逃す
「遊撃隊、出撃だ! 準備はいいな?」
セインスが部隊に向かって叫ぶと、
「「「おおおおっ!」」」
と、兵士から声が上がった。
「まずは鉄弓兵に敵後方を攻撃させろ」
セインスが指示を出すと、
「は! 鉄弓隊前に! 敵の奥に向かって放て!」
アレンが叫ぶと同時に、遊撃隊の鉄弓隊から矢が放たれる。
今の鉄弓隊の兵数は100である。
「よし、敵後方が混乱してきたな。騎兵! 突撃して槍兵が取り付くきっかけを作れ! それと邪魔な西の貴族軍に後方に下がれと伝えろ! アイツら邪魔だ!」
次の指示が飛ぶと、
「了解であります! 騎兵突撃!」
馬に乗った騎兵が、槍を構えて駆けて行く。
騎兵も100である。
「槍兵、続くぞ! 私も出る! アレンは弓兵を頼む」
セインスが馬に跨ったまま、アレンに言うと、
「は! お気をつけて!」
と、返ってきた声と同時にセインスが駆け出し、槍兵達がそれに続くように、走り出す。
セインスは護衛20人を従え、敵中央部に突撃する。
敵兵を、鉄弓に装着されている槍の刃先で、斬り裂きながら駆け抜けてゆく。
どんどん奥に攻め込むセインスだったが、そこで後方に見覚えのある姿を発見する。
「む! アレは……パイドォオオオッ!」
大声で叫んだセインス。
「誰だ貴様っ! 私を呼び捨てにするとは!」
まだかなり距離が有るのに、セインスの声は、敵集団の後方に居たパイドの耳に届いたのだ。
「貴様っ! 両親を殺した上に俺も殺そうとしたのに、覚えていないのか! ふざけやがって! セインス・クロームだっ!」
と、名乗ったセインス。
敵兵がセインスに詰め寄ってくる。家名を名乗った事により貴族だとバレたからだ。
貴族を倒せば褒賞が貰えるからだ。
「ほう! だいぶ人相が変わってるが、確かに面影があるな。生きているとは聞いてはいたがな。あの時殺し損なった私の汚点だな」
不敵な笑みを浮かべ、パイドがそう言うと、
「下衆が偉そうにほざくなっ! 味方殺しがっ! テメェを殺すために鍛えたんだ、とっとと俺の手にかかって死ねぇ!」
と、詰め寄ってくる兵士を斬りつつ、パイドに近づこうとするセインスだったが、
「冗談ではない! お前などに殺される私ではないわっ! 守りばかりの腰抜けクロームの小倅ごときがっ!」
と、罵るパイドに、
「攻めることしか能の無いイノシシがっ!」
と、言い返したセインス。
その時、パイドの副官らしき男が、パイドに向かって、
「将軍! マズイです劣勢です!」
と叫ぶ。
「何? 仕方ない、一旦退却だ! 合図を出せ!」
と、冷静に判断したパイド。
以前なら考えられない行動である。
「パイドッ! 逃げる気かっ!」
いまだに敵兵に阻まれ、パイドに近づけないセインスが叫ぶと、
「ガキめ、命拾いしたな」
そう言い、馬を180度回頭させ、退却し始めるパイド。
「逃すかぁ!」
慌てて鉄弓で、パイドの後頭部を狙うセインス。
放った矢が、パイドに向かって飛ぶ。
「なにっ?」
矢がパイドに当たる直前、風切り音に反応したのか、パイドが振り返って矢を避けたが、右の頬を掠めた。
「くっ! この距離で届かせるとは! クロームの癖に油断ならん!」
と言いつつ、パイドは馬のスピードを上げて走り去った。
「チキショウ!」
セインスが叫ぶが、その声は喧騒に紛れて誰かに届く事は無かった。
新作始めました。
自称ツイてない男の英雄譚。たいして強くも有能でもないのに周りで勝手に俺を持ち上げるのはやめてくれ!
というタイトルです。




