ちくしょう
朝に来る予定のパイド騎士は、午前10時を回ったというのに、いっこうに姿を見せない。
「来ませんな?」
と、アウス準男爵が、首を捻りながら言うと、
「使いの者は夜明け前に戻ったから、もう来ていてもおかしくないのだがな。何かあったか見に行かせよ!」
と、ノードス伯爵が、部下に命令する。
「は!」
と、応じた部下が、屋敷から馬に乗って様子を見に出たのだが、戻って来たのは夕方であった。
「閣下! パイド騎士の姿がありません! それどころか、パイド騎士軍が全て居ません! 屋敷がもぬけの殻でした! 一緒に警備していた他の騎士軍の者に、話を聞いたところ、私が到着する1時間ほど前に、出かけたはずのパイド騎士が戻り、閣下から至急の極秘作戦が出たと、パイド騎士軍が移動したそうです!」
と、ノードス伯爵に報告する。
デービット王太子やセンス達も、捜索に出ていたちめ、この報告を聞いたのは、ノードス伯爵のみ。
「なに⁉︎ そんな命令だしとらん! 作戦がバレたのか?」
と、慌てるノードス伯爵。
「私は何も漏らしていません!」
と、パイド騎士を呼びに行った者が、疑いをかけられそうになるのを、自分では無いと先に否定する。
「屋敷から消えた者がいないか調べろ!」
と、ノードス伯爵が叫ぶと、
「それでしたら、今朝からメイドのリリーが居ません!」
と、その場に居たメイド長の女が、調べるまでもないと報告する。
「リリーの部屋を調べろ!」
と指示したノードス伯爵に、
「部屋は慌てて荷造りした痕跡が! それとパイドへの恋文の書き損じが数通ありました!」
との報告が、数分後に届く。
「あの女、パイドに通じておったか! リリーとパイドを探せっ!」
と、顔を真っ赤にしたノードス伯爵が、叫ぶのだった。
だが、後手に回ったノードス伯爵の部下達が、パイド騎士やメイドのリリーを見つける事はできなかった。
次の日、デービットとセンス達は一旦王都や、ロローシュ伯爵領に戻ることになる。
センスが戻るまえに、ティアとの再会があったが、多少容姿が変わっても、気持ちは変わらないと涙ぐんだティアに、センスの心は多少癒されたのだった。
それから一月後。
「閣下」
と、呼ばれたノードス伯爵は、
「なんだ?」
と、部下に目を向けると、
「パイドの足取りがようやく掴めました」
と、報告される。
「なに? 奴はどこへ逃げた!」
と、声を荒げたノードス伯爵。
「おそらくアストン国です……一月前に、多数の馬車が我が領の国境沿いの村を襲い、水と食糧と女を奪って行ったと残された村人から昨日、国軍に報告がありました。商隊を装って村に侵入してきたとの事で、そのままアストン国方面に走り去ったと」
との報告であった。
「パイドのやつめ! ヤツを追えんのか?」
と、部下に聞いたノードス伯爵だが、
「アストン国とは現在相互不可侵ですので、商人ならまだしも、戦力は送り込めません!」
と、言われたノードス伯爵が、
「ちくしょう……」
と、自身の右拳を握り締めて、悔しそうな表情で呟いた。




