表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/148

第17話 ただの門番、コロシアム戦士を知る

 仲間と小さな町で合流する。

 そこで一泊したあと、俺たちはコロシアムに向かった。


 本選はまだ先だが、準備するにこしたことはない。

 どんな戦場かわかるだけでも戦闘が楽になるものだ。


 ちなみに女子は最初から試験パスだ。厳しいチェックはなくて、現地での飛び入り参加もオッケーらしい。

 どういことなんだろうなーと雑談しつつ、俺たちは現地に向かった。


 コロシアムは遠目でわかるぐらいに大きかった。

 数百年前に建てられた円形闘技場らしく、崖を削りとった場所にある。


 天井はないようで、歓声が外からでも漏れ聞こえてきた。


 崖には戦士の彫像が刻まれている。レジェンド級の戦士は『栄誉を称えて刻む』と看板に書いてあった(ザンキさんに似た『剣王』と呼ばれる彫像もあった)。血と汗がこびりついているのか、地面の土は乾いているのに熱気を感じた。


 コロシアム前の広場には、テントやキャラバンが集まっていた。

 観客に商人、あとは戦士がここで各々好きなように待つらしい。

 すでに出店やらで盛りあがっている。すごい活気だった。


 こりゃあ王都でもそう見かけることのできない大イベントだな。いったいどんな強者が集まっているのかと、俺たちはワクワクしながらコロシアム内に入る。


 それで、だ。

 俺もサクラノもハミィも、その予選に面を食らった。


「――とびっきりの笑顔で踊っちゃおう♪」


 ツインテールの女の子がコロシアム中央のフィールドに立っていた。

 土のグラウンドを縦横無尽に駆け回っている。


 戦ってはいない。

 音拡声石(マイク)を使い、飛び跳ねるように踊っていた。


「すべては夏のせいだからー♪」


 あと歌っている。合奏団の曲に合わせて、なぜだか歌っていた。

 女の子の歌に、観客席の人たちは「ふぅ! ふぅ!」と合いの手をいれている。


 観客席の通路で、俺たちは呆然と立ちつくしていた。


「師匠……これは、なんでしょう?」

「……コロシアムの予選? ……ほら、鎧を着ているわけだし」


 サクラノは否定したそうな顔だ。気持ちはわかる。

 だってツインテールの女の子は、ビキニアーマー姿だからだ。


 ビキニアーマー。ほぼ水着みたいな形状の鎧のことだ。


 一応魔術適性が高く、補助術や加護を受けやすい装備ではある。

 だが、ほぼ素肌なわけで『ビキニアーマーを着るぐらいなら革鎧のほうがマシ』ともっぱら評判の嗜好品。もっと魔術適性の高いバニースーツが冒険界隈では優先される。


 そんな鎧をまとい、ツインテールの女の子は踊っているわけだ。 


 俺はじとりとメメナを見つめる。


「ん? ワシはなーんもしらんぞ」

「……まあ、メメナならここに来る前から楽しそうにするか」

「さすが兄様、ワシをよく知っておる」


 メメナは嬉しそうにうなずいた。いつもの悪戯じゃないようだな。周りの人に話を聞こうとしたが、彼らはコロシアムの戦いに(戦い?)夢中だ。


 と、通路の壁でツインテールの女の子を静かに見つめる男がいた。


 俺は、その後方で腕組みしている彼に声をかける。


「すみません、今ちょっといいですか?」

「……なんです? 今はマイムちゃんの予選なんですけど?」


 後方腕組み男は厄介そうに言った。


「ここってコロシアムですよね?」

「そーですよ。見てわかりませんかね?」

「歌って踊っているように見えるんですけど……」

「そりゃあ歌って踊りますよ。なにせコロシアム戦士ですからね」

「コロシアム戦士」


 俺の知る戦士とぜんぜん違くて、頭が理解を拒む。


 後方腕組み男は、俺をじろじろと見つめてくる。


「もしかして、旧コロシアムの参加者ですか?」

「……旧? あの、どういう意味で?」

「対人やら対モンスターやらで、血を流しながら戦うコロシアムのことですよ」

「それがコロシアムだと思うんですけど……」


 後方腕組み男は、わかってないなーとかぶりをふった。


「血がぶししゃー、凶悪モンスターがうががーなんてのは、今は流行りませんからね。娯楽が少ない昔ならいざしらず……エンタメも多様性です。そもそも旧コロシアムは体面も悪いですし、戦いが好きな人は冒険にでますしね」


