第32話 ただの門番たちと夢と希望の王国④
そしてついに完成の日がやってくる。
今日は午後から試験営業だ。
「メガッミーランドにようこそ!」
メッガミーランド正門で俺の門番台詞が炸裂する。
夕焼けのメガッミー城を背にした広大なテーマパークに、声だけが虚しくひびいた。
「……門番台詞で気分だけでもと思ったけど」
物寂しさがつのるだけだった。
スルや女神キルリは華やかになったテーマパークを眺めている。
メメナたち三人も同じだ。三人娘はセーラー服を着ることでシューガクリョコウ感をだしてはいるが……。華やかだからこそ、お客がいない現状が際立っていた。
「ハハァ! メッガミーランド完成だあ!」
メッガー君は満足そうにメメナの周りで飛び跳ねている。
メメナは優しく笑いかけていた。
「うむうむ、ようやくお披露目じゃな」
「うんっ! これでこれでこれでこれで妹も帰ってくるんだ! やっとやっとやっとやっとやっと妹に会えるんだ‼‼‼」
メッガー君の魔性の気配が濃くなった。
テーマパークが完成すれば納得するかと思ったが、やっぱり根底は妹に会うためだ。セーラー服でシューガクリョコウ感をだしても満足してもらえなかったか……。
今すぐ俺が倒すべきか……?
仲間にイヤな思いはさせたくないが……いや。
「よっし! それじゃあみんなであそぼっか‼」
俺はつとめて笑顔で叫んだ。
みんな少し驚いた様子で俺を見つめてくる。
「いや、ほら、だってさ! みんなでがんばって完成させたんだからさ! 古代の遊び場で思いっきり遊んでみたいじゃないか!」
俺はあははーと子供みたく笑う。
そんな俺に、メメナは大人っぽく笑い返してくれた。
「ふふ、そーじゃな。みなで完成させたものな」
「だろ? 一度お客さま気分で思いっきり遊んでみたかったんだよ!」
俺は変にとりつくろわず、素直に笑ってみせた。
明るく楽しいテーマパークなんだ。みんなで遊び、笑いあってこそが華だ。それでなにかが変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。けれど鬱々しているよりはマシだし、魔性だろうが関わったからにはトコトン付き合うさ。
メッガー君も喜んでくれた。
「みんなで楽しんでくれると嬉しいな! あとのことは任せてよ!」
「いやいや、メッガー君も一緒に遊ぶんだって」
「ボクはお客さんの案内があるからさ!」
「お客……?」
俺たちを案内するのか思ったらそうじゃなかった。
メッガー君はぴょんぴょんと跳ねていき、正門前に集まっていた人影に声をかけた。
「メガッミーランドにようこそ!」
いつのまにやら人影が集まっていた。
何十人、何百人もの人影だ。開園を待っていた彼らはぞろぞろとやってくる。
人影、本当にただの人影だ。
人の輪郭がうっすらとあるだけで身体が透明だ。意志をもたないのか、ふらふらとした歩き方で誘われるようにやってくる。
「な、なになに⁉ どゆこと⁉」
突然の出来事に俺たちは驚きまくった。サクラノだって飛びかからず、呆然と成り行きを見守っている。
するとメメナが納得したようにうなずいた。
「死霊が導かれたか」
「あ……。そういえば魔素が活性化すると死霊が湧きやすいんだっけ……?」
「兄様、彼らからなにか感じるか?」
メメナにそう言われて、俺は人影の気配をさぐる。
「悪い感じはしないな……。意志も特にないみたいだ……」
「であれば迷い霊じゃな。死後に導かれず、さ迷う者たちじゃ」
「メッガミーランドに集まってきているみたいだけど?」
「特殊な場所じゃしな。冥府の門だと勘違いしたのかもしれん」
勘違いかあ。勘違いした人、多いなあ。
あるいはこれも、シューガクリョコウ感のおかげなのか?
大勢の人影は正門をぬけて、メッガミーランドにぞくぞくと散ろうとしている。
自分が誰だかわからないし、ここがどこだかよくわからないけれど、なんだか明るくて楽しそうな雰囲気に浸りたい。そんな様子で彷徨っている。
家族連れみたいな人影もいるな。
メメナは、女神キルリに視線をやる。女神はニコニコ笑顔でいた。
……はて?
「兄様、彼らをもてなしてやりたいのじゃが」
メメナは悪戯するみたいにニンマリと、でもきっと、それがみんなの楽しいに繋がると信じている笑みでいた。
俺も自然に笑ってしまう。
「ド派手にお願いするよ、メメナ」
「うむ! いーっぱい期待するがよいぞ!」
メメナは笑顔で一歩前にでる。
クラフトの杖をくるくると回して光の螺旋を作る。
光の螺旋はだんだんと大きくなり、花火のように打ちあげられる。
夕焼け空でドッカーンッと散ったあと、光の飛沫がぱらぱらとメッガミーランド一面に流星のように降りそそいだ。
各アトラクションに光が灯る。
ガタゴトガタゴト、明るく楽しく、管楽器のような音楽がひびきはじめた。
次々に来園する死霊たちに向けて、自動アナウンスがひびく。
『メッガミー♪ メッガミー♪ メッガメッガミー♪ 夢と希望の王国メッガミーランドにようこそ! 女神さまがメッガミー城で待っているよ!』
ざわざわと死霊の声が聞こえてきて、途端に騒がしくなる。
クラフトの杖をふり終わったメメナが明るく告げた。
「夢と希望の王国メッガミーランド、開園じゃ!」
童心にかえったように俺もワクワクしてきたな。
よし……どんな結末になろうとも、明るく楽しいメッガミーランドがここにあるって証明するんだ!
と、くぐもった笑い声に気づく。
視界の端で、草刈さんが大鎌を持ったまま立っていた。
「くひひ……くひひひひひひひひひ……!」
待ちに待ったこのときがやってきたみたいな笑い声だ。
草刈さんも手伝ってくれたものな、きっと喜んでる!
さあっ! 夢と希望の王国メッガミーランド開園だ!
ハハァ!




