第37話 激闘!勇者VS魔王③
俺とクオンの戦いはつづく。
少女が放つ魔術を、俺がひたすらに迎撃する流れではあった。
「魔王尖槍!」
「門番! 連続斬り!」
夜空に展開された暗黒の槍が、何十本も放たれる。
俺は黒銀の剣を素早くふるうことで迎撃していた。
ジェットコースターのレールを駆けながら、ときには大観覧車のゴンドラを飛びうつり、急流すべりの丸太にのって、空中ブランコにぶら下がりながら、大迷路の壁を破壊しつつ、お互いに空中でふんばりながら戦いあう。
夢と希望の王国、深夜の幕がはじまった。
俺がクオンの魔術を剣で打ち消すたび、艶やかな火花が飛びちる。
暗黒の魔術が退魔の剣で浄化されるたび、夜空がキラキラに輝いていた。
死霊はそれを見世物と勘違いしたのか、遠く離れて観戦している。パラパラと飛び散る花火のような残光に満足したのか、浄化する者もいた。
俺は、テーマパークの中央通りを疾走しなが心底驚く。
やっぱ黒銀の剣すげーーーーー! 折れるのを気にせずブンブンふれる!
いつもちょっと加減してたからなー! あと対魔の効果すっごい!
クオンがわずかに顔をしかめる。
「ヴァル、黒銀の剣ってあんなに対魔の効果があったっけ」
「奴が阿呆だからとしか理由が思いつかん!」
なぜだか勘違いアホの子扱いされた。
俺も一応王都に数年暮らしていたから、物の価値ぐらいわかるのにさ。
「俺だって黒銀の剣のすごいさぐらいわかる! すごく雅だ!」
「阿呆がやかましいぞ‼」
「人をアホの権化みたいに……! ヴァルボロス暫定のくせに!」
「はっ、貴様のノリに付き合ってアホアホ空間にしてたまるか! 魔王連鎖術‼」
ガイコツのぬいぐるみ、もといヴァルボロス(暫定)は指をくいと動かした。
回避したはずの暗黒の槍が、横から襲いかかる。
クオンの術をさらに操れるのか! なら!
「お探しの門番はあちらにいます‼‼‼」
暗黒の槍が急転換して、明後日の方向に飛んでいく。
耳が遠い人を道案内するときの門番技術だ!
なんと飛翔する術にも多少効果あり!
「ヴァル」
「なにも言うでない‼‼‼」
ヴァルボロス(暫定)はシリアスを保ちたそうに叫んだ。
なぜか空気がゆるんでる! このままおだやかな話し合いにもっていけるかも!
しかしそれだけは許さないとクオンが左手をかざす。
「魔王血糸爆」「魔王連鎖術‼」
真っ赤な糸が蜘蛛の巣みたいに広がってくる。
ヴァルボロス(暫定)も同時に操っているのか、うにょうにょモゾモゾとすごい勢いで俺を包みこもうとしている。
剣で斬る……いや、木の葉が糸に触れた途端に爆発していた!
俺が距離を離そうとする前に、力強い声がする。
「ビキニヴォイス‼‼‼」
ハミィの全力生声が大気をふるわして、糸をも振動させた。
ボカンボカンッと糸が誘爆していく、ハミィは黒煙が舞う中で可愛らしくアイドルポーズを決めていた。
「こ、これがアイドルの力よ!」
アイドルの力を勘違いしているけど効果があったのでよし! ナイスビキニだ‼
クオンがヴァルボロス(暫定)をじいっと見つめる。
「ヴァル」
「無視をしろ無視を‼」
ちっ……! 惑わされないか!
普通の敵ならツッコミをいれるところなのに……強敵だ!
クオンの術も厄介なのに、さらにそれを操ってくるしな。うまく連携できているし、奴の意識を他に向けられないものか。メメナとハミィの遠距離攻撃以外でもどうにか……。
そのとき、飛ぶ斬撃がヴァルボロス(暫定)に向かう。
「狡噛……ストライク‼‼‼」
「ぬうっ……⁉」
障壁ではじかれたが、俺以外の飛ぶ斬撃に驚く。
サクラノ本人もカタナを構えたまま驚いていた。
「し、師匠! わたし、飛ぶ斬撃をだせました!」
「言っただろう! サクラノならできるんだって!」
「はい! はい!」
「人間はな! 技術で斬撃を飛ばせるんだって!」
「はい! ずっとずっと疑っておりました!」
サクラノの成長に目頭が熱くなる。
ん……? 疑っていたって……自分を? それとも俺を……?
悩んでしまった俺をよそに、クオンがヴァルボロス(暫定)を指でつついた。
「ヴァル」
「……技術で飛ばせるならそうなんだろう! むっ⁉」
「光陰瞬!」
メメナが微笑みながら油断大敵と光の矢を放つ。
ヴァルボロス(暫定)は障壁で防いでいたが、喜んだように叫んだ。
「そう! こういうの! こういのでいいのだ!」
「ヴァル、アホアホ空間にとりこまれている」
「ぐううっ! おのれええええ、勇者あああああああ!」
俺、関係なくない⁉⁉⁉
クオン&ヴァルボロス(暫定)コンビが魔術を連続で操ってきたので、俺はガシガシ打ち消していく。
そして中央通りの路地裏から、スルがおっかなびっくりと顔をだす。
「旦那ー! みんな避難できたから全力で戦って大丈夫だよー! うちも女神さまと一緒に逃げるからーーーー!」
よっし! ならがんばっていきますか!
