2-10一先ずは、ね
皆様こんにちは。お世話になっております。
からすです。
そういえば、からすの知能は小学校低学年程だそうですよ……
ま、まぁ、だから何というわけではありませんが。
●〇●〇
連絡の通知音にリンクスを開くと、案の定。
友人の望からの連絡が来ていました。
< オンライン?
< 時間ある?
そういえば、フレンド同士ならプレイ中ゲームのオンオフ表示があるのでしたね。
んー、時間がないわけではないのですが、一緒に遊ぶにしても流石に今のままだとご迷惑になりそうですし。
せめて『短剣使いの才』をとって少し装備整えてからにした方がいいでしょうか。
でも、装備整えるにはお金稼ぎしないといけませんし……
とりあえずは、アビリティだけ済ませてしまいましょう。
あと一個アビリティ取ってからでもいいですか? >
返事を返すと、すぐに返信が。
< 了解
< 終わったら言って
< どこいるの?
最初の街ですね >
< ザクロね了解
送ってから気付きましたけど、望の性格的に、これ待っていてくれちゃうやつですよね。
終わったら連絡すると言っておけばよかったです。
あまりお待たせするのも心苦しいですし、さくさくっと『短剣使いの才』のクエストを済ませてしまいましょう。
リンクスを閉じて少し早歩きに目印の開始位置に向かいます。
位置的には羽々流々の建物の数軒隣。
数軒とは言っても一軒一軒の敷地がかなり大きいので少し歩きました。
目的地は小さな喫茶店を思わせる見た目の平屋建て。
入り口脇にはシンプルな短剣のロゴマークの立ち看板と、入り口はこちらの文字。
看板指し示す扉をくぐると、軽いドアベルの音が。
チケットを取り出し、奥に見える人のいるカウンターへ向かいます。
「おや? いらっしゃい」
カウンターの向こう側には、ピシッと皺なく張った白シャツと黒ベストに身を包み、深い彫りに人生経験が刻み込まれたような皺が魅力的なおじ様。
特に笑った時の目尻に寄る皺が(自主規制
洗い物をしているのか、捲られた袖から覗く鍛え上げられた腕が(自主規制!
……自主規制したのにあふれ出てしまいました。
あまり不躾にまじまじと見ているわけにもいかないので、手にしたチケットを差し出しつつ、習得クエストについてお聞きしてみます。
「あの、アビリティの習得を、お願いしたいのですが」
作業を中断して手を拭くと差し出したチケットを受け取り、少し移動したところに据えられていた機械へ通します。
「はい、ありがとうございます。
それでは、あちらの扉から奥へどうぞ」
そう言われ、指示された扉から奥へ。
先はこちらも同様、板の間になっておりました。
形式なのでしょうかね。
こちらでも少し待っていると、ウィンドウが。
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【短剣使いの卵】アビリティ習得クエスト
短いリーチと引き換えに、対象に精密な攻撃を加えることが出来る技術です。
達成条件:指定修練の完了
支給品: 短剣使いの布手袋
※このクエストは開始後1時間以内に達成してください。
※未達の場合は再度受注し最初から行ってください。
制限時間:60:00:00
報酬:アビリティ『短剣使いの才』
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支給品は薄手の布製の黒い手袋ですね。
こちらも返却不要なようです。
効果は、精密作業時の精度の低下、手に持って扱う装備品の効率が少し上昇。
ふむ。
効率って何者なのでしょうね? 少し気になってきました。
いずれにせよ、精度が下がってしまうなら、なにかを作る時は外した方がいいでしょうか。
それとも精密作業とわざわざ書いてあるということは、普通の作業とは違う何か?
そもそも精度と効率とは。
言葉的に考えるのであれば、精度は細かい作業等の際の正確性という感じがしますし、効率は作業速度に影響してくるような感じですよね?
ということは、作業は速くなるけど正確さはなくなるよ、という解釈でいいのでしょうか。
ふむ、一応納得? すっきり。
そんな思考の渦から抜け出し、修練を開始します。
開始を押すと、その瞬間に砕け散ったウィンドウが何もなかった板の間に凝集し、木に藁を巻いた一本のかかしに変化しました。
続いてポップした十秒のカウントウィンドウには『指定された場所に攻撃を加えていきましょう』の文字。
その文字に短剣を抜いて手にします。
そこで感じる違和感。
あれ? これ、短剣を持っていないと進行できないですよね?
なら、支給品は短剣にしておかないとおかしいのでは?
でも貰ったのは手袋ですし。
もしかして、私がすでに短剣を持っていたから……?
そんなことあります?
