第30話 ただの門番たちと夢と希望の王国②
女神キルリ。
あの世みたいな場所で温泉宿を経営している女神さま。現世に関与できないから戦士を癒すことで混沌の世を導いている……とは聞いている。
いるはずのない女神さまに俺は面食らったし、ただちに説明も求めた。
以下説明。
「女神を崇めるところに私あり! 気合で受肉しました! たはーっ!」
笑顔とざっくばらんな説明に本物だとわかる。
メッガー君が女神キルリをまじまじ見つめる。
「うさんくさい。ぜんぜん女神さまっぽくない」
率直に言ったあ!
女神キルリの糸目がさらに細くなる。
「今すぐ滅ぼしますよ? この魔性風情が」
いかん! 闇なる存在をめちゃく嫌ってそう……!
俺は慌てて間に入る。
「ま、まあまあ! ど、どうして現世にきたんですか? 冗談ぬきで」
「それはもちろん! 面白そうなことをやっているからです!」
「帰ってもらっていいです?」
「そんなこと言っていいんですー? 修学旅行感しりたいんでしょー! 女神知識で知ってるのになー!」
かしましい……。
聞くだけ聞いて帰ってもらおう。そうしよう。
「それで……シューガクリョコウ感ってのなんなんです?」
「それはもちろん、セーラー服ですよ‼」
ですよーですよー、メッガミーランドに元気な声がひびいた。
セーラー服とはなんぞやと思ったが、女神キルリがメメナにごにょごにょと耳打ちする。二人してにんまりと笑っていた。
あ……よからぬ者がタッグを組んだ……。
そんでもって、少し時間が経つ。
ランドシンボルのメッガミー城前の花畑に、セーラー服姿の三人娘がいた。
「じゃーん! これが修学旅行感です!」
女神キルリがどややーと紹介してくる。
セーラー服。真白いトップスに大きな角襟がついた服で、スカーフがワンポイントでついている。きちりとしたスカートに、シックな革靴が清潔感のある印象を受けた。
魔導学園が似たような服で統一していたので、おそらく制服か。
「師匠ー、けっこー着心地いいですねー」
サクラノはセーラー服姿な自分をたしかめながら言った。
黒髪が清潔感のある格好によく似合っている。着物より露出はあるのだが、普段よりも凛としていて落ち着いた雰囲気だ。
まあ、腰にカタナがあるので攻撃性は隠せていないが。いや。
「……セーラー服とカタナって妙に合っているな」
「ですよね。わたしもそう思います。不思議と馴染んでいる気がして」
「うん、深夜にモンスターを狩ってそうだ」
月下で煌めくカタナと真白いセーラー服。黒髪の美少女がモンスターを斬りふせる……映えそう! これもシューガクリョコウ感ってやつか?
サクラノはちょっと得意そうにした。
「わたしは根から武人なので、どんな格好でも戦う姿が想像しやすいのでしょうね」
「まあ普段のサクラノをよく知ってしるな」
死地に怒鳴りながらつっこむ子だし。どんな服でも武人な姿が頭をチラつくわけで。いやまあバニースーツ姿に見惚れたこともあったけども。
と、サクラノが革靴のつま先で地面を叩く。微妙に合っていなかったみたいだ。
「? ……師匠?」
「…………けど、すごく可愛いと思う」
「ふぇっ⁉」
俺はしみじみと言ったからか、サクラノは赤面した。
ド、ドキッとしたあ……。
スカートがひらりと舞って、ぴっちりした靴下が綺麗な足のラインを魅せてきた。サクラノの女の子な仕草がとんでもなく可愛かった!
これが、シューガクリョコウ感なんだな!
俺たちが照れ照れしていると、ハミィの声がする。
「この服……魔素伝導率がよい服とかなのかしら……?」
ハミィはセーラー服の裾を不思議そうに指でひっぱっていた。
っっっ! すごい‼
「先輩? どうしたの?」
「すごいよ、ハミィ! いつにもましてすごい!」
「そ、そうなの? 魔素の巡りがよくなっているのかしら?」
「ああ、きっとそれもシューガクリョコウ感だよ!」
露出度は減った! 間違いなくバニースーツのときよりも減った!
