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第8話 ただの門番、真犯人に気づかない③

 ビカーンッと雷光が煌めく。


 主人の部屋では椅子にもたれかかった老紳士が一人、胸から血を流している。

 そしてサクラノがカタナを握ったまま心あらずで立っていた。


 筋肉マッスルな女が彼女を指差す。


「ひ、人殺しよ……! や、やだ、怖い……! 誰か早く捕まえて……!」


 そんな! サクラノが人殺しなんてありえない!


 ありえ……ありえ……あり……。

 ……………………うん。…………………館の主人の惨状にはすごく驚いたが、……自然と納得している俺がいる。


 とにかく事情を聞くため、慌ててサクラノに駆け寄る。


「サクラノ! しっかりしろ!」

「……師匠?」


 サクラノは俺が誰だかわからないような表情を向けてきた。


 瞳がうっすらと赤い。血に酔っていたのか?

 だとするならば、それこそ殺人の疑惑が濃くなるが……。


「サクラノ、どういうことか説明できるか?」

「それが……血の匂いが濃い部屋まで来たのはよいのですが……。扉に鍵がかかっておりまして……。怪しいと思い、力づくで押し入ってからは意識がおぼろげで……」


 俺は背後をふりかえると、扉が傷ついていた。

 カタナで鍵穴ごと斬ったようだ。


「なにも覚えていないのか?」

「はい……申し訳ありません……」


 珍しく落ちこんだサクラノに、彼女が殺人犯じゃないと悟る。


 そうさ! 俺が仲間を信じてやれないでどうする!

 サクラノは無暗やたらに人を傷つけるような子じゃ……ような子じゃ……。

 な、仲間を信じてやれないでどうするんだ……!


 俺は自分をどうにか納得させていると、くたびれた男がこわばった表情で言う。


「まさか殺人事件に出くわすとはな……」

「サクラノは無暗に人を傷つけるような子じゃない」


 俺は心を殺しながら言った。


 サクラノ本人も『そんなことありませんよ?』と言いそうな顔でいたので、メメナに目配せして面倒を見てもらう。ハミィも恐怖でふるえていたが、友だちが心配なのか寄り添うように手を握っていた。


「しかしな兄さん」


 くたびた男は「ふう……」と息を吐いてから、館の主人のもとに向かう。

 胸から赤い血を流している老紳士の首や手首に触れていた。


「……この(ほとけ)さん、まだ温かいぜ。できたてホヤホヤだな」

「だからってサクラノがやった証拠にはならない」

「なあメイドさん、館の主人は鍵をかけて閉じこもっていたんだよな?」


 くたびれた男は俺を無視して、幽霊のようなメイドに声をかけた。


「はい……。時間がくるまでは絶対に出てこないと、指示書にも書いてありました」

「鍵の管理はどうなっている? 複製できるのか? マスターキーは?」

「鍵は一部屋一つずつ、管理はご主人様です。複製はコピー不可能となっておりますので、そう簡単には……。マスターキーもご主人様が管理しているはずです」


 幽霊のようなメイドはちらりと書棚を見つめる。そこには金庫があったので、中に入っているのかもしれない。

 くたびれた男はやけに慣れたように状況を整理して、改めて俺を見つめる。


「倭族のお嬢ちゃんが部屋に入るまで密室だったのなら……。いったい誰が殺したんだろうな?」

「待ってくれ! まだ侵入経路がある!」


 ここは三階だがジャンプすれば普通に届く!


「……窓からと言いたいのか? 無駄だぜ」

「試してみなくちゃわからない!」

「窓にも鍵がかけられているようだし、窓向こうは断崖絶壁だ。周りにはロープにひっかけるような場所もない……。兄さん、アンタどうやって部屋に侵入するつもりだ?」


 ジャンプできないぞ、と言いたいらしい。


「師匠……」


 サクラノは俺を見つめてくる。


 不安がっているのか……。あ、いや、あの表情は『わたしが殺人犯でもかまいませんよ』と言いたそうな表情だ。あっさりと認めないでほしい。


 くたびれた男が嘆息を吐く。


「兄さん、仲間が大事なのはわかるが……難しい状況じゃないか?」

「もちろん大事な仲間ってのはあるけどさ」

「けど?」

「……そもそも簡単な見落としがあるのに、サクラノが殺人犯だって決めるつけるのがおかしいんだ」


 くたびれた男が片眉をあげる。

 俺はみんなに堂々と告げた。


「これは密室殺人なんかじゃない」


 俺に視線が一気に集まった。

 誰も彼も『いったいどういうことだ?』と説明を求める瞳でいる。


 ……おかしい。少し考えればわかることなのに。どうしてこんな()()()()()()()()()()()()()


 そこで俺はピピーンときた。


 きっと、俺の中で眠っていた才能が目覚めたんだ!

 王都ではミステリー小説をたまに読んでいた! 積み重ねてきた謎解きの知識が今、開花しようとしているんだ!


 俺は凛々しい表情で窓まで近づく。


「実に……実に、簡単なことなんです」


 自然と丁寧語になっていた。

 俺は窓の鍵をがちゃりと開けて、外の断崖絶壁を眺める。……たしかにジャンプでこの部屋には届かないだろう。


 そのジャンプじゃなきゃダメだという固定観念を取っぱらってやろう!


「犯人の侵入経路はこうです!」


 俺は窓のふちに足をかける。

 危ないぞと背後から声がしたが、俺はかまわず空中に飛びだした。


 はいっ! このタイミング!


「空中でグッと踏んばればいいんです! 空を歩けばいいんです! 犯人は空中でふんばりながら鍵をあけて、この部屋に侵入したのです‼‼‼」


 みんな呆気にとられたのか大口をあけていた。

 まるで信じられないものがそこにあるかのように、空でふんばる俺を凝視している。


 サクラノたちだけ『その手できたかー』みたいな顔でいた。


 こんな……こんな簡単なことなのに……どうしてみんな気づかないんだろう。


「犯人は空中でふんばっていたのです!」


 ズビシッと得意げに人差し指を立ててみせる。



 ――そして俺は、館地下の牢屋に投獄された。

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