3-5魔道具って?
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、切手を舐めると2キロカロリーになるそうですね?
だから何というわけではありませんが。
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「じゃあ、魔道具ってどんなものなのかから、お話していきましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
生き生きとした様子で話し始めるオーリナさんの話に耳を傾けます。
「そもそも、魔道具というのは『魔力』、一般的にはMPですね、その魔力を利用して生活や冒険その他の作業を補助するために使われる道具の総称です。
当然、MPでも動くものは作れますけど、ずっと触っていないのと動かないのは実用性がないので、基本的には『魔石』を動力として動くものが多いですね。
一部、魔道具化した武具の類…… そうですね……」
一旦作業台の方へ下がり、作業台の下から何かを取り出すとカウンターへ戻ってきます。
手にしていたのは、天井から下げられている照明と同じ形の物と、金の指輪、そして腕輪のような鈍色のリングでした。
オーリナさんがリングを手首に通すと、リングがぼんやりと淡い青色に輝きはじめ、すぐに光と同じ淡い青色をしたガラス質のガントレットが肘から先を覆います。
「こんな感じで、MPを消費し続けることで効果を発動させるようなものもあります。
こういう常時発動させておく必要が無いものは、こちらの方が便利だったりもしますね。
ただ、まぁ、これは実用性のないおもちゃですけど」
そう言って軽く手を振ると、すぐにガントレットは姿を消してしまいました。
「こちらの方がまだ実用的ですね」
腕輪を外して今度は金の指輪を中指に着け、ぐっと拳を握りこむと、手元に半透明な小さめの丸い板が現れます。
「これが『小盾の指輪』ですね。
一定値以下のダメージを弾けます。
それ以上の攻撃は一度防ぐと指輪ごと砕けてしまうので注意が必要ですけど」
そう言ってもう片方の手で軽く叩くようにして見せると、こんこんと音が鳴り、私の方にもやってみる様に差し出されましたので、軽く叩いてみます。
硬い質感が手に帰ってくるものの、心もとなく見えてしまうのは、ガラスに見える透明な見た目故なのでしょうかね。
このような自身のMPで発動するような魔道具はスキルの使用と同じ感覚で使用できるようになっているそうなので、簡単と言えば簡単ですが、アビリティのスキルもあって魔道具もあって、だと数の増え過ぎでわけがわからなくなってしまいそうですよね。
「こういうのはある意味イロモノですけど、一般的なのはこっちですね」
指輪を外し、一緒に持ってきていた最後の一つ、その下部に付いているつまみを捻ると案の定、照明と同じように発光を始めます。
「これは『照らす光』の魔道具ですね。
発動しているのは魔法の『照らす光』と同じものです。
ただし、魔法と違って魔石の魔力を常に消費し続けているので、小さい魔石だとそんなにもたないんですよね」
何となく想像はしていましたが、やはり一般的な魔道具に関しては、魔石は電池でそれで動く機材という考えでいいのでしょうか。
小さい魔石というのはMPコンバータで変換した時にどれくらいのMPになるのかはわかりませんし、それでどれくらい持つのかもわかりませんが、そのためにわざわざ魔法を取るのと比べたら確かに便利ですよね。
「魔道具は理論上、全ての魔法で作ることが出来るんですけど、やっぱり一度の消費が大きいものとか繊細過ぎるものとか、そういうのは耐えられる本体を作るための素材が無いので、実際は一定以下の魔法の魔道具しか無いんですけどね」
ただし、規模を大きくすれば再現可能な大規模魔法もあり、この街の街壁なんかが最たるものだそうです。
街壁は、街を囲む壁全てが一つの魔道具になっているそうで、芸術だって興奮しておられました。
とにかく、何となくすごいということだけはわかるお話を聞いていると、急にはっとした様子でこちらに謝罪し、魔道具についてのお話はおおむね以上だそうで、お話が締まります。
