罠
さて、センスの下手な芝居から一週間後、センスはノードス伯爵家の屋敷に居る。
ティアとの感動の再会は、極秘で動いているのでお預けとなる。
今、優先すべきはパイド騎士の件である。
センスの顔を知っている者も多いため、ノードス伯爵家の屋敷には、フードを被って入ったセンス。
普通ならば、そんな怪しい者など、貴族の屋敷には入れないが、同行したのが男爵や準男爵達だったし、事前に打ち合わせ済みだったので、すんなり入った。
「では翌朝、パイドを呼び出すので、セインス達はとりあえず隣の部屋で待機して貰う事にして、パイドを部屋に入れる。デービット殿下と私で対応するから、パイドが部屋に入ったら、ドアの前で待機という事で」
と、作戦の簡単な流れを説明したノードス伯爵。
「承知した。クローム男爵には借りがあるので、しっかり返させて貰う」
と、ノードス伯爵領まで、遠征して来たアウス準男爵が言い、
「うむ」
と、頷いたバウ準男爵に、
「私は借り二つなので、あと一つだな」
と、ジュンス準男爵が言った。
「お手数おかけします」
と、センスが3人に向かって言うと、
「クローム男爵。今は他に人が居ないから良いが、公の場では私たちに敬語を使っては、他の者に示しがつきませんぞ。我らは準男爵、クローム殿は男爵ですぞ」
と、ジュンス準男爵が、センスに言った。
「まだ慣れなくて」
と、センスが頭をかきながら言うと、
「セインス、早く慣れておくほうがいいぞ」
と、センス達より先に到着していたデービット王太子が、大きめの声でセンスにアドバイスする。
その時、部屋のドアの外で、カタッと、音がした。
「誰だ?」
と、ドアの外に向かって、ノードス伯爵が声をかけると、
「失礼します。お茶をお持ちしました」
と、ドアの外から声がした。
「リリーか、そこに置いておいてくれ。こっちでやるから」
と、ノードス伯爵が言う。
「はい」
と、声がした後でドアを開けて、お茶のセットがのっているワゴンを、部屋の中に入れたノードス伯爵。
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「ノードス閣下から呼び出し?」
パイド騎士は、ノードス伯爵からの使者に、そう聞き返した。
「はい、翌朝お越し下さいとの事です」
と、伝えられたが、明日の朝となると夜中には出発しなければならないだろう。
「ふむ、分かったとお伝えくだされ。用意して向かいますゆえ」
と、応じたパイド騎士。
「では!」
と、使者が去っていく。
「父上、閣下からの使いの者はなんと?」
と、パイド騎士の息子のギルスが、聞いてきたので、
「屋敷に来いとの事だ」
と、パイド騎士が言うと、
「何かあったのでしょうか?」
「分からん。閣下は最近王都によく行かれてるから、その関係かもしれん」
と、自分なりの考えを口にしたパイド騎士。
「アストン国との戦が終わったから、こちらに国軍がかなり来て、こちらも終わりそうですからね」
とギルスが言う。
アストン国との戦が終わり、国軍がノードス伯爵領に、応援に来ていた。
その状況を確認するという建前で、デービット王太子がノードス伯爵の屋敷に、滞在しているわけである。
「まあ、行けばわかる」
と、パイド騎士は深く考えるのを放棄した。
そして、準備を終えてノードス伯爵の屋敷に向かって、馬を走らせたパイド騎士は、翌朝、街に到着したのだが、
「パイド様!」
馬に乗ったパイドに声をかける女性が一人。
「リリーではないか。どうしてこんな街のハズレに?」
と、馬に乗ったまま、パイド騎士がリリーに問いかける。
「お館様のところに行ってはなりません! 罠です!」
と、リリーがパイド騎士に向かって叫ぶ。
「どういう事だ?」
と、尋ねたパイド騎士に、
「クローム騎士家のセインスが生きていました!」
と、リリーが言う。
リリーは、数年前からノードス伯爵の屋敷で働いている。
当然、クローム騎士家の事を知っている。
クローム騎士家とパイド騎士家の関係も。
「なに? あのガキ、ノードス閣下にチンコロしやがったのか!」
と、パイド騎士が叫ぶと、
「騎士が4人も待ち構えています!」
と、状況を説明した。
「リリー、よく知らせてくれた。で、お前はどうする? まあ、その荷物を見れば聞くまでもないか」
と、パイド騎士がリリーの手に握られた、大きな鞄を見て言った。
「私もパイド様と一緒に居たいです。日陰の身でも構いません!」
と、リリーが懇願する。
リリーとパイド騎士は、リリーがノードス伯爵の屋敷で働き出した時から、男女の仲になっていた。
パイド騎士にしてみれば、単なる浮気相手の一人だが、純真なリリーは、パイド騎士を心の底から愛している。
ノードス伯爵よりも優先するくらいに。
「ならば乗れ。この国から脱出する!」
と、パイド騎士が力強く言った。