あぁ、でもアビリティだって成長のさせ方でものが変わるのですから、無いとはいえませんよね。
また一つゲームの仕様を理解したような気がしたところで、意識を目の前のかかしに戻して、注視しながら開始の瞬間を待ちます。
開始と同時にかかしの中程に赤い点が現れます。
これがその指定される場所なのでしょうね。
かかしの上には『突き!!』のポップがふわふわと。
その指示に従って、それなりに大きい点を手にした短剣でつつきます。
すると赤い点が消え、同じような場所に今度は太い赤い線が現れました。
かかしの上の『突き!!』のポップが今度は『斬りつけ!!』に変化します。
親切設計。
赤い線に沿って斬りつけると、赤い線とかかしの上のポップが消えてしまいます。
仕様は把握。ここからが本番ですね。
また赤い線。
そうして点と線に従い、いくら攻撃しても傷つかない無敵のかかしさんをいくらか殴り続けていると、かかしさんの追加が入ります。
指示はどちらか一方、ランダムに現れるようで、一歩距離をとって視界を広く。
現れたら近寄って攻撃です。
指定自体はそれなりに長い時間で続けているのでそんなに難しくはありません。
殴り続けてしばらく。
かかしさんが四体まで増えたところで、第一段階終了のお知らせです。
数が増えただけで動く量が増えるので、もはや結構きついのですが、まだ第一段階です。
ウィンドウには『指定が狭くなります。丁寧に攻撃を加えましょう』の文字が。
数が増えないのならまだ有情ですか……
気合を入れて、第二段階。
第二段階もまずはかかしさん一本。
指定は一段階の半分ほどの大きさ・太さに。
二本目、本数が増えたところで、適当にやっていると意外とずれてしまいがちに。
三本目、突いたり振ったりという行動にアシストが入り始めているのを感じながら、ぎりぎりもうそろそろ終わりかなと思った矢先、何度目かのミスから次の指示が出なくなってしまいました。
あれ? と思ったのも束の間、現れたウィンドウには『再挑戦しますか?』の文字が。
あぁ、ミスに制限数があるのですね。
何回かはわかりませんが十はいっていなかったと思うので、結構厳しいのかもしれません。
気持ちの呼吸を整えて、一旦落ち着いてから再挑戦。
慣れてきたのか先ほどよりも順調に三本目を突破。
三本の途中あたりがアシストの強さと難易度の中間地点だったのか、四本目は意外とすんなりと突破して完了。
羽々流々と同じなら次はモブ相手ですよね。
続いて表示されたウィンドウを確認すると案の定『幻影の指定の場所を攻撃してみよう』の文字。
来ましたね。
集中力が途切れない内に開始してしまいましょう。
ウィンドウが変化し現れた一体目は、角うさぎ。
指定は、胴体に突き。
近づいて攻撃は間に合いそうもないので、飛んでくるときに合わせないといけませんよね。
羽々流々の回避アシストが入っていただければ楽なのですが。往々にしてこういう場合は切れていることの方が多いですよね。あまり期待せずにしっかり避けていきましょう。
そうすれば短剣使いの方のアシストで攻撃自体はできるでしょうし。
角うさぎの動きをよく見て、突進に合わせて回避。
瞬間、ふわりと支えられる感覚。
羽々流々の効果が発動されたことに少々驚きつつも、使えるものは有難く利用させていただいて、感覚に従い身体を動かします。
横をすり抜ける様に回避する最中に指定の場所に突きもしっかり入れて。
次の指示は、胴体に斬りつけ。
これも同様。
一段階目は羽々流々のおかげもあって比較的余裕でした。むしろかかし四本の方が大変でした。
……なんて思ったのがいけなかったのでしょうかね。
開始した第二段階のお相手も角うさぎさん。
ただし三羽。
これ、最後は角うさぎさんが四羽になるフラグですか?
二体増えましたし、もしかして最後は五羽だったりします?
