セインス・クローム
ロローシュ伯爵領に、いったん戻ったセンスは、ヴェガ騎士軍の兵達に挨拶することになる。
「センス曹長は、まあ、元センス曹長だが、本来の名前に戻ることになった。では、本人から挨拶があるので、皆、静かに聞くように」
と、ヴェガ男爵が言った後、
「えー、素性を隠していた事に、まずはお詫び申し上げます。名をセインス・クロームと再び名乗ることになりました。陛下より男爵に任じられまして、王都にて遊撃隊という新設部隊を率いる役目を仰せつかりましたので、短い間でしたがお世話になったヴェガ騎士軍を、本日付けにて抜ける事になります。皆さんの今後の活躍を祈念しつつ、皆さんとまた共に戦う日が来ると思いますので、それまでにヴェガ騎士軍、今は男爵軍というべきでしたね。ヴェガ男爵軍に在籍していたと胸を張れるよう、強くなる努力を今後もしていきますので、また会った日には、よろしく頼みます」
と、セインスが挨拶をすると、ヴェガ男爵軍の兵士達は、驚きの声が、そこかしこから聞こえた。
「なお、作戦参謀時代に、クローム男爵の部下であった、アレン一等兵と、ローレライ一等兵は、クローム男爵の家臣としてクローム男爵家に務めるとこになったので、同じく我が軍を抜ける事になった。2人も挨拶を」
と、ヴェガ男爵が言い、アレンとローレライが挨拶をする。
この日、セインスのセンスとしての人生は、一年も経たずに終わることになり、セインス・クロームとしての人生が、再び始まる事になった。
セインス、アレン、ローレライの3人は、ロローシュ伯爵家にいったん寄って、そこでフェルを迎え、4人で王都に向かう。
何故フェルが合流したのかというと、大部分はフェルの我儘。
あとは、まだ若いセインスに悪い女が付かないようにと、見張る役目がある。
これは、王家、ノードス伯爵家、ロローシュ伯爵家での話し合いにて、王家の者と婚約したからには、先に他で子供を作らないようにという、重大な役目である。
正妻、つまり第一夫人は王家のフィリア王女が決定な訳なのだが、第二夫人がどちらになるかとの相談のおり、既に肉体関係のあるフェルが、先にセインスと一緒に暮らす事を条件に、第三夫人でも良いと提案したためだ。
なぜなら、セインスが成人した時、ノードス家のティアはまだ12歳。結婚にはまだ早すぎる。
なので、数年待つことになる。
既に成人しているフェルが、先に結婚すると第二夫人はフェルになってしまう。
だが、婚姻を結ぶ代わりに一緒に暮らしても良いなら、第三夫人でも良いと言ったのだ。
細かい順番や年月など、寿命の長いエルフ、いや、フェルにとってはどうでも良かった。
だが、それまでの間、セインスとの関係を断つのは我慢出来ないと、フェルがロローシュ伯爵に訴え、ロローシュ伯爵も実質セインスの初物を奪った娘という、ポジションを最大限に活用するのに、有利だと判断したのだ。
そういう訳で、フェルはセインスと暮らす事になった。
「デービット王太子殿下、王都に到着致しましたので、ご挨拶に参上致しました」
と、城に顔を出して、デービット王太子に挨拶したセインス。
「かたい! かたいぞセインス! 将来の義弟だし、もっと砕けた口調でいいぞ!」
と、デービット王太子が言うのだが、
「いえ。結婚はまだですから、ケジメとして」
と、答えたセインス。
「堅物だなぁ。まあいい。来てすぐになんだが、遊撃隊の人員を選抜するから、明日の朝に国軍の訓練の視察をしてもらいたい」
と、明日の予定が決まり、セインスは、婚約者であるフィリア王女に挨拶して、その日は国王から貰った屋敷に帰った。




