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第31話 ただの門番たちと夢と希望の王国③

 それから何日か経つ。

 夢と希望の王国メッガミーランドはちゃくちゃくと完成に向かっていた。


 ランド内には古代の従業員用宿泊施設もあり、使い方のわからない器具がいっぱいあった。よくわからなものはそのままにし、俺たちはふかふかベッドで休むことができた。


 今日も絶好のランド日和。


 まっ白なメッガミー城が、太陽に照らされてまばゆく光る。

 昔は城に住まう女神さまと面会するツアーがあったのだとか。


 メッガー君はランドシンボルの女神さまをメメナ推しで進めていたのだが、女神キルリが「私こそがこそが真の女神」だと言って激論を交わした。


 そんなわけでダブル女神体制となった。


 メッガミーランド正門前には、メメナと女神キルリの看板がある。

 顔部分に穴がぽっかりとあいた看板で『君も女神になれる』だとかなんとか。


 古代の独特なセンスを感じながら巡回していると、歌声が聞こえてきた。


「メッガミー♪ メッガミー♪ メッガメッガーミー♪」


 メッガー君がランドテーマを歌いながら歩いてきた。

 メメナはセーラー服姿でクラフトの杖をふるい、ビビビーッと光線を放っている。


 お洒落な街灯、お洒落なベンチ、メガッミーランドが彩られていく。


「メッガミー♪ メッガミー♪ メッガメッガーミー♪」


 メッガー君、楽しそうだな。魔女のパレードみたいだ。二人しかいないが。

 しかしホントよく懐いている。俺でさえメメナを年上だと感じることがあるのだから、メッガー君もそれはもう母親のように慕っていた。


『女神さま! 女神さま! あのねあのね!』

『うむうむ、ちゃんと聞いておるぞ』

『子供たちが、いーっぱい笑ってくれる王国がいいんだ!』


 と、メメナの膝上で嬉しそうに語るメッガー君をよく見かける。

 ついついホッコリしてしまうが、それでも妹のことになると正気を失いかけるので魔性なのは変わりない。


 油断しちゃいけないとは思うんけど……。


「メッガミー♪ メッガミー♪ ハァイ♪ ハァイ♪」


 ああも楽しそうだと願いを叶えてあげたくなるな。

 しかし不思議な曲だ。どこかで聞いたことがあるような……掘りさげてしまうと危険な気もする……。魔性の曲なのだろうか。 


 ちなみにメメナと女神キルリを模したメッガミーグッズも販売される。

 クラフトの杖があるとはいえ、人員や資金源はどこにあるのかだが。


「――旦那ー、お手紙だよー」


 悪魔族スル=スメラギが、お手紙を何枚か持ってやってきた。

 ランド内にはスルだけじゃなく、他の悪魔族もチラホラいる。ランドスタッフとして彼女たちは働いていた。


「……ココリコたち、元気にやってるみたいだな。ありがとう」


 手紙を何枚かたしかめてから言った。

 スルには荷物預かりサービス(以前高級装備を預けた)だけでなく、郵送サービスもお願いしている。お得セットでとにかくお得らしい。


「どーいたしまして」

「悪魔族の呪いがとけて今すごく忙しいのに……。手伝ってくれて助かるよ」

「旦那の頼みならなんだって聞くよ。あと、めちゃ稼げるしねー」


 スルは楽しそうに笑ってくれた。


「…………そんなに高価だったのか?」

「あれだけの貴重鉱石(レアメタル)は、そう市場に出回らないよ」


 足りない人員は、悪魔族にお願いすることになった。


 ちなみに女神キルリ案である。お代は神々産の鉱石だ。

 女神キルリは悪魔族を嫌っていたようだし、悪魔族も神々によい顔はしないかなと思っていたが、案外しっかりと働いていた。


「うちらが素直に働いていて意外?」

「まあ、率直に言えば」

「悪魔族の明日も大事だけどどねー、今日のご飯も大事なわけ」

「……ごもっともです」


 スルは笑顔で、そして切実に言っていた。

 っと、忘れるところだった。


「そうだ、スル。お願いしたいことがあるんだけど」

「んー? なんだいなんだいー?」


 ごにょごにょと伝える。このままだと不安だったのでお願いしておくと、スルは笑顔で了承して去っていった。


 俺もできることはやっておかないとな。

