第28話 ただの門番、古代を知る
俺たちは猫のぬいぐるみこと、メッガー君にメッガミーランドを案内されていた。
ちなみにメッガー君と『君』をつけないと怒る。こだわりだとか。
俺は高い塔を指さしながら叫ぶ。
「アレのどこがみんなが楽しめるんだよ!」
「み、みんなとは言ってないよ! 一部の人だよ!」
メッガー君は手をわちゃわちゃと動かした。
「明るく楽しいテーマパークなんだろ? 恐怖しかないじゃないか!」
「アレがいいって人がいるらしいんだよ!」
「嘘だあ!」
「ホントだよ! バンジージャンプって言うんだよ!」
足首に紐をつけて。高い塔から飛び降りる遊びらしいけども……。
人間はある程度鍛えないと、高所から飛び降りると怪我をしてしまう。怪我を恐れてジャンプできなかった館の人たちを思い出した。
メッガー君、魔性らしく理性のタガがはずれているんじゃ。
疑心暗鬼になっていると、ハミィがふるえながら空中を指差す。
「あ、あの乗り物は馬より早く動くのよね……?」
鉄のハシゴがいくえにも伸びているやつだ。途中で何回転もしている。
メッガー君は自信満々に答える。
「ドラゴンより速い乗り物で滑走するんだよ!」
「い、椅子にしばられたまま動くのよね……?」
「みんなキャーキャーと声あげるんだ!」
「や、やっぱり拷問器具じゃない!」
ハミィは唇まで真っ青だ。いつもの思いこみかもしれないが、俺も同意だ。
メッガー君は必死に否定する。
「ちがうよ! ジェットコースターっていう安全な乗り物だよ!」
「い、椅子にしばられたままドラゴンより速く動くのよね……?」
「…………」
メッガー君が黙ってしまい、ハミィはかたかたとふるえた。
「ハ、ハミィがいくら頭ヨワヨワ獣人だからって騙されないわよ!」
「ぜ、ぜったい安全とは言いきれないみたいで……!」
「やっぱり!」
「馬だって落馬する危険性はあるでしょ⁉」
「ひょ、ひょえー……」
ハミィがすっかり怯えたので、メッガー君は諦めたように肩を下げる。
そんなメッガー君にサクラノが告げた。
「てーまぱーくか。なかなかに良いところだな」
「ほ、ほんと⁉ そう思う⁉」
「ああ、死をおそれぬ武人を育てるにはもってこいの場だ」
サクラノはバンジージャンプやジェットコースターを興味深そうに見つめた。
メッガー君は泣きそうな声で駆けだす。
「うわーんっ! 女神さまー!」
メメナはベンチに座っていた。
クラフトの杖を調べていた少女の足に、メッガー君がすがる。
「女神さまー! あの人たち全然信じてくれないよう!」
「おー、よしよし。対話とは大変じゃよなー」
「思いこみもすっごく強いみたいだしさあ!」
「すれ違いを楽しむのも人生じゃぞー」
メッガー君は頭をよしよしされていた。まるで大人と子供だな。
ちなみに、メッガー君がメメナを『女神さま』と勘違いしたのも理由がある。
あのクラフトの杖、完全起動したのは初めてだったとか。
メッガー君も扱えるのだが、物を創るのに魔素をかなり消費するらしい。メリーゴーランドを動かすだけでも一苦労なのだとか。
それをメメナが簡単に操った。まるで適合者かのように。
神話時代の魔導具を操ったメメナは『女神さま』ということらしい。
メメナの見解はこれだ。
『エルフ族は神々に創られたという伝承が残っておる。人間にも宗派があるので大っぴらにはしておらぬが……。あながち間違いじゃなそうじゃの』
俺は近づいてメメナにたずねる。
「メメナ、使い方はわかったか?」
「操作方法はだいたいわかったが、壊れかけておるな」
「そうなのか? いろいろ創れるみたいだけど……」
「他にもたくさんのものが創れる杖だったようじゃ。今はこのテーマーパーク関連のみになっているようじゃな」
メメナはクラフトの杖を指でカチカチと操作した。
