似ていて洞穴の位置までピッタリ同じなんだとか。
「そんなことってあるものなのか?」
「あり得る話しよ。この世界は私達の世界を礎に築かれたものだから」
単純な疑問だが、リエラが答えてくれた。コピーとまでは行かないが、世界を築くのにゼロから創るよりも、モチーフとなる世界を映した方が難易度は下がる。
一番早いのは丸ごと移すのだそうだが、スケールが大きすぎて疑いの念は増すばかりだ。
「大体ありえないだろ? 山一つ魔法だななんだかで造るなんて」
いや、本当はわかっている。山を築いた巨人の伝説や、大地を支えた巨人の神話が残されている。ゼロの状態が何もない宇宙の闇だとするなら、ビックバンでいまある世界が全て出来たと言われるよりも、力のあるものが世界を一つ一つ創り出したと言われる方が信憑性が高い。
「論より証拠を示せってかい、まあすぐにわかるさね」
サンドラがぐっと近づき、俺の腕を自分の胸に挟むように引き寄せた。何してるの、この人。そう叫びそうになった所で、リエラが何かつぶやきだした。
「これが魔法なのか」
リエラの魔法という力で、ただの岩壁が溶けるように消えた。洞穴の隠し通路だろうか?
冷たい風が吹き出し、俺の身体を覆う。長らく封印されていた何かが目覚めようとしているのか。サンドラとリエラは俺の腕を取り、怯む事なく中へと進んでいった。
「どうなっているんだここは」
さっきまで普通に地下へ向かう感じだったのに、俺達はいつの間にか逆さまになって歩いている。逆さまになっている感覚が、あるのにしっかり地に足をつけて歩いている。これもリエラの魔法なのだろうか。
「平衡感覚が狂うから、しっかり掴まっていなよ。あたしも実際初めて来る所だから離れちまうとフォローが難しいんだ」
サンドラの表情が険しくなる。リエラは明かりを灯しながら先を急がせる。
「あんた達の世界で言う黄泉平坂とか、死者の国がこの、先に通じているんだと。磁場がめちゃくちゃなのは、実際不死者がいるせいで惑わし狂わせて仲間にするためなのかもな」
そんな話しは聞いた事あるけれど、死者が実際に蠢くなんてありうるのか?
「正確には不死者ではなく、人形だよ。そこに霊魂が入り込んで動くもんだから、迷いこんだ人間がそう感じたんだろうさ」
そう言われても、安心出来る話ではないよな。死んでようが生きていようが、蠢く何かはいるってことなのだから。
「レーナが頭のおかしい術師に大量に作らせて宝の番人にしたとか言っていたけど、増えすぎてないかい」
広い空洞に出て俺達は正常な向きに戻ったはいいが、見渡す限りの蠢くものに囲まれた。
サンドラは槍を使って道を切り開いて行く。リエラは俺を守るように腕を離さず、サンドラの腰の紐も握って離さなかった。
「ここは生命力も奪われる。だからこうして固まって互いを守り合うのが一番いいの」
変態だし、ぶっ壊れているようだが、こういう場面ではまともなので助かった。それにしてもサンドラが強い。娘の魔法の力のおかげだというが、槍を捌く姿が美しい。
「あんたの背中をずっと守って来たんだから当然さ」
亡者の群れを蹴散らし広間を抜けたあと、リエラがせっせとサンドラの汗を拭う。よくわからんが、俺というかガウツという男を巡るライバルだけど、リエラはサンドラを尊敬しているのは間違いない。
むしろ煮えきらないサンドラをけしかけるためだけに来たのではと思う。
再びリエラが何もないように見える壁に向かって何やら魔法らしきもので道を拓く。
その先は狭くて階段のようになっていて、サンドラ、俺、リエラの順で進んだ。
「あったよ、あんたの鎧。それに、あちらの世界の記憶を封印した宝珠だね」
当たり前の事を何度も言うが、記憶にない出来事なのだから、俺のものと言われても思いいれも感傷もない。
ただ宝珠に触れた瞬間、ガウツという男が生まれた理由や俺が別の世界で生きた全てが体感で流れ込んできた。
二人は俺が回想を体感する数十年の時間をずっとそばで見守っていた。記憶の中の世界を生きる俺と、彼女達とでは時間の流れが違い、ほんの一時の間だったとしても、どうしてサンドラが俺を見て泣くのか、リエラが気にかけるのかは実感した。
二人は俺の言葉を待った。本当の意味では別人だということも踏まえて、俺がどうするのか、その答えを聞きたいのだとわかった。
【逃げた神々と迎撃魔王】のおまけの番外編 女商人リエラの外伝となります。
前後編の予定でしたが、前中後編の三部になってしまいました。




