遊撃隊
ノードス伯爵の屋敷を出たセインスは、
「アレン、到着してすぐになんだが、出撃準備だ!」
と、アレンに向かって叫ぶ。
「了解であります、クローム大佐!」
と、アレンが敬礼した。
そう、セインスは大佐なのだ。成人前の少年なのに。
「向かうはタリマン渓谷だ!」
と、これから向かう戦場を指示するセインス。
道中、普通の馬の倍ほどの大きさの、凶悪な顔をした黒い馬の上に乗っているセインスが、
「戻ってきてすぐに向かうのが、タリマン渓谷とはな」
と、小さな声で呟いた。
タリマン渓谷、そこはセインスがパイドの剣を避けて落ちた渓谷である。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
タリマン渓谷から侵入したウェインライド国軍は、レイリス国の兵士を背後から奇襲できた事により、有利に戦闘を繰り広げていた。
「黒鷲部隊が敗北した戦地というから、気合い入れて来たのに、どうって事ねぇな」
と、大きな体を、金属の鎧に包んだ男が言う。
この部隊の指揮官である。
「駐留している隊が変わったのか、黒鷲部隊がヘマをしたのか、どちらかでしょうな」
と、副官らしき男が言うと、
「ヘマしたんだろ。アイツ、ちょっと連勝が続いてたからって、調子に乗ってやがったからな。死んで清々したぜ」
と、指揮官が口元を緩ませて言った。
「渓谷を下った作戦も、大成功でしたな」
「戦ってのは、ここでやるんだよ」
と、頭を指さして、指揮官が言う。
「ですね。流石です」
と、指揮官にゴマを擦る副官。
「お前も俺についてりゃ、出世させてやるから、ちゃんと働けよ」
と、指揮官が言うと、
「もう、死ぬまでついて行きます閣下!」
と、腰巾着の定番のセリフを、口から吐いた副官。
「ワハハ」
と、優越感に浸る指揮官。
その時、
「新たな敵兵を発見しました!」
と、兵士が駆け寄ってきて言う。
「どこだ?」
と、尋ねた指揮官に、
「あちらです」
と、指さした兵士。
「目測で1000人くらいか。応援としてはかなりの数だが、こちらは既にこの一帯を制圧してるんだ。今更来たところで、返り討ちにしてやるわ! 神の教えに反して、エルフやドワーフ、獣混じりと仲良く暮らすこんな国、滅ぼしてやる! 敵が射程距離に入ったら、弓兵による一斉射だ!」
と、指揮官が命令した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「敵が横に展開しました!」
と、セインスに報告がもたらされる。
「ゆっくり進軍だ。まだ距離があるから向こうも撃ってこないだろう」
と、セインスが指示する。
「こちらも撃てませんけどね。大佐以外は」
と、隣で馬を歩かせながら、アレンが言った。
「指揮官っぽいのを探すから、弓の用意を頼む」
と、セインスがアレンに言うと、
「どちらを?」
と、問われたセインスは、
「まだ接敵していないから、器械式でいく」
と、答えたセインス。
「了解です」
と、馬を止めて、後ろからくる馬車を待ったアレン。
「さて、わかりやすい格好をしてくれていると、助かるのだがな」
そう言って、セインスは、眼鏡の右側のレンズを上に跳ね上げ、左眼をつぶり、右眼で敵の様子を見ていくと、
「おそらくアイツだな。豪華な金属鎧を着込んで、ドスドス歩いてる筋肉の塊がいる」
と言って、セインスはニヤリと笑う。
「大佐、弓を」
と、アレンが持ってきた弓は、他の兵士が持っている弓とは、形が全く違う。
弓のアームは複雑な構造をしており、アームの端に、滑車が取り付けられていて、そこを通るケーブルとテコの原理を利用した見たこともないような、変わった弓だった。
読者の方は、コンパウンドボウで、ググって頂けると形が分かると思います。
それによく似た弓だと思ってください。