ブウンッと音がして、青白い半透明の絵が空中に浮かぶ。
絵は可愛らしいタッチで描かれている。このテーマパークを描いたものらしい。取り扱い説明書みたいなものかな。
文字は……古代語で読めないな。
「メメナ、古代魔導具って厳密には魔術じゃないんだっけ?」
「超機械文明の代物とは聞いておるが……ワシもよくわからん」
と言ったが、メメナは使い方がわかるのか半透明の絵にふれる。
すると、可愛らしい絵がワチャワチャと動きはじめた。
動く絵でメッガミーランドの説明をしているみたいだ。音声も古代語みたいだが、可愛い女の子ががんばって伝えようとしている。
例のジェットコースターがものすごい速さで動いていた。
他の乗り物の説明も、絵にふれることで教えてくれる。古代語がよくわからなくてもこれなら感覚でわかるな。
「メッガミー♪ メッガミー♪」
メッガー君は流れている音楽にあわせて歌いはじめる。メッガミーランドのメインテーマ曲みたいだ。
絵で動いている可愛い女の子は、どことなく女神っぽい容姿だ。
たしかにメメナに似ているけど……これ本当に魔術じゃないんだよな???
「メッガメッガミー♪」
メッガー君はすごく楽しそう。サクラノとハミィも動く絵に興味をもったのか、仲良く見つめている。
と、メメナが杖を置いてベンチを離れる。
ちょいちょいと俺に手招きしてきたので、歩みよって耳をかたむける。
「……兄様、あの杖に妙な術の痕跡がある」
「? 古代魔導具なら術の痕跡があるもんじゃないのか?」
「比較的新しい術で上書きした痕跡があってな。……兄様はなにか感じるか?」
「えーーっと……ホントだ。よくない感じがする」
うっすらとだが邪悪な感じがする。魔王分身体の気配に似ている……?
メメナはううむと考えこむ。
「メッガー君はたぶらかした犯人のものじゃろうな」
「どういう術なんだ?」
「周囲の魔素を活性化するものじゃ。メッガー君だけじゃ、テーマパークが完成しないとふんだのだろう」
「よい術に聞こえるけど」
「魔素の活性化はよくない。モンスターが活性化するし、よくないものも呼び寄せる」
故郷で死霊系が湧きやすいメメナは真面目な表情だ。
たしかに死霊系は対処が面倒なんだよな……。
「なら、杖を破壊するか?」
「すでにテーマパークが完成しつつあるしの……。魔性が執念で作りあげたものじゃ、強大な術式と考えてよい。術の要を下手に破壊すれば、なにが起きるかわからん」
「迷い狂い町化するとか?」
メメナはうなずいた。
あー……それは大変だな。あの町は偶然脱出できたものだし……。
「兄様、一番の解決策は術の大本を消すことじゃが」
「つまり、メッガー君を倒すしかない……?」
「あるいは納得して浄化してもらうかじゃが」
俺とメメナは問題の魔性に目をやる。
メッガー君は楽しそうに踊っていた。
魔性は信用ならないことが多いけれど……あれは倒しづらい……。
「……本人に納得してもらうしかないな」
「うむ、兄様のそーゆーところが大好きなんじゃ」
メメナは嬉しそうに見つめてくる。
その眼差しには応えたいが、ちゃんとするところはちゃんとしないとな。
「怪しいと思ったら、俺はすぐにでも止めるよ」
大昔の遊び場ってのも、まだ信用しきってはいない。
杖に術をかけた犯人とやらに騙されている可能性もあるわけだ。
「もちろんじゃ。では方針が決まったな」
メメナは微笑む。
そして楽しそうに踊るメッガー君に、快活に告げた。
「メッガー君! ワシらがメッガミーランドの完成を手伝ってあげよう!」
「ほ、ほんと⁉ やったー‼ ありがとうーっ!」
メッガー君は嬉しそうに「ハハァッ!」と笑う。
魔性の笑い方なのだろうか、すごく不思議な笑い方だ。……やっぱり怪しいよなあ。




