幸せな時
そうして一年が過ぎ、フィリアが妊娠した。
正妻の妊娠、これすなわち、側室の解禁である。
ティアとフェル達との結婚。
既に決まっていた事である。
フィリアとの結婚後、わざとゴブリンの居る森に、ティアとフェルが赴き、セインスが助けるという猿芝居を行い、婚約が発表されている。
わざわざ芝居をする必要があったのか、甚だ疑問に思うセインスだったが。
まあ、そんなわけで滞りなく結婚式が行われ、クローム子爵の屋敷に人が増えていくとともに、ノードス伯爵派とロローシュ伯爵派が緩やかに合流していくことになる。
北の貴族と東の貴族の融合。
これはこの国の軍事派貴族の大半を占める。
西側は国境に面していないし、南側は友好国であるため、軍事衝突の無い地域だったからである。
特に西側は文句は言うが何もしないという、典型的なろくでなし貴族が多い地域であり、西側貴族の勢力を削ぐために、ノードス伯爵とロローシュ伯爵が暗躍することになるが、セインスはそのことを知らない。
世の中には、知らなくてもよい事が有るのである。
なんでも知る事でツライ思いをする必要は無い。
そうしてフィリアが妊娠して、お腹がはち切れんばかりに膨らんでいたある日、フィリアが破水した。
日頃から通ってもらっていた助産師が呼ばれ、セインスが自分の執務室を、ウロウロと歩くことになる。
出産する部屋の外に最初は居たのだが、あまりにも落ち着きがなく、中で声がするたびに、大丈夫なのかと部屋に入ろうとするセインスを、助産師が、
「邪魔じゃあ!」
と、追い払ったからだ。
「セインス、少し落ち着け」
妹の出産ということで、クローム子爵家に訪れたデービッド王太子が、セインスに苦言を述べるが、
「デービット殿下、そうは言いますが、落ち着かないのはどうしょうもないんです」
と言うセインス。
「我ら男にできる事は何もない。座ってひたすら無事に出産が終わるのを祈るのみだ」
諭すようにデービッド王太子が言うと、
「デービット殿下は経験者ですからね。ミシェル様がアーノルド様を出産なされた時も、そうして座ってらしたのですか?」
と尋ねたセインス。
デービッド王太子は妻ミシェルとの間に、アーノルドという名の、男児をもうけている。
「あの時はセインスのように歩き回ってたよ」
笑いながらいうデービッド王太子に、
「でしょう! 落ち着かないなぁ」
とウロウロするのをやめないセインス。
デービッド王太子は、仕方ないかと諦めたのだが、その時部屋のドアが開いた。
「おめでとうございます。産まれました!」
と、ローレライが入室するなり言うと、
「おお! 男か? 女か?」
と尋ねたセインスに、
「両方です!」
「え?」
「順番でいうと、女の子が産まれてから男の子です」
ローレライがにこやかに説明すると、
「でかした!」
そう叫んで、部屋を飛び出て走るセインスだった。