なんだか若干地雷を踏んでしまった予感があったので、マニアチックな難しい話になるかと身構えていたのですが、意外とそんなことは無くて助かりました。
少し気になったので、こういうのを自分で作ることが出来るのかもお聞きしてみた所、魔道具を作るには技師系のアビリティを納めた上で、上位の魔工技師系のアビリティを習得しないといけないそうで、オリジナルで作りたいと思ったら先は長そうです。
そもそも、アビリティに上位なんてあるのですね…… 新事実。
オーリナさんの場合は魔工細工師で、細かく小さく繊細な回路を得意としていてコンパクトに効率よくできる分、強力なものは苦手だそうなので、そこらへんは何の魔工技師なのかによって変わる、とのこと。
魔工技師は技師系からある意味ではわき道に逸れることになるため、数が少ないらしく、私が興味を示した時点でかなり鼻息が荒くなっていたのは少し面白かったです。
やるかどうかは先になってみないとわかりませんけどね。
短剣の魔道具なんかもあるのかお聞きしてみたのですが、主に耐久の問題で、相手を直接攻撃する武器の類の魔道具は使い物にならないそうです。
その代わりといった様子で、幾つかオーリナさんが作業台の方から持ってきた魔道具がありました。
その中の一つに目が留まります。
見た目は幅の広めな艶消しの黒色をした指輪。
オーリナさんがそれを中指に嵌めて軽く手を煽るように動かすと、指輪からするすると細く糸が伸びます。
黒く細い糸は、わずかに手指を動かすオーリナさんの動きに合わせるように空を切りながら踊り、消えていきました。
ロマンあふれていて素敵です。
「これは『乙女の長髪糸』という半実体の糸を伸ばす魔道具なのですが、短剣とか投げナイフとか使われる方は買っていかれますね」
大きな武器は耐久の問題で無理でも、短剣や投げナイフの類であれば投げた後に動かしたり、手元に戻したりすることが出来るので買っていく方がいるそうです。
名前については、見た目がそう見えるだけで本当に乙女の髪というわけではないそう。少し安心。
糸を伸ばす量によって消費していくMPが増えていき、操作は、ある程度自由に動かせるようです。
糸、ということで少し気になり聞いてみると、魔力で生成されている糸とはいえ、やはり糸扱いでいいらしく『糸操り』の効果も乗るそうです。
ただ、あくまでも魔道具によって生成されている糸であって、魔道具から切り離された状態では存在できないようなので縫い糸にしたりは出来なさそうです。
そのほかの部分は『糸操り』の効果が乗った時どうなるかはよくわからないとおっしゃっていましたし、そこらへんは取ってみないとわかりませんね。
これはもう運命。
『糸操り』を習得する理由が出来てしまいましたよ。
お値段も1500 Cと、リーズナブル? なのでついついさくっと購入を決めてしまいます。
にこにこ笑顔で「お買い上げありがとうございます♪」とおっしゃるオーリナさんに、策略にまんまと嵌ってしまった感をひしひしと感じながら購入を承認、早速装備してみました。
装備してスキル同様に使用を意識すると、確かに、それだけで言葉通り『ある程度』自由に動かせます。
これを短剣の柄に巻き付けて投げ、手元に引き戻したり、なにかに巻き付けて手元に引き寄せたりと出来るわけですよ。
糸自体の耐久はそこまで高くないらしいのでそこだけは注意しないといけませんけどね。
ところでMPを見たら、今こうして少し動かしていただけで5も消費していたのですが、消費は結構重いのでしょうか。
魔石が購入できないかお聞きしたところ、普通に購入できるそうで、今の相場で単価が1070 C。
とりあえずボックスの圧迫具合も考えて三つにしておきます。
これは、魔石用のポーチを早めに作らないといけませんね。
会計の際に魔石の値段が計3210 Cの所を、今後ともごひいきに価格で3000 Cにまけていただいてしまいました。
他にもランタンを購入。
本当は新しく魔石をセットし、魔石の価格を含めた値段になるところを、魔石が既にセットされている展示品を割引価格で販売していただいたりと、このお店から離れられなくなりそうです。
策略に、ずぶずぶ……
ところでお待ちください? 私気づいた。
これ、魔道具を使う時は魔石の値段も計上に入れて計算しないといけないのでは?
