セインスの居ない所で
セインスが王城から帰った後、アレンは軍の施設にて報告書を書いていた。
書類を見つめるアレンに、
「ん? アレン少尉だけか? セインスは?」
と声がするので、顔を上げたアレンの目の前にいたのは、デービット王太子。
「デービット殿下! 何故こんなところに? セインス大佐は私に報告書を押し付けて帰りました」
と、椅子から立ち上がって、敬礼したアレン。
「相変わらず報告書は苦手か。アレン少尉、楽にしてくれて構わんぞ」
デービット王太子の言葉に、敬礼していた手を下ろすアレン。
そして、アレンは、
「椅子に座るのは、1時間が限界らしいです」
と、セインスが居ない理由を答える。
「そのへんが唯一、子供らしいという感じか。無事帰ってきたから、作戦は滞りなく終わったんだろうが、アレン少尉の口から、簡単に報告を聞きたい。実際、ノードス領はどうだった?」
と、デービット王太子に聞かれたアレンは、
「ウェインライド国は、全ての兵士を合わせると、かなりの大部隊でした。あの数が纏まって来られたら、こんなに早く帰れていなかったと思います。バラけていたので助かりました」
と、状況を説明した。
「セインスの様子は?」
と、セインス個人の事を聞くデービット王太子。
「最初に向かったのが、タリマン渓谷だったのですけど、戦闘が終わった後、少しだけ元気が無かったですが、その後はいつも通りでした」
と、思った事をアレンが言うと、
「タリマン渓谷は、セインスの両親が殺された場所らしいからな」
と、デービット王太子が納得する。
「ええ……」
と、表情を曇らせたアレン。
自分はクローム騎士軍に手をかけていないとはいえ、自分が所属していたパイド騎士軍が行った悪行だ。アレンの気持ちは暗くなる。
「セインスの戦果の方はどうだった?」
と、話を変えたデービット王太子に、
「そちらは凄まじいの一言です。長距離から器械式弓で敵指揮官を殺して、その後は鉄弓式を持って、接近戦で無双ですよ。もうリーガスタ中将以外には負けないのではないかと思いますね」
と、戦闘中のセインスの事を語るアレンに、
「接近戦でも強いからなぁ、アイツ。私も何度か手合わせしたが、全敗だ。それに加えてあの弓の腕だ。弓の練習も見たが、いくら遠くが見えるからといっても、見えるだけでは当たらんぞ、あんな距離」
と、年下のセインスに負け続けているデービット王太子が、少し悔しそうに言うと、
「風を読まないと、矢は流れますしね。あの器械式は凄いです。威嚇として使うのも有効かと思うのですが、数を揃えられませんか?」
と、デービット王太子に無心してみるアレンだったが、
「ロローシュに聞いたところ、あれ1つで金貨10枚らしい。セインスの予備くらいなら用意してやれるが、威嚇のために40人分は無理だ」
と、金の事を言われてしまうアレン。
「めちゃくちゃ高いのですね。威嚇は鉄弓と割り切ります」
と、納得したアレンが言うと、
「鉄弓式でもある程度までなら、当たるのだろう?」
と聞かれたので、
「直径1メートルの的なら、距離が100メートルでも狙えると、うちの兵たちは言ってますね」
と、クローム隊のドワーフ弓兵達の言葉を、デービット王太子に伝えたアレン。
「私からすれば、それでも充分な威嚇になると思うぞ」
と、デービット王太子が言ったので、
「ですね」
と、応じたアレン。
「では、私は戻るから、明日、報告書を頼むぞ」
と、去っていくデービット王太子に敬礼して、
「了解であります殿下!」
と、応じたアレン。
「私なんかに、殿下が声をかけてくださるとか、私は恵まれているな」
と、椅子に座ったアレンは、報告書の作成に戻るのだった。