同時に多方から突進してくることは無いのですが、波状に来るのでかなり神経を使います。
羽々流々も相手を見ていないと発動しないようなので、一体を躱して他が視界から外れてしまうと視界の外から攻撃を決められてしまうのですよね。
ここの角うさぎさんの角は強靭なので、一遍こっきりともいきませんし。
感覚を掴めないまま身体のあちらこちらを突き刺されること数回。
角うさぎさんたちが行動を止め、再挑戦のウィンドウが出てきてしまいました。
角うさぎさんたちの目が私をあざ笑っているように見えるのは被害妄想でしょうかね。
作戦変更。
一体の攻撃を回避・攻撃後は、アシストに頼らず大きく回避して一旦距離をとりましょう。
そうして一回一回を確実に。
よし。
作戦も決まったところで、再挑戦です。
そう決めてからは一回一回の動きが大きくなり、感覚的に少し疲れていますし時間もかかるものの、確実にこなすことが出来るようになりました。
最後の方は同時突進もしてくるようになっていましたが、攻撃は一体に一回という意識でそれも何とか乗り越え、第二段階も何とか完了。
思わず額を擦り、出てもいない汗を拭ってしまいます。
これ、三匹でまだ密度が低いのでいいですけど、これ以上増えたら厳しいですよね。先ほどのように三段階目は失敗しても達成ですよという感じならよいのですが。
そんな不安を残しつつも、気持ちを整えて第三段階。
いやな予感は当たるもので、おそらく最後の第三段階は五羽十対の目つきの悪い瞳がこちらを見つめていました。
もうなんとなく気持ちで負けているのですが、作戦は二段階目とおなじ。
とにかく一体に集中してアビリティに頼り切らない。
最初から二体が同時に攻撃してくるようで、二体が身を屈めました。
避けるのは大丈夫です。
問題はその間の攻撃と避けることで視界から外れてしまった他の波状攻撃。
二体の突進に合わせて回避。
成功。
それでも避けるのに集中しすぎてしまったせいか、アシストが入ってなお大きく指定の場所を外してしまいました。
失敗を悔やむ前に身体を反転させながらそのまま前方へ大きく飛びます。
直後、身体の横に衝撃。
体勢を崩したところに第二波が攻撃してきたようでした。
そこからはもうテンポが合わず酷いもので、第三波は一体だけだったにも拘わらず攻撃を喰らってしまい、続いての二体の同時攻撃によって、角うさぎ達は行動を止めてしまいます。
再挑戦、の文字。
ダメなのですね。ある程度やらないと達成にならないのでしょうかね。
羽々流々の時は三段階目もある程度やりましたし。
作戦を考えないといけませんよね。
視界から外れるのがダメなら、後ろに引くように回避すればいいのですよね。
でも、そうすると攻撃が出来ないですか。
そこをどうにかしないと。
角うさぎ達は二、二、一、二、二…… のまとまりで攻撃してくるわけですよね。
攻撃の間隔も短くなっているのか、振り返るのすら間に合わないですから、大きく避けて、も無理。
少なくとも一番避けやすいのは単体で攻撃してくる子で、二体は私ではアシストが無いと確実に避けられません。
なら、一波を後ろ回避、二波を回避と攻撃、三波はもう振り返ったりせずに無理やり避けるしかないでしょうか。
三波はお祈り回避しつつの振り返り、からの次の四波を後ろ回避という感じで。
よし。
作戦を立ててから再挑戦。
時間的にはまだ平気なのでこれで何回か試してみて、達成できそうかやってみましょう。無理そうならまた何か考えないとですが……
作戦通りに一波目はアシストの力を借りながら後ろに。
二波目、挑戦はここです。
踏み込んで回避しつつの指示をよく見て攻撃。
成功。
避けきってからも油断してはいけません。
そのまま前方へ大きく回避。これで二波目に対する対処は完了です。
この後、行動が遅れてしまえば三波目に仕留められてしまいますからまだ気は抜けませんよ。
体勢を崩しつつも前方へ。
先ほどまでのようにその勢いを殺して反転しようとせず、そのまま身体を横にごろん。
直後、背後から第三波。
それを横目に見ながら身体を起こしつつ角うさぎ達の群れの方へ視線を移します。
決まりました。掴みましたね。
成功、ですよね?
既に一波組が四波目の準備を整えていますが、これは余裕の後ろ回避で回避可能です。
何となく攻略を見つけて気分の良いまま、何度かこなしていると、角うさぎさんたちが行動をやめて、解ける様に消えていき『部屋を出てください』の文字が。
清々しい気持ちで部屋を出るころには、気分は立派な短剣使いです。
まだアビリティ取っていませんけどね。
部屋を出ると、変わらずカウンターで作業をしていらっしゃるおじ様がこちらに目を向けます。
「終わりましたかな?」
「あ、はい」
問いかけに応えると、顔をこちらに向けこちらを見つめて少し。
私はといえば、見つめられて目が泳ぎに泳いでいましたがなにか?
「はい、素晴らしい出来だったようですね。
以上で、クエスト達成となります。
以降、『短剣使いの才』がステータスのアビリティ欄から習得可能ですので。
おめでとうございます。お疲れ様でした」
という言葉と共に、クエストウィンドウがポップし達成のハンコが押されました。
おじ様にお礼を言ってからその場を後にし、道へ出たら、さっそく『短剣使いの才』を取得。
これでAPはあと5。
一応後二つは取れますが、保留しておきましょうね。
そうしたら、望に連絡して、待ち合わせしている間にステータスの確認とSPを振ってしまいましょうか。
さてさて、悩むお時間ですよ。
道の端に移動し、望に連絡をするためにリンクスを開きました。
お読みいただきありがとうございます。
次回からは三章です。
もしどこかで面白いと感じいただけたようでしたら、星を光らせてくださると感動します。
あとブクマとかも(強欲




