表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/148

第27話 ただの門番、夢と希望の王国と知る

「――ここから立ち去れ! ニンゲン!」


 猫のぬいぐるみが、白黒クマの乗り物に立っていた。悪だくみが好きそうな顔でどこから声をだしているやら。ただのモンスターじゃないな。


 猫のぬいぐるみは、金属製の棒を俺たちに向けていた。


「早く去らなきゃ、この『クラフトの杖』で攻撃するぞ!」


 杖? ただの金属製の棒に見えるが……。

 いやそれよりも魔性の気配だ!


「は、早く去らないと攻撃しちゃうからな!」

「狡噛流! 脳砕き!」


 タッタカターといつもどおり駆けていたサクラノが斬りかかる。


 ホントすごいな……一切躊躇いがない……。俺ちょっと考えるからな……。


 だが、サクラノの斬撃が届くことはなかった。


「びゃひいいいいいいいい⁉」


 猫のぬいぐるみは叫びながらクラフトの杖をふるう。


 すると空中に、四角形のブロックがぼうんっと生まれた。

 猫のぬいぐるみは次々と空中にブロックを生みだして、ぴょんぴょんと飛び移りながら逃げていった。


「なにするんだよ⁉ し、死んじゃうだろ⁉⁉⁉」

「逃げるな! 降りてこい!」

「や、や、やだよ! 殺す気じゃんか!」

「殺してやるから降りてこいと言っているのだ!」


 サクラノがうがーと叫び、猫のぬいぐるみはビクビクと怯えていた。


 どっちがモンスターなのやら……悪い存在じゃないのか?

 でも魔性の気配がするよな。


「僕は警告だったじゃん! なのにいきなり攻撃とか、お姉ちゃんおかしいよ⁉」

「互いに攻撃の意思あらば、それすなわち殺し合いのはじまりなのだ!」

「そんなの世界中で戦争が起きちゃうよ⁉⁉⁉」


 よし! とりあえずサクラノより常識がある存在だ!


 ハミィとメメナが攻撃をしようとしていたので目配せして、矛をおさめてもらう。これで蛮族だの野蛮だのと言われることはないだろう。


 あとは話のできる状態にするだけだが。


「ガルルルルルルルッ!」

「く、くるなー! こっちにくるなよー!」


 地上でうなるサクラノに、猫のぬいぐるみはクラフトの杖をふるう。

 すると杖の先端から、椅子や机がぽんぽんと飛びでてきた。それをサクラノがバッサバッサきりふせる。


 物を創る杖か? ってサクラノを止めねば!


「ガルルルッ!」

「ひいいい⁉⁉⁉ く、くるなあ……あ、あへ」


 猫のぬいぐるみは突然力つきたように倒れる。

 杖をもったまま地面に落ちて、ぽてんと転がった。クラフトの杖がカランカランと地面を転がる。


「ま、魔素切れだ……むねんー……」

「さあ! 辞世の句を述べよ!」


 俺はトドメを刺そうとしたサクラノを止める。


「待て待て待て⁉ 落ち着こう! はい! すーはー!」

「ガルッ! ハッー!」

「多少は落ち着いたな? な? メ、メメナー、その杖がなにかわかるかー?」


 メメナはクラフトの杖を拾う。

 金属の棒を珍しそうに見つめていると、猫のぬいぐるみが悲痛な声をあげた。


「それは僕のだようー……。か、かえせー……」

「ふむ? これは本当にお主のなのか?」

「そ、そうだよ……おかしいかよ……」

古代魔導具(アーティファクト)のようじゃが。それも神話時代のものに見える。そうやすやすと手に入るものじゃないぞ」


 猫のぬいぐるみが押し黙る。

 俺たちはメメナのもとに集まった。


「メメナ、神話時代の魔導具って本当か?」

「エルフの老賢人たちが戯れで作った模造品(レプリカ)を見たことがある。構造や材質もよく似ておるな……」


 メメナは指でこんこんと杖を叩いた。

 古代魔導具(アーティファクト)とは、現代で解析不可能の魔導具のことだ。


 だいたいは超機械文明の品物をさす。

 ちなみに神話時代はそこからちょいとさかのぼる。


 神々がまだこの世界に住んでいた時代。勇者と魔王の大戦が300年前なわけだから、それよりずーっと昔の一品なわけだ。そんなものが簡単に手に入るわけがない。


 メメナは用心深そうに、けれど面白そうに微笑む。


「答えよ、なぜお主が持っておる?」


 サクラノとは別種の圧を感じたようで、猫のぬいぐるみが口をひらく。


「そ、それは……知らない影にもらったんだ……!」

「そやつが真の持ち主か」

「ち、ちがう! そいつに杖のありかを教えてもらっただけ! だから僕のだ!」


 知らない影? メメナの言っていた術者か?