だが! だけど! 破壊力が増したんだ!
ちょっとサイズが合わなかったのか、ぱっつんぱっつんな胸元が今にもはじけそう。トップスの裾が浮いていて、お腹がチラッチラッと見える。
服はお清楚な雰囲気なのにすごいすごいすごい!
ハミィは嬉しそうに言う。
「シューガクリョコウ感すごいわ!」
「ああ! シューガクリョコウ感すごい!」
俺が感服していると、「師匠……?」とサクラノの冷たい視線を感じた。いかん、ドスケベ師匠だと思われてしまう。
コホンと咳払いして、話題をむりやりにでも変えた。
「しかし、アイドルのステージ衣装としても映えそうだな」
「ええ、清潔感があって可愛い服だし……ピーさんも喜びそうだわ」
「セーラー服姿の子が何十人も歌って踊ったら人気でそうだよなー」
「もー、先輩ってばー」
ありえないかーと俺たちはアハハと笑いあった。
けれど『その案ナイスビキニ! いいえ、ナイスセーラーよ!』とピーさんの幻聴が聞こえたような、なかったような……。
シューガクリョコウ感、可能性を秘めすぎて恐ろしいな。
「――兄様、お次はワシの番じゃぞ」
メメナの期待する声がする。
可愛い銀髪美少女がポーズをとっていた。
にまーっと愛らしい笑みを浮かべて片手でスカートの裾をつかみ、少女の武器である綺麗な生足をちらっちらと見せてくる。
俺は叫ぶように褒めた。
「すごっっっっく! 可愛い‼‼‼」
「じゃろうじゃろう、可愛いじゃろう♪」
メメナはうへへーと頬をゆるませる。
ここで褒め足りないとあとで悪戯されてしまうので、メメナ相手に変に照れてはダメだと学習していた。
「メメナの愛らしさがこれでもかってあらわれてる! 清楚な雰囲気とメメナの神秘的な要素が合わさって、この世のものとは思えないほどの可愛さだよ!」
「兄様に褒められると嬉しいのうー」
「可愛い! 可愛い! カワイイ!」
「うへへー、ええもんじゃのぅ♪」
「でも」
「でも?」
「犯罪臭がするのはなぜ……?」
普段着より、バニースーツ姿より、露出度は減っている。
なのに年下感が増したというか……メメナのお母さん的な側面とあいまって、なんか卑猥度が増したような気が……。
これもシューガクリョコウ感、なのか……?
「兄様、可愛いは可愛い。それでええではないか」
深く考えこんだ俺に、メメナが笑顔で言った。
まあご機嫌ならそれでいいか。メッガー君も嬉しそうだし。
「女神さま、すっごく綺麗! さすがメッガミーランドの女神さまだ!」
メッガミーランドには『万物の女神』が存在する。
このランドを創った女神さまでメッガミー城からみんなを見守っている……設定だ。
動く絵でなんとなく伝わってきた女神のキャラ性は、少女なのにお母さんみたいな子で、メッガー君がメメナを女神と勘違いするのもわかる。
そして、本物の女神キルリは機嫌悪そうにしていた。
「本物の女神は私なんですけどね。私なんですけどね。私なんですけどね」
女神らしからぬ闇をあふれさせている……。
ちなみにセーラー服は女神キルリが用意した。
クラフトの杖をちょっと弄ったとかで、ビビビーと光線で創ってみせた。神話時代の代物なのはたしからしい。今はメメナの手に戻っていたが。
そのメメナは楽しげに微笑む。
「シューガクリョコウ感もこれで万事解決じゃ! みなのものー、メッガミーランド完成に向けてがんばるぞー!」
メメナの号令に応えるよう、みんな「おー」と拳をあげる。
本当に面倒見がいいよなーと思いつつ、また面白がりはじめてないかなーと、少女の悪そうな笑みにちょっぴりだけ不安にもなった。