あ、自分で取ればいいのか。(自己解決
ランタンは大体点けて、暗いな、と思うくらいが魔石の替え時になるそうです。
使い古した魔石はオーリナさんの所で買い取っていただけるとのことでしたが、二束三文にしかならないので、私の場合、MPに変えて使い切ってしまった方がいいかも? と言われましたので、そうしましょう。
あともう一つ、爆弾と言っていいのか『魔工炸裂板』という10*20 cm程の金属っぽい板を購入いたしました。
これは何かと言いますと、まぁ、爆弾ですよね。
使用すると手を離れてから数秒後に炸裂し、周辺にダメージを与えるそうです。
そんなにダメージの大きいものではないそうなのですが、1スタック16枚をセットで1000 Cと、作りが単純らしくとっても安かったので買ってしまいました。
お礼を言ってお店を出ると、オーリナさんも丁寧に玄関先までお見送りしてくださるのを背に、その場を後にします。
来た細道を戻り、中央道まで戻ってくると、裏道に居たときは気づきませんでしたが、空もすっかり暗くなっておりました。
フリークエスト等も達成していませんが『糸操り』のクエストを受けたら流石に一旦ゲームを終わりにしてご飯食べたりお家のことしたりしないといけませんよね。
一旦道脇に移動し、少し面倒ですが外部ツールから時計を開きリアルの時刻を確認すると、時刻は既に十八時近くになっております。
朝八時からしていたので、計十時間近くほぼ連続でログインしているって信じられませんよね。
時間が経つのは早いものです。
おやすみですし睡眠は十分にとってあるので、徹夜でも一向に問題はないのですがそれはそれとして。
時計を閉じて、裁縫師のアビリティを取ったお店に向かいます。
表通りにある店々は暗くなっても活気が衰えることは無く、むしろ暗くなって街門が閉まるにあたって外に出ていた方々が街の中へ入ってきているのか夜の方が活気にあふれている様にも見えます。
出入りする人波に乗り店内へ入ると、ひとが多いのは確かですが予想したほどぎゅうぎゅう詰めというわけではなく、忙しそうという感じはありません。
カウンターに向かうと、昼間のお姉さんとは違う方がカウンター奥で座ったままこっくりこっくりと舟を漕いでおられます。
明らかに寝ているのですが、声を掛けるとすぐにぱっちりと目を開き対応してくださったので大丈夫、なのでしょうかね?
「いらっしゃいませ。何か御用でしょうか?」
表情が硬い所に何となく親近感を覚えるお姉さんですね。
「あ、えっと、夜に来れば『糸操り』を教えていただけると聞いたのですが」
「『糸操り』ですか?」
お姉さんが少し考えるような仕草を見せた後、
「どなたからお聞きになりましたか?」
と聞いてくるので、答えようと思ったのですが、そういえば私あの羊角のお姉さんの名前とか知りません。
仕方がないので、昼間に裁縫師の習得に来たこと、その時のカウンターにいた巻き角のお姉さんに聞いたことを伝えます。
するとお姉さんが、あぁ、と何かを悟ったように一瞬遠い目をしたのを見てしまいました。
「畏まりました。少々お待ちください」
そう言い残して席を立ち奥へと下がっていったお姉さんを見送り、少し待つと、奥から昼間の方を引き連れたお姉さんが姿を現します。
「お待たせいたしました。『糸操り』の習得は、こちらのマルメが担当いたします」
お姉さんが手で連れてきた昼間のお姉さん指しながらそう言いました。
昼間の方はマルメさんとおっしゃるのですね。
「よろしくお願いしますね~」
「はい、よろしくお願いします」
手をこちらにゆらゆらと振るマルメさんに軽く会釈をしつつ答えます。
「それでは、こちらをお持ちください」
お姉さんが差し出したのは、縫い糸と言うには少し太い、刺繍糸ほどの太さのある白い糸の巻かれた円柱状の木片でした。
「こちらは差し上げますので、ご活用ください」
おぉ、頂けるのですね。嬉しい。
「それでは、あとのことはマルメにお聞きください」
お姉さんがそう言うと、マルメさんがそれを引き継ぎます。
「そうしたら、ギルドの修練場に行きましょうか~」
「あ、はい」
お店の入り口に向かうマルメさんに、後ろからカウンターのお姉さんが声を掛けました。
「マルメ、明日、追加だから」
「むぇ!? なんでぇ~!?」
マルメさんはお姉さんの方をばっと振り向き、とろんとしていた眼を見開いて、驚いた様子で悲鳴のような声を上げます。
どうかしたのでしょうかね……?
若干戸惑っているのに気付いたのか、マルメさんが両手をひらひらと振りながら「なんでもないんですよ~」と言いますが、地味に気になってしまいますよね。
すぐに元のまったりとしたお姉さんに戻ったマルメさんが店外へ出ていくのを追いかけ、私も外へ出ていきました。
お読みいただきありがとうございます。
もしどこかで面白いと感じていただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲




