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第29話 ただの門番たちと夢と希望の王国①

 そんなわけで俺たちはメッガミーランド完成に動きだした。


 どこまですれば完成になるかだが、メッガー君は「妹が喜ぶ場所! あとみんなが楽しめる場所!」と元気よく答えた。


 妹は10歳だったらしい。

 なら子供目線で考えて、それから大人も楽しめるテーマパークを目指した。


 景観も大事ということで草が伸び放題な箇所はサクラノが斬り、失敗してそのままの瓦礫はハミィが粉砕・撤去していった。


 彼女たちを手伝いつつ、俺は安全基準をたしかめる。

 丸太のような乗り物で水を流れていく『ウォーターざっぷるーん』を終えた俺に、メッガー君が足元で騒ぎながら聞いてきた。


「おにーさんおにーさん! どうだったっ?」

「波にゆられて楽しかったし、最後の急流も浮遊感があってよかったよ」

「でしょー! じゃあこれは合格だね!」

「ダメ」


 俺は厳しめの評価をした。


「えー、なんでさー?」

「子供が乗るには座席が不安定だし、手を伸ばしたら危険なところもあった。身長制限をもうけるか、座席にもっと固定させないとダメだな」


 正直安全だと思ったが、めーーーちゃくちゃ安全基準を厳しめにした。


 メッガー君は猫のぬいぐるとマスコットみたいだが、魔性は魔性。妹関連で正気を失いかけていたし、創ったものはイマイチ信用できない。むしろ厳しくすることでボロをだすかもしれないと思った。


「わかった! おにーさんの言うとおりにするよ!」

「……アッサリだな」

「施設案内でもそう紹介していた気がする! 他の乗り物もそーするよ!」


 そうなの???

 王都の祭りごとより安全基準をずっと厳しめにしたつもりなんだけど……。


 今の倫理観って俺が思うよりゆるゆるなのか……?


「それとだ、メッガー君」

「なんだい、おにーさん」

「あの自動販売機ってやつ、本当に誰かが見張っていなくていいのか?」


 硬貨を入れたらジュースがでてくる鉄の箱だ。商品は入れてないが、人が集まる場所の販売所なら防犯にもっと気をつけなきゃだ。


「大丈夫! そんなの必要ないんだって!」

「しかし人間というものはな」

「おにーさん、人が人を信じられなくてどーするのさ」


 メッガー君は真摯な声で言った。

 ……大昔の人は善人ばかりなのか、それとも管理が行き届いていたのか。場所によるのかもしれないけど。


 と、急流すべりを終えたサクラノがやってくる。


「師匠ー、わたしでは物足りない刺激でした」

「そりゃあ子供向けだしさ」

「やはり丸太にしばりつけて、滝つぼに落とすぐらいしなくては」

「武人育成施設じゃないんだぞ」


 メッガー君はドン引いたのか、すーっと下がっていく。


 まずいっ、今を生きる俺たちが蛮族みたいになっている。

 ちょっとモンスターを狩って素材やらで生計を立てたりするぐらいなのに! ……あれ、蛮族なのか?


 俺が考えこんでいると、メッガー君が嬉しそうに叫ぶ。


「女神さまー!」


 メメナがクラフトの杖を持ってやってきたのだ。

 メッガー君は子供みたいにメメナの周りを飛び跳ねている。


「女神さま女神さま! どこに行ってたの!」

「すまんすまん、ちょいとメリーゴーランドを改良しておってな」

「なになに? どーしたの!」

「ハミィの意見を聞いて、もっと可愛らしい曲調に変えておったのじゃよ」


 メメナが優しく微笑み、メッガー君がバンザーイと喜ぶ。


「すごいすごい! それすっごくいいね!」

「うむ、子供が喜ぶじゃろうな」

「あのねあのね女神さま! 急流すべりを改造して欲しいのー!」

「ええぞええぞー、どこを改造すればええんじゃ」


 メメナの表情はすごく優しい。メッガー君は子供みたいにはしゃぎ、話題をコロコロ変えてもやんわり対応しているな。


 ホントお母さんみたいだ。

 ……年下の女の子に母を感じるのって、どうなんだろう。


「師匠? 具合が悪いのですか?」

「大丈夫……いや大丈夫じゃない……いや大丈夫……」


 まあメメナは族長だったしな。

 面倒をみるのが得意……ということにしておきたい。


 そんな俺を見透かしてか、メメナが妖艶に微笑んでくるのでドキリとした。


「女神さまー、ついてきてよー」

「はいはい、今行くぞ」


 メメナは笑顔で杖をふるい、ビビッと光線を放って急流すべりを改造しにいった。

 ……彼女には一生頭があがらない気がする。


 しかし本物の魔術師みたいだ。パーティー内には魔術師(物理)がいるので、いつもは弓で援護してもらっているが、普通に術が使えるんだろうな。


 魔術の造詣にも深いよなと、メメナとの会話を思い出す。


『兄様、よくないものがあらわれたら教えておくれ』

『よくないもの?』

『周囲の魔素が活性化したのなら死霊が湧くかもしれんが、そう悪さすることはない。なにせ迷える魂じゃ。厄介なのは()()()()()()()()()()()()()()ときじゃ』


 メメナが真面目な表情のときは深刻な問題のときだ。

 俺は真剣に耳をかたむけた。


『たとえばじゃが、死霊が依り代に憑依してしまったとき』

『えーっと、骨とか人形とか?』

『うむ、それらは魔素と結合することでモンスター化する。一番問題なのは概念をのとって顕現した存在じゃ』


 メメナはちょっと厄介そうに言った。


『怖い話をすれば怖い存在がよってくる。この場合、怖い怖いという恐怖の概念に死霊がとりつき、魔性が生まれたといえよう』

『……つまり?』

『ここにはホラーハウスなる恐怖の屋敷があった。ワシが子供向けに改造したので大丈夫とは思うが……もしかしたら恐怖の存在がすでに顕現したかもしれん』


 メメナは昔の言語がある程度わかるらしい。

 エルフの古代語なのかなと思いつつ、おそるおそる聞いた。


『どんな存在なんだ……?』

『殺人デスピエロ……というらしい』


 殺人デスピエロ。いかにもぶっそうな存在だとわかる。


 なにせ殺人デスピエロだ。

 殺人デスピエロ……顕現していないとは思うけれど……。


 ふと、視界の隅で蠢くモノがいた。

 赤鼻で、まっ白い化粧をしたハデハデな服を着た人だ。大鎌をふるい、「くひひっ……」と笑いながら草を刈っている。


 草刈りさん(仮)だ。


 近所に住んでいた草刈り趣味の人なようで、メッガミーランドの草を刈りにくる。見た目が奇抜で笑い方はちょっぴり怖いが、仕事は丁寧だ。


 しかし殺人デスピエロか……あらわれていないとは思うが……。


「師匠? どうされました?」

「ん? ああ、ちょっと考えごとって……あれ?」


 気づけば草刈さんはどこかに消えていた。しまった、殺人デスピエロについて話しておこうと思ったのに。今度会ったときに伝えておくか。


 と、メメナがメッガー君と一緒に戻ってきた。


「兄様ー、サクラノー。聞きたいことがあるんじゃがー」

「? どうしたんだ」

「シューガクリョコウ感がわかるか?」


 謎ワードに、俺もサクラノもきょとんとする。

 とっても大事なことなのか、メッガー君は元気よく言った。


「テーマ―パークにはね! シューガクリョコウ感が大事なんだよ!」

「大事と言われてもな……」


 具体的に教えてほしいのだが、メメナは困り笑みを浮かべている。

 なるほど、メッガー君もシューガクリョコウ感がなにかわかっていないのか。完成するのに必要なことなら困ったな。


 俺が首をかいていると、やけに聞き覚えのある声がした。


「――修学旅行感にお困りですか! ならば私が教えてあげましょう!」


 金髪、糸目、うさんくさい雰囲気。うるさい声。

 着物姿の人が立っていた……って⁉


 女神キルリさま⁉⁉⁉⁉

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