 人避けの結界を張ったのもそいつなら、この魔性は利用されただけとか?


 メメナは話をつづけるように杖を向ける。


「そやつはなんと言っておったのじゃ?」

「僕の好きにしろって! だから僕はここを創ったんだ!」

「その杖でか? ふむ……このような場所を作った理由はなんじゃ?」

「そうすれば病気の妹が帰ってくるんだ!」


 俺たちは顔をしかめた。

 魔性の声はひどく真剣だ。

 それがわかるから、メメナの声色が少し優しくなる。


「お主の病気の妹がここにくるのか?」

「くるわけないだろ! ずっと病気で……ずっとベッドにいて……だからボクは冒険の話を聞かせるために冒険者になって……。でも、けっきょく手遅れで……だからだからだからだからだからだから」


 錯乱したのか、猫のぬいぐるみは「だから」を繰りかえした。

 メメナは魔性を見定めるようにゆっくりと告げる。


「それでお主は杖を見つけたのだな」

「そうだよ! クラフトの杖があれば妹は帰ってくる! アイツは楽しくて騒がしいところに憧れていたから!」


 猫のぬいぐるみは嬉しそうに言った。


 ……おそらく、妹は亡くなっている。

 妹を失い、妄執につかれて魔性化したみたいだ。その杖で妹が好みそうな場所を作っていたようだけど……。自分がなにを作っているのかわかっていないようだな。


 妹の話題になったとき、魔性の気配が濃くなった……よくない兆候だ。

 今すぐ倒すべきだけど、ひとまず話をつづけよう。


「なあ、こんなことをしても妹さんのためにならないぞ」

「なっ……! お前に妹のなにがわかるってんだ!」


 猫のぬいぐるみはヨロヨロと起きあがり、睨みつけてくる。

 俺は視線をまっすぐに受けとめつつ、静かに答えた。


「わかるさ……。家族が自分のために、人を傷つけるだけの場所を作るなんて……。悲しむに決まっている」

「傷つける⁉ なんのことだよ!」

「馬の乗り物に縛りつけて拷問するんだろう」

「あれはメリーゴーランド! みんなで楽しむ乗り物だよ!」

 

 謎の単語に俺はまばたきする。

 

「め、めり? そ、それじゃあ、あのでっかい車輪はなんだよ!」

「あれは観覧車! ゆっくりと回って景色を楽しむ乗り物だよ!」


 猫のぬいぐるみは「そんなこともわからないの!」とぷんぷん怒った。

 俺たちは想定外の反応にちょっと固まる。


「え……っと、じゃあここはいったいなんだんだ?」  

「ここは夢と希望の王国メッガミーランドだよっ!」

「「「「夢と希望の王国メガッミーランド」」」」


 俺たちは口をそろえて言った。

 夢と希望の王国メッガミーランド。なんだか楽しそうな響きだけども。魔導具で王国を作っていたってこと???


 メメナに視線をやると、彼女もちょっと困っていた。


「うーむ……。ちょっと調べてみたが、杖に登録されている情報から物を創りだす代物みたいじゃな……」

「ここにあるのは神話時代のものってこと?」

「その遊び場のようじゃな」


 怪しい乗り物ばかりなんけどなあ……。

 う、うーん、倒すべき……だろうか。


 猫のぬいぐるみに視線をやると、嬉しそうに応えてくれる。


「ここは古代のテーマパークなんだよー! 妹のために作っていたんだ!」


 ……………………すごく、倒しにくい。

 どうしたものか困っていたら、メメナが杖をふる。


「ふーむ? なるほど、杖に魔素を注いで操るのじゃな」


 杖の先端からビビビーッと光線が放たれる。

 光線はメリーゴーランドとやらに当たると照明が灯る。そして可愛らしくてファンキーな曲が流れてきて、ゆったり回りはじめた。


 ホントだ。ゆっくりと回っているや。


 俺たちがメリーゴーランドを眺めていると、猫のぬいぐるみが元気よく飛びあがり、メメナに熱視線をおくった。


「も、もしかして⁉ 女神さまですか⁉⁉⁉」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