 それはそう。

 それはそうなのだが、納得はできなかった。


「……もうコロシアム要素ないじゃないですか」

「わかっていませんね。血を流さない代わりに、戦士は輝く汗を流すようになったんです! 歌に踊り! 観客を心から魅了する戦士にね!」


 後方腕組み男は興奮しながら言った。

 そして見てくださいよと、フィールドをずびっと指さす。


「どう思います⁉」

「コロシアムのフィールドにいる子ですよね……」

「ステージです!」

「ステージの子……可愛いと思います……」

「でしょう! マイムちゃんは可愛いんです! 見てください今のターンステップ! 去年からはるかに進化している! それだけで血のにじむ努力が伝わってきます!」

「はい……」

「人は血を流さなくても、心をゆさぶられるんです! 感動できるんです!」


 男の熱に押されるに押されて、俺はうなずくしかなかった。


「はい……はい、そうですね……」

「……まあ旧コロシアム要素もありますよ。ほら」


 後方腕組み男はステージを見つめたので、俺も釣られて視線をやる。


 マイムという女の子に向かい、小さなスライムが突進してきた。


 小さくても魔物は魔物。

 スライムはヤる気満々でぽいーんと攻撃をしかけていたのだが、マイムは手に握っていたマイクで殴って倒した。


「みんなー! 応援ありがとー! わたし、今日もまたレベルアップしちゃったー!」


 コロシアムで歓声が起こる。


「成長見守っているよー!」「応援しているよー!」と声援がとぶ。


 後方腕組み男は涙ぐむどころか、ぼっろぼろに泣きはじめる。


「マイムちゃん! すっごく努力したんだね! 君こそが最高の戦士だよ‼」

「……それじゃ、俺はこれで。お話ありがとうございました」

「あ、旧コロシアムも開催してますよ。伝統維持のためにね」


 後方腕組み男は、ちょいちょいと壁を指さした。


 羊皮紙には、コロシアムの日程が書かれている。

 早朝のだーれも見ないような時間帯で、対人メインの試合がひらかれるらしい。


 どうして臨時試験会場がしょぼかったのか、なぜ試験官が他にいなかったのか。

 あとザインさんがなにを憤っていたのかがわかった気がする……。


 とりあえずコロシアムが変化した理由はわかった。

 時代の流れと共に、新しく生まれたものがあったらしい。


 俺は仲間に「どうする?」と確認する。サクラノとハミィは「試合がやっているのなら参加したい」と言ってきた。


 ――というわけで観客席を離れて、コロシアムの受付に向かう。


 ビキニアーマー姿の係員のお姉さんがいたので登録することになったのだが。


 サクラノが顔面真っ赤で怒鳴るように叫ぶ。


「な、なんだと⁉ なぜそうなるのだ⁉」

「ですから規則です」

「ビキニアーマーを着る必要はないだろう⁉ わたしは対人戦をしたいのだ! 旧コロシアムのほうだぞ⁉」

「旧でも女性はビキニアーマーの着用が義務づけられています」


 係員のお姉さんは事務的にさらりと答えた。


 あの受け答えは慣れている……。

 ああなると、流れ作業のようにしか応対しない。あまりにひどい苦情のときは、俺もたまに同じことしていたな。


「だ、だが……!」

「コロシアムはエンタメ至上主義。新でも旧コロシアムでも観客を楽しませる責務があると、わたしども管理組合は考えております」


 係員のお姉さんは、イヤなら去ってもかまわないと笑顔で伝えてくる。

 戦いが否定されたわけじゃないので、さすがにサクラノも強く言えないでいた。


 どーにもバニー村と似たような空気を感じるな……。客ウケを考えすぎた結果が今の現状みたいだ。


 サクラノはがっくりと肩を下げてしまい、逆にメメナがノリノリでたずねる。


「のうのう。ビキニアーマー着用ならワシ、参加したいのじゃがー」

「年齢制限と身長制限にひっかかりますね。ご時世的に難しいです」

「そこはきちんとしているのぅ……」

「獣人のお連れさまはどうされますか? やる気はあるようですし」


 係員のお姉さんはハミィのビキニを見つめながら言った。


 ビキニ姿で来たらやる気アリだと思うよな。


 当のハミィは「ハミィは……ハ、ハミィは……」と、どうしようか悩む顔でいた。まあこの様子だと旧コロシアムは、お祭り気分の記念参加の人が多いかもしれない。丸太が斬れない人も多かったし。


 気にせずに諦めてもよいと俺が告げようとした、そのときだ。


「――あなた、コロシアム戦士の素質があるわね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