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第22話 ただの門番、コロシアム戦士を見守る③

 そうして本選がはじまる。


 当日はコロシアム周辺で花火が打ちあがり、人がたくさん集まっていた。

 若い観客が多いのは、コロシアム新体制に入って歴史が浅いからだとか。


 だから大イベントでも厳かな雰囲気はなくて、若さと勢いを肌で感じる。


 旧コロシアムの本選は後日、さりげなく行われるそうだ。歴史あるコロシアムなのに知名度がイマイチ低いのはそのあたりが原因だろう。


 俺は朝からハミィの準備を手伝っていた。

 ハミィが本戦でメインで曲を歌うからだ。


 しかもハミィとマイム、二人でだ。


 元々人気の高いマイムはもちろん、新星コロシアム戦士として躍進したハミィが予選ダブルトップ通過となった。


 それならとコロシアムらしく一騎打ちすることになったのだ。

 仕掛け人のピーさんの言い分はこう。


『二人で歌うのよ。メイン曲はどちらも練度が高い。アクシデントが起きても、二人なら対処できるわ』


 それはもうニッコニコで言ってきた。

 こうなるのを見越していたんじゃないかと疑う俺に、ピーさんは告げる。


『コロシアム戦士マスターを決めるのは私じゃないわ』

『……それじゃあ誰なんです?』

『彼女たちのパフォーマンスに……観客の心よ』


 わかるような、わからないような。


 そんなわけでコロシアム戦士マスターを決める本戦がはじまった。

 予選上位の戦士が血のにじむような努力をおくびにもださず、観客にパフォーマンスを魅せている。


 このコロシアムの歓声は、きっと新旧に変わりない。

 血は流さなくなったけど、流れる汗はきっと同じだ。


 求められるものが変わっただけで、ビキニアーマー姿の彼女たちは疑いようがないほど戦士なのだ。そう素直に思えた。


 そして、関係者専用のコロシアム通路。

 うす暗い通路に、ビキニアーマー姿のハミィが立っている。


 彼女はマイクを握りながら通路をぬけた先、歓声がおこるコロシアムを不安そうに見つめていた。


「ハミィ、いい表情だな」


 見習いピーの俺はそう言った。


「? ハ、ハミィ笑っていた?」

「いいや、ちっとも笑ってない」

「……先輩、それっていい表情なの?」

「集まってくれた観客に楽しんでもらえるか、元気になってもらえるか、心から歌が伝わるのか。いつもどおりの緊張したハミィの表情だよ」


 ハミィはそこで微笑んでくれた。

 俺の言葉だけじゃなく、サクラノとメメナが『ハミィ微笑んで』団扇をゆらすので、釣られて笑ったのだとも思う。


 ピーさんが笑顔でパチパチと拍手する。


「ナイスビキニ! 困ったわ、私が言うことがなにもない。素敵な仲間たちね」

「う、うん! ナイスビキニアーマー!」


 ハミィは嬉しそうにビキニアーマー姿で胸をはる。


 ビキニ返しの上位版ビキニアーマー返しだ。

 俺はこれがすごく自然で素敵なことだと思えるぐらいには馴染んでいた。

 でもまだ普通なほう。上には上、濃い人はもっと濃い。


 と、コロシアムの歓声が大きくなる。戦闘の幕開けだ。


「ハミィちゃん! 会場中を巻きこんで楽しむのよ!」

「ハミィ、がんばってください!」「ハミィ、応援しておるぞー!」


 声援を送られて、ハミィは唇をかたく結ぶ。

 決意は一瞬。すぐ表情をやわらかくさせる。


 それから通路の先、光の中へと駆けて行く。見習いピーの俺はただただ、その背中を見守っていた。


「行ってくるわ!」


 駆けぬけたハミィを待ちうけるは土のグラウンド。熱気と汗、わずかなホコリ臭さが彼女のステージだ。


 コロシアムの歓声を貫くように、前奏が聞こえてくる。

 対面から駆けてきたマイムと一緒に、ハミィは観客に呼びかけた。


「「みんなー! まだまだ元気かなー? もーっともっと元気になってもらうからーー! 覚悟してねー!」」


 地鳴りのような歓声と「ビキニ! ビキニ!」とコールがはじまる。


 前奏が激しくなり、『熱唱ビキニ☆ガール』がはじまった。

 ハミィとマイムは背中を合わせ、マイクに向かって歌う。


「「わたしたち! ビキニガール!」」


 コロシアムのそこかしこから花火が打ちあがる。

 舞台芸術専任の魔術師たちが杖から視覚魔術をはなち、ステージを煌びやかに魅せる。まばゆい光が彼女たちに照射した。


「「熱き血をかたちに変えて♪」」


