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最終話 旅の終わり

 朝焼けのメッガミーランド。


 死霊は朝日を前に退散したのか、園内は閑散としている。

 そこかしこで戦いのあとが残っていてアトラクションは半壊状態だ。


 メッガミーランドに集まったのは死霊ばかりだったし、悪魔族は戦闘すぐに避難していたので人的被害はない。


 真っ白に戻ったメッガミー城前の広間に、俺たちは集まっている。

 女神キルリとスルが言いあう様子を遠巻きに眺めていた。


「ダメなものはダメです! メッガミーランドは撤収です!」

「そこをなんとかさ! 使える場所だけでいいから!」

「古代遺産を放っておくわけにはいきません!」

「期間限定で利用できるようにとかさ! 管理はうちら悪魔族がやるから!」

「貴方たちの利しかないじゃないですか!」


 神々の遺産を回収したい女神キルリに、お金の匂いに敏感なスルがこれでもかと食い下がっていた。サクラノたちはちょっと呆れつつも感心したように見ている。


 すごいな……相手は女神さまなのに……。

 悪魔族の未来は明るいなと、まとめ役のスルのたくましさっぷりをみて思った。


 まあ喧嘩にはならないだろうと二人を放置して、俺はクオンを見つめる。


「魔王ヴァルボロスの気配はもうないのか?」

「……うん」


 クオンはガイコツのぬいぐるみを大事そうに抱きしめていた。


 あのとき、クオンが心情をこぼすと、ヴァルボロスはいかにも魔王らしい台詞を吐いて気配を消してしまった。


 それで、ただのぬいぐるみだけが残されたわけだけど……。


「ねえ、ダンもなにも感じない?」


 クオンは期待をこめた瞳で俺を見つめてくる。


 宿敵でもなく勇者でもなく、ただのダンとして意見をほしがっている。クオン自身が魔王としての在り方をやめたのだとも思う。


「……なにも感じないな。気配を探ってみたけど、どこにもいない」

「…………卑怯者。卑怯者。卑怯者」


 クオンはぬいぐるみの形がゆがむぐらい抱きしめた。

 ちょっと怖い……。


「ま、まあ、一応魔王だったらしいしさ……」

「そういうことじゃないよ」

「はい……そうですね……」

「ホント卑怯者だよ」

「…………満足したんじゃないか? クオンと孤独をわかちあえてさ。女神さまがメッガミーランドに、傷が癒されたら浄化する術をかけていたみたいだしさ」


 少女の切なる願いが闇を打ち砕く、魔王の孤独を癒したのだ。

 寓話的だとも思うのだが。


「ズルいんだよ。ヴァルさ、いかにもボクを見限った感出すし」


 クオンからどよどよしたオーラが漏れてくる。

 怖い……。


「ま、魔王のプライドもあったんじゃないかな……たぶん……」

「性根から卑怯なんだよ。ボクの闇の資質までご丁寧に持っていっちゃってさ。どっちなんだよ、バカ魔王」


 どっちなんだろうな。本当に見限ったのか、それとも解放したのか。


 ちなみに、クオンは闇の資質ではなくなった。

 魔王は消えるついでに少女の資質も消したらしい。女神キルリも『消えていますね。もう無害です』と言ったので間違いはないだろう。


 二人の関係はわからない。


 ただ俺が伝承で知っている魔王とは印象が違っているようで……クオンと魔王の十何年の旅路で積み重なるものがあったのだと思う。


 だから。


「クオンの信じるさ、魔王ヴァルボロスでいいじゃないかな」


 俺がそう言うと、クオンはぬいぐるみをむににーーと強く引っぱった。


「…………卑怯者」


 クオンの中でたしかな答えはあるようだ。


 でだ、俺は気になっていたことを聞く。


「ところでクオン」

「なーに?」

「……一緒に死んでやるつもりだったんだよな」

「うん」

「それって俺に殺される覚悟でもいたわけで……。そのわりには俺たち仲良くしていたよなと……。そのあたり……どう思っていたのかなと…………」


 聞いてはいけない気もしたが、たしかめておきたかった。


 俺がビクビクしながら答えを待つと、クオンが愛らしく微笑む。


「ダンの心にボクがずっと残るじゃん」


 …………………………………………。


 はっ⁉ 恐怖のあまり意識がとんだぞ⁉

 マジで言っているな⁉⁉⁉ さっぱりした性格のようで内面が重い……めちゃくちゃに重い‼


 闇の資質……間違いなく闇の資質。

 闇の資質じゃなくなっても闇の資質だ……!


