いや、名前よ……
そうしてセインス達の働きもあり、ウェインライド王城の方は、すぐに制圧出来たのだが、問題は教会であった。
ウェインライドの王に腰縄を打ち、扉を固く閉ざした教会まで連れて来て、王の口から説得を試みていたセインス達だったのだが、いっこうに返事はない。
埒があかないので攻め込むかと、レイリス国軍が教会を取り囲んだその時、教会の壁をぶち壊し出てきた巨大な人。
身の丈15メートルに及ぶ全裸の人。
目が赤く染まり、口からヨダレを垂れているその顔に、理性のカケラも見当たらない。
「レスター教皇!」
巨人の顔に見覚えのあったウェインライド王が、名を叫ぶ。
聖人教の最高責任者、レスター教皇。
40代の若さで、教皇の座に就いたやり手である。
元々はウェインライド国の貴族、公爵家の出であり、家柄を利用してのし上がった。
王家に近しいということもあり、この男の代で聖人教はウェインライド国の国教となったのだ。
理性的な人物と噂だったが、今は見る影もない。
そうして、レスター教皇の名を叫んだ王を、右手で掴み取る巨人。
握られた瞬間、ペキっと音がしたかと思うと、ウェインライド王の口から大量の血液が流れ出ると同時に、尻などから体内にあった消化中の食物が溢れ出る。
そのまま握り潰したウェインライド王を、口に運んだ巨人。
人を咀嚼する音が、その場に響く。
「あの時のネズミと同じか」
セインスが嫌そうな顔で言うと、
「国軍! 距離を取れ! 弓兵はあの化け物の頭部を狙え!」
リーガスタ中将が、命令する。
「鉄弓隊! 国軍と同じく頭部だ! 口や目を狙え! 騎兵は奴の足首を! 歩兵は待機だ!」
セインスも部下に指示を出しながら、自分が持つ鉄弓を引く。
次々に放たれる矢を頭部に受け、足下の注意が散漫になった巨人に向かって、騎兵が槍を構えて突進する。
巨人の足首に突き刺さる槍。
筋が切れたのか、巨人が倒れる。
「よし! 倒れたぞ! 歩兵突撃!」
そう言って、セインスも突撃していく。
部下もそれに続いたのだが、
「暴れて近づけません!」
と言った兵士。
セインスであっても、地面で転げ回る巨人に近づくのは、危険であった。
「弓兵! 近づいて脇腹などの柔らかい所を撃て!」
セインスがそう命じ、弓兵たちは距離を詰めて矢を放つ。
矢の刺さった傷口から、血液が漏れ出る。
若干だが、巨人の動きが遅くなる。
「ワシのポチ達に奴の腹に食いつかせて、弱らせよう」
リーガスタ中将がそう言いながら、手下のオーク達を手招きして呼び寄せる。
「ポチ達に、巨人の頭は食わせないようにしてくださいよ? 多分脳の中に像があるはずなので」
セインスがリーガスタ中将に伝えると、
「弓兵! 撃ち方止め! ポチ! タマ! ジョン! ミー! タロ! 内臓食っていいぞ!」
と叫んだリーガスタ中将。
その声に、弓兵達は矢を放つのを止める。
そして、5体のオーク達が、倒れてまだ少し暴れている巨人の脇腹に、牙を突き立てる。
皮膚を食い破り、腸を引き摺り出して、美味そうに食べるオーク達。
流れ出る血液が、その場の土を真紅に染める。
あきらかに弱っている巨人を見て、セインスは、
「後は首落として、頭部から像を取り出さないと」
と言ったら、リーガスタ中将が、
「ワシが落としてやる」
と剣を抜いて、巨人に向かって走り出した。
「ハアッ!」
と、気合を入れてリーガスタ中将が、剣を振り下ろす。
胴体から離れた頭部が、地面を転がる。
胴体がみるみる縮む。
「師匠、ついでに頭蓋骨を割って貰えます?」
と、セインスが頼むと、
「任せろ! トリャ」
と、大きな頭部を、剣で叩き斬るリーガスタ中将。
割れた頭部から見える、黒い神の像。
モゾモゾと動くその像を見て、リーガスタ中将は、
「気持ち悪い、コイツが原因か。フンッ!」
と言って剣を振り下ろし、像が真っ二つに割れる。
巨大な頭部が、人の大きさの頭部へと戻っていく。
この日、ウェインライドという国の名が、この大陸から消えた瞬間であった。