 ハミィとマイムが距離をとる。


「「わたしは鎧をまとうのー♪」」


 ステージの熱に照らされて、二人の頬が赤くなった。


「「真っ赤な鎧は誰のために♪ ここにはいない誰かのためにも♪ わたしは果てるまで立ちつづけるわ♪ それが――」」


 二人は距離をとったところで向かい合う。

 そして。


「ビキニ!」「ビキニ!」「ビキニ!」「ビキニ!」「ビキニ!」「ビキニ!」


 二人はビキニと叫びながら可憐なポーズを次々に決めていた。

 通路から見守っていた俺は思わず叫ぶ。


「あれは⁉ ビキニレスポンス!」

「兄様、知っておるのか?」

「ビキニとかけあいながらポーズを決めつづける戦士の闘争! 鍔迫り合いのようなものだよ! どちらかが失敗するまでつづくぞ! 二人とも最初から飛ばしてきたな!」

「いやあ、兄様も染まるに染まったのぅ」


 メメナはホクホクと嬉しそうだ。

 サクラノは「もー、またそうやって楽しんでー」と言いながら団扇で応援していた。二人もかけあいの行方は気になるようだ。


 しかし、ハミィとビキニレスポンスで戦う意図はなんだ?

 マイムの技術力は認めるが、絶好調ハミィの体力は底なしだぞ。


 俺が意図を測りかねていた、そのときだ。


「ビキ……きゃ⁉」


 ハミィのすぐ側で、花火が盛大に散った。

 さすがの彼女も集中力を切らしてしまいポーズを失敗する。


 その隙を狙い、マイムが可愛らしくポーズを決めた。


「――それがわたし! ビキニガールッ♪」


 わっと歓声がおこる。マイム応援団はここぞとばかりに「マイムちゃんは最高のビキニガール!」と声援を送った。


 事故はあったが、コロシアムは盛りあがっている。

 音楽は止まっていない! 続行だ!


「……何回だって挫けてやる♪ 何度だってたーちあがる♪」


 ハミィは早い立ち直りをみせた。 

 ナイスビキニ! 集中している!


「それが」「それが」

「それが」「それが」

「「ビキニをまとう絶対勝者のプライドだからー♪」」


 ハミィとマイムは、ここ一番のかっこよくも愛らしいポーズを決めた。

 二人のキメポーズに、メメナは花丸笑顔だ。


「おおっ、二人ともやるのう! ハミィも動揺しておらんじゃないか!」

「……いや、ハミィのポーズにわずかな陰りがある」

「ふむ? 動揺をひきずっておるのか?」

「失敗からは立ち直ったよ。けれどコロシアム戦士は観客の動揺がよくわかる。ハミィのような観客一体型の戦士はパフォーマンスに影響がでやすいんだ」

「兄様のなーんにでも真面目なところ、ワシ大好きじゃよー」


 メメナが楽しんでいるので言及は避けたが、陰りの理由はそれだけじゃない。


 ハミィへ向けられた照明がやけに強かったのだ。

 アレでは動作にわずかな狂いがでてしまう。……どういうことだ?


「「――ビキニの鼓動は、きっとこのためにあったんだ♪」」


 一回目のサビは終わった。


 あくまで俺の判断だが、このままだとマイムの勝利だ。

 ……妨害らしきものがなければ対等、いやハミィが勝っていた。


 どうにもハミィへの妨害がステージ場で繰りひろげられている。あんなのわかる人にはわかるし、何度もつづけば他の人だって気づく。


 ピーさんだけじゃなく、観客の顔色が曇りはじめる。


 歓声はザワザワと不穏な声へと変わり、「不公平だ!」「ルール違反じゃないか!」「卑怯者!」と、特にハミィ応援団が野次をとばしていた。


 まずい……マイム応援団と怒鳴り合ってる……。


 異様な空気でも懸命に歌いつづけていたハミィだが、ぴたりと踊るのをやめる。

 そしてマイムにつかつかと歩みよる。音楽も止まってしまった。


「な、なによ……! アタシになにか文句でもあるの!」


 マイムは悪びれもせず、不敵な笑みをたたえていた。

 ハミィは深呼吸する。しばらく、すごく悩む表情でいたが。


「こんな形で終わらせるのは……みんなにとって不服だと思うけれど……」

「な、なに? 負けを認めるつもり?」

「これはみんなのためになると思うから」


 ハミィはきりりと唇をむすぶ。

 そして右拳を握りしめて、大きく腕をふりかぶる。マイムは殴られると思ったのか、慌てて目をつむった。けれど。


「そこっ……大地振動波(グラウンドシェイク)!」


 ハミィは、大地に鉄拳を放った。

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