俺が気合をいれなおすと、女神キルリの声がする。
「がんばれーーーー! 勘違い勇者ーーー‼」
勇者だと勘違いしているのはみんなの方なのになー。
俺は苦笑しつつ黒銀の剣をふるい、仲間と共に戦いつづける。
こう言ってはなんだが、なんやかんやで賑やかだ。
楽しくて騒がしい、いつもと変わらないドタバタの中で、ヴァルボロス(暫定)も全力で楽しんでいるようにも思えた。
ただ一人、クオンだけが浮いていたが。
「いくよ、勇者ダン」「勇者ダンンンンンンッ!」
クオンの淡々とした声と、ヴァルボロス(暫定)のうらめしそうな声がひびく。
――そうして数時間は戦ったか。
メッガミーランドのそこかしこが壊れていて戦闘の激しさを物語っている。死霊はほとんどいなくなっていた。
俺とお疲れぎみの三人娘は、暗黒城の元女神の間にいた。
クオンはひゅーひゅーと息苦しそうに膝をついている。紫色のオーラも消えていた。
ヴァルボロス(暫定)も地べたにいるが、威厳を保つように立っている。
「……………………バケモノめ。ここまでとは思わんぞ」
ヴァルボロス(暫定)はもう戦う力がなさそうだな。
ふー……久々に全力を出した気がする。一応手加減はしたし、それがわからないクオンじゃないはずだ。
だけど、クオンからは戦う意志が消えていなかった。
「なあ、クオンたちの負けだよ」
「宿敵、最初に言ったよね……ボクたちは殺し合う運命だって……」
力の差はわかっただろうに、なにをそこまで。
ヴァルボロス(暫定)も差を察したのか、小声で告げる。
「……クオン、一時撤退だ。今は力を蓄えるときだ」
聞こえているっての。
俺が剣を構えなおそうとすると、クオンがよろよろと立ちあがる。
「ヴァル、魔王が逃げてもいいの?」
「誰が逃げるだ! 戦略的撤退だ!」
「刺し違えても殺したい相手なんだよね? それで満足できるの?」
「……お前の力不足だと言っておる!」
魔王に魅入られた器みたいな関係……なんだよな?
それにしては対等に思える。俺がヴァルボロス(暫定)を認知していなかったときも、二人は言い争っていたみたいだしな。
う、うーん……。
「二人は仲がいいのか?」
ヴァルボロス(暫定)より早く、クオンが答えた。
「まさか。うるさくてやかましくて……面倒だと思ってるよ」
「いつから一緒にいるんだ?」
「ボクが小さい頃……。孤児だったボクに闇の資質を見出して、魔王に仕立て上げようとしてからずっと……。魔王のくせに暇だよね」
ヴァルボロスは「なにおぅ⁉」と怒った。
クオンの表情は変わらない。本気でうっとしそうにもしてなさそうだが。
困ったな、クオンが本気でわからない……。世界を拒絶しているわけでもないし、誰かを恨んでもなさそうだし、それで俺と殺し合いをしたがっているし……。
それに本当に本当に、魔王ヴァルボロスなのか???
魔王の断片が闇の資質のクオンにとりついたって話だが……。
そこで、大きな点が脳内で浮かぶ。
他にも点と点があらわれ、バシバシと繋がっていく……この感覚! いつもの直感だ!
館のときはちょっぴりだけ勘違いしたが、今度は間違いない‼‼‼
まさか……こんな真実が隠されていたなんてな……。
「そうか……そういうことだったんだな……」
俺が重々しくつぶやくと、サクラノとメメナとハミィが目をあわせる。
そうして三人を代表するようにサクラノちょっと不安げに聞いてきた。
「師匠、どういうことでしょうか……?」
「クオンの目的に裏も表もない……本当に俺と殺し合いをしたかったんだ」
「まあ、そう言ってましたよね。殺意もありましたし」
「ああ……それだけが……目的だったんだよ……」
俺はクオンをまっすぐに見据える。
そう思えるだけの積み重ねが二人にあったのかもしれないけれど……。でも彼女は本気なのだとは今までの素振りからは察せた。
「クオン、魔王と一緒に死んであげる気だったんだな……」
クオンの表情は変わらない。
なにを考えているのかわからないが、間違いないはずだ。
ヴァルボロスは苛立ったように叫ぶ。
「はっ……! 我と一緒に死ぬだと! 馬鹿馬鹿しい! コイツは食い意地のはった奴なのだ! 意地汚く、図々しく……コイツはな……!」
声を発しなくなったクオンに、ヴァルボロスがおそるおそるたずねる。
「おい、クオン……?」