 ……それじゃあ見回りに行きますか。


 俺は正門を離れて、フードエリアに向かった。


 フードエリアなんてメッガミーランド完成には必要ない場所だし、メッガー君も特にいらないとは言っていたが、いつのまにかシレーッとできていた。


 原因は彼女だ。

 フードエリアのベンチで、クオンがポップコーンむさぼっていた。


「やあ宿敵、今日はいい死闘日和だよね」

「雑に戦おうとするな、雑に」


 とってつけた感がすごい。


 クオンはクラフトの杖に古代の食材加工器具があるとわかるなり、いかにもずっと俺たちの仲間でした面で悪魔族に食材は頼むやら、メメナに土下座してせがむやらでこのフードエリアを作った。


「ふふっ、お互い死ぬにはちょうどいい日だよね……」


 塩味ポップコーンをむさぼるクオンから死の気配をまったく感じない。


 このマイペース娘に悪魔族も困っていた。

 あと女神キルリは笑顔でいたが……怖いぐらいの殺気を感じたな。絶対に許してはいけない怨敵がクオンに宿っているかのように、たまに睨んでいる。


「なあクオン、女神さまに怨まれるようなことをしたのか?」

「ボクに内に眠っている元魔王の断片がね」


 クオンはさらりと言いのける。


 彼女が内なる者と言い争っているような光景をたびたび見かけてはいる。

 だけどもし、本当に魔王ヴァルボロスが眠っていたらありえないのだが。


「もし本当ならさ、女神さまが放っておかないだろう」


 ……本人、めちゃ殺気は放っているが。


「んー、ヴァル曰く『牽制だろう』って」

「牽制?」

「えっとね、『お前たちのことは監視している。企みがあるならやってみろ』って言いたいみたい。ボクのような存在が他にもいるか、探っているんじゃないかな」


 闇の資質のことか。

 クオンは女神なんて興味なさそうにポップコーンをもふもふ食べる。


「うまー。前大戦でよっぽど痛い思いをしたみたいだね、殺気が半端ないよ」

「世界の文化がいちじるしく衰退したって聞いているな」


 ……殺気に気づいてはいるのか。


 魔王ヴァルボロスの爪痕はいまだ世界に残る。

 数百年前、世界は暗黒に染まりかけた。地域によっては魔王ヴァルボロスを畏れて、名前を言うことも禁じられているらしい。


 魔王は絶対に許してはいけない存在として語り継がれていた。


「勇者ダン」

「だから俺は勇者じゃないっての」


 クオンは特に表情を変えず、ポップコーンの容器をくしゃくしゃに丸める。

 ゴミ箱にぽいちょと投げ捨て、冷たい顔で告げてきた。


「君がどう自覚しようが、ボクたちの決戦の日は近いよ」

「……だとしたら?」

「ボクはボクのために君を殺す。だから君は仲間のためにボクを殺すんだよ」


 すべての命を平等に見定めるような瞳。

 自分の命すらも無価値と思っているような表情だ。


 ………………クオンから感じる妙な気配が、以前よりわかりやすく邪悪になりつつある。それこそ王都下水道の魔王分身体のように。

 いやアレよりも強い気配になりつつあった。


 今すぐに倒したほうがよいと俺の悪人センサーが囁いてくるけれど……。


「クオン、楽しんでいるか?」

「うん、楽しい」


 クオンは素直にそう言った。

 ……もう少し見守ろう。クオンも、メッガー君のことも。


「それでだ。ちょっとぐらいは遊園地完成に向けて手伝ってほしいんだが」

「……品質の管理業務」

「食べているだけじゃないか。少しは草刈りさんも見習えよ」


 フードエリアの路地裏で、草刈さんが派手衣装で大鎌をふるっていた。

 草刈さんは「くひひ! くひひ!」と笑っている。


「草刈さん、働き者だよねー」

「ねー、じゃあないんだよ」

「わかったよぅ……ちゃんと働くよぅ……」


 ここ一番悲しい顔をしてからに。

 働かずにただ飯を食べようとする精神のほうが邪悪だ。


 闇の資質どーのより、そっちのほうが問題だと俺は嘆息ついた。

 こんなバタバタしているときに、殺人デスピエロなんていかにも物騒な存在が権限していなくてよかったよ。いかにも悪そうな名前だもんな。

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