 断片とはいえ、魔王の見る目は間違っていなかったんだな……。


「そ、それで……クオンは、これからどうするわけで?」


 俺はちょっとふえるながら言った。


「んー……伝承の魔王は滅びることがないから封印されたみたいだし、蘇る方法を探してみるよ」


 魔王復活を正直に告げてきた。

 やめておきなさいと言いたいところだが、クオンに永遠に執着される魔王の姿が容易に想像できてしまい、別にいいかなと思えてしまった。


「ボクたちを見守ってくれてありがとうね、ダン」


 こう、素直に笑ってもくれるし。


 大変なことにはならないと……思う。

 大変な目にあうのは魔王ヴァルボロスだと、大事そうに抱きしめられているぬいぐるみを見つめた。


「ねえ、ダンはこれからどうするの?」

「どう?」

「王都に封印されていた魔王が本物で……断片もいなくなったわけだし、真の魔王を探す旅は終わったわけじゃん」 


 たしかに、俺の旅はメッガミーランドで終わりを迎えるわけだ。


 三人娘に視線をやると、俺の反応を待つように静かに見つめていた。

 彼女たちにもそれぞれの目的がある。いつまでも俺の旅に付き合わせるわけにはいかないけれど……。


「なあ、王都に封印されていた魔王は本物だったんだよな」

「だねー」

「まあ、兵士でも倒せるぐらい弱体化していたわけだけど」

「そこはそうなるんだ。神々の術すごいね」


 そうなる???

 神々の術がなんだろう……深く考えようとしたけど、どうも霧がかった感じになる。まあいいか。


「でさ、本物の魔王は力の断片を放っていたわけじゃないか」

「あー……ボクみたいなのが他にもいるんじゃないかって考えている?」

「いや……もっと恐ろしいものだよ」


 俺は声のトーンを落とす。


 信じられないかもしれないが、そう考えるとすべてが腑に落ちるのだ。

 俺は絶対に間違いようのない事実を語っていく。


「本物の魔王の封印が解けることはありえない。だって本物の魔王だ。しっかり封印しておかなきゃ危ないわけだ」

「……うん」

「つまり、何者かが封印を解いたんだ‼」

「………………うん、話がけっこー飛んだね」

「いや飛んでないぞ⁉ だって最近さ! 暗黒のドスケベ集団だったり! 迷い狂いの町だったり! 館の魔性だったり! 巨大ビキニスライムだったり! 妙なことが立て続けに起きているんだよ!」

「それ、だいたいヴァルの――」


 そう! これらを偶然で片づけるには事件が起きすぎている!

 これら一連の事件を結びつける黒幕が存在する! そんな気がする!

 俺、ミステリー小説をわりと読んでいたから推理に自信があるんだ!


 俺は興奮しながら名探偵っぽく告げる。


「魔王より恐ろしい……【混沌の闇】みたいな存在がいるんだよ!」

「……そうなっちゃったかー」


 そうなったってなに。


 俺の推理が間違ってないか、一応女神キルリにも聞いたが『…………そうかもしれないですね!』と自信なさげだがそう答えていたぞ。


 女神さまにも予感があるんだと思う!


「ダンはその……混沌の闇を探しにいくわけ? 一人で?」

「えーーっと……仲間にも話したんだけど……」


 俺は大切な仲間に視線をやる。

 彼女たちはまっすぐな視線を送ってきた。


「兄様ー、ワシはどこまでも付きあうぞー」と、メメナは心底楽しそうに。


「先輩! ハミィもがんばるわ!」と、ハミィは混沌の闇に負けないよう懸命な表情で。


「……師匠! 師匠のいる場所がわたしの居場所です!」と、サクラノはなんだかちょっと申し訳ないけれど師匠の側で腕が磨けるなら、みたいな表情でいた。


 ……魔王より恐ろしい、混沌の闇を相手にするかもしれないのに。


 俺は仲間の信頼にこたえられるよう、笑顔で言った。


「ありがとう! みんなは最高の仲間だよ!」


 仲間ってすばらしい!

 信頼で結ばれた強い絆っていいな!


 目頭が熱くなっていると、クオンが苦笑する。


「がんばって、ただのダン=リューゲル」


 呆れたような、でも楽しんでいるような笑み。

 よくわからないけれど多少なりとも心が楽になっていたのならと、俺は手を差しだす。


「ありがとう、ただのクオン=ヴァルボロス」


 もう魔王じゃなくなったけれど、クオンが大事にしているものを尊重してそう言った。

 クオンはちょっと目を丸くしたあと、笑顔で手を握りかえしてきた。

ボーイッシュの「ボク」じゃなく、地雷系女子の「ボク」です。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

魔王を探す門番の旅は終わりを迎えます。はたして【混沌の闇】とはなにものなのでしょうか。


更新は一度終わらせていただきます。次章の再開は決めかねていますが、ネタとアイディアが集まったら再開したいなとは考えています。


あと宣伝です。


「ただの門番、実は最強だと気づかない①~②」がサーガフォレスト様より書籍が発売しています。

書店などでお見かけしたらお手に取っていただけると幸いです。


それでは、またいつか!

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― 新着の感想 ―
大団円で良かった。面白かったです。
[一言] おつ
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