冗談
3日後、セインスの言った通り、屋敷の上空には無数のカラスが旋回し、蠅が無数に飛び交っていて、遠目から見ると黒いモヤがかかっているように見えた。
その様子を眺めながら、
「屋敷の中は、ネズミやゴキが徘徊してるでしょうね」
と、セインスが言うと、
「あそこに籠城は勘弁願いたい」
と、リーガスタ中将が言う。
「ちらほら兵士が逃げ出しましたね」
と、アレン言う。
「なんか飛んできたな?」
と、空を見ていたリーガスタ中将が、眼を凝らす。
「デカイ飛びムカデだなぁ」
と、セインスが右目で見て言った。
飛びムカデとは、ムカデにトンボの翅をつけたような、空飛ぶ虫の魔物である。
「飛びムカデって、群れるんですねぇ。アイツらって、カラスが好物なんでしたっけ?」
と、アレンがセインスに聞く。
無数の飛びムカデが、屋敷の上空に到達する。
「うん、カラスをよく食べるはずだ」
と、セインスが言うと、
「あ、食い出したなぁ」
と、リーガスタ中将。
「カラスいなくなりましたね」
飛びムカデがカラスを食べ尽くしたのだ。
「飛びムカデって、人を襲いましたっけ?」
アレンがセインスに聞く。
「稀に食べるとは聞いたことあるなぁ」
と、気の抜けた感じで、セインスが言ったのだが、
「あれ、人を襲ってますよね?」
と、アレンがセインスに確認する。
「襲ってるねぇ」
「ほっといてよいのでしょうか?」
「俺たちが襲われてるわけでもないし、助けを求められているわけでもないから、いいんじゃね?」
と、セインスが言うのだが、
「セインス、そういうわけにもいくまい。魔物が増えたら後々面倒になる。助けるぞ」
と、リーガスタ中将がセインスに言う。
「師匠、マジっすか?」
「本気と書いてマジだ!」
「一応、降伏勧告して受け入れるなら助けるとか、言ってからにしましょうよ」
と、セインスが提案する。
「まあ、言うだけ言うが、どちらにしろ助けるからな?」
リーガスタ中将が、セインスに強めに言う。
「はーい。勧告は誰がするんです?」
「やりたいのか?」
「やりたいです!」
と、セインスが言う。
「館に立て篭ってるウェインライドの人々よ。降伏するなら助けてやる。飛びムカデに殺されたくは無かろう! 降伏するなら見えるところに、シーツでもなんでも良いから、白旗を振れ!」
と、セインスが大声で叫んだ。
そのまま数分待っていたが、白旗が上がる気配がない。
「振らないなぁ」
と、セインスが呟いてから、大きな声で、
「個人的に降伏する兵士がいるなら、屋敷から逃げろ。逃げる兵士は攻撃しない事を約束する!」
と、叫ぶ。
「逃げ出しましたね」
アレンが門を開けて逃げ出した兵士を見て、少し笑いながら言った。
「領主だけは意地になってるのかもな」
と、セインスがアレンに答えていると、
「セインス、そろそろ助けに行くぞ」
と、リーガスタ中将が槍を片手に持ちながら、セインスに言う。
「はい、師匠」
と、セインスが頷く。
屋敷にたどり着き、開いている門から入って、飛びムカデ共を殲滅したセインス達は、屋敷のドアをブチ破り、屋敷の中に侵入したのだが、
「どうりで降伏出来なかった訳だ。屋敷内に生きてる人が居ない」
と、リーガスタ中将が言う。
屋敷の中は、人の死体があちこちにあった。
「カラスなどを、中に入れないために窓などを閉めて鍵かけたけど、既に侵入していたギガラットや、隙間から侵入した、大量のジャイアントローチに食われたって感じですかね? なかなか悲惨な光景ですな」
ジャイアントローチとは、50センチほどのゴキである。
実際、ギガラットやジャイアントローチが、屋敷の中の死体を貪っているのだ。
ギガラットは兵士なら殺せるが、屋敷のメイドなどではとても倒せる魔物では無いし、壁や天井を這い回り、生き物を溶かす酸を吐きかけるジャイアントローチは、少数なら大したことはなくても、大量にいるとかなり驚異である。
「このネズミとゴキ共はどうする?」
新たな食糧だと思って、向かってくるギガラットやジャイアントローチを、槍で倒しながら、リーガスタ中将がセインスに聞くと、
「屋敷ごと燃やしちゃいますか」
と、セインスが提案したが、
「馬鹿を言うな。燃え広がったら目も当てられん」
と、至極真っ当な答えが、リーガスタ中将から返ってくる。
「ですよねー。面倒だなぁ。ネズミやゴキを食べる魔物とかいないかな?」
と、セインスが考えこむ。
「ゴキはネズミが食うだろうが、問題はネズミだな」
と、リーガスタ中将が言う。
まあ、リーガスタ中将が言ったことは半分当たりだが、半分ハズレだ。
ジャイアントローチもギガラットを食うのだから。
「オークでも生け捕りにして放り込みますか?」
と言ったセインスに、
「おお! セインス名案だな。よし、ワシが獲ってくる」
と、リーガスタ中将が屋敷から飛び出して行く。
「冗談だったのに……」
と、セインスが呟きながら、アレン達と共にギガラットやジャイアントローチを、屋敷から出ないように攻撃するのだった。




