腕前
センスと、フィリア王女は、弓の訓練場に移動した。
既にここで人気者になっていたセンスであるので、兵士がぞろぞろと集まってくる。
「このロープに括り付けられた木片に当てられたら、あなたの話を信じてあげるわ」
と、フィリア王女が10センチ四方の木片の端に穴を開け、ロープで結んだものを、センスに見せる。
「ロープは誰が引っ張るんです?」
と、センスが尋ねると、
「そこの貴方、このロープを引っ張りながら走りなさい。いい? 一定の速さではなく、緩急つけて引っ張るのよ?」
と、見ていた兵士を指名する。
「承知致しました、殿下」
と、指名された兵士が、ロープを受け取る。
「では、走りなさい」
と、命令したフィリア王女に、
「はっ!」
と、一礼した後、兵士が木片を引きずりながら走り出す。
「このくらいの距離なら、眼鏡のままでイケるな……今っ!」
そう言ってセンスが放った矢が、地面を跳ねた木片を貫いた。
「そんなっ、今のはたまたまよ!」
と、フィリア王女が言うので、
「何度でもやりますよ?」
と、答えたセンス。
「貴方! もっと全力で走ったり止まったりさなさい!」
と、フィリア王女に命令された兵士は、全速力で走っては止まり、また走る。
それを見ながら狙いをつけたセンスが、自然な感じで矢を放った。
「おい、また当たったぞ!」
「すげー!」
と、見ていた兵士達から、声が上がる。
悔しそうな表情のフィリア王女が、
「そうだ! 距離よ! オーガをこんな近くから撃てる訳がないわ! もっと遠くのはずよ!」
と、言い出したので、
「どうぞ、もっと遠くでもいいですよ?」
と、センスが言うと、
「貴方、もっと遠くを走りなさい!」
と、ロープを持つ兵士に叫んだフィリア王女。
「しかし殿下、弓矢には射程距離というものが」
と、意見した兵士に、
「飛距離なら、50メートルは飛ぶはずよ!」
と、フィリア王女が言うと、
「それはそうですけど、当てる距離となると」
と、言った兵士に、
「いいから離れなさい!」
と、怒鳴るフィリア王女。
「兵士さん、構いませんから離れて下さい。殿下が良いという距離まで」
と、センスが兵士に声をかける。
「君がそう言うのなら」
と、応じた兵士。
離れていく兵士に、
「そこでいいわ!」
と、フィリア王女が命令したのだが、
「おい、あれ無理だろ?」
「ああ、あの距離だと動いてなくても、当てるのは至難の技だぞ?」
と、兵士達が言い合うのを、
「外野はうるさいわよ!」
と、フィリア王女が一喝する。
走る兵士のロープの先。
センスの位置からは、豆粒のように見える木片に狙いをつけたセンスは、
「今だっ!」
と言って矢を放つ。
矢は木片のど真ん中に当たっていた。
「そんなバカな!」
と言ったのは、フィリア王女だけでは無かった。
「ね? オーガもこれなら弓矢で倒せるんですよ」
と、センスがフィリア王女に話しかけた時、
「ほう! オーガを弓矢で倒せるのか」
と、声がかけられた。
声の主は、フィリア王女の父親だ。
「陛下! どうしてここに?」
と、慌てて膝を突いたセンス。
もちろん、見ていた兵士達も同じだ。
「いや、テラスに呼びに行かせたら、侍女が弓の訓練場に行ったと言うので、みんなでセインスの腕前を見てみるかと、ぞろぞろ来たわけだが、確かに凄腕よのう」
と、王がセンスを褒める。
「お褒め頂き光栄にございます」
と、返答したセンス。
「フィリアよ、セインスの腕、認めないわけにはいかんだろう? オークを倒したのは六歳の時らしいぞ? オーガまで倒してたとは知らなかったが、セインス、オーガを倒したのは何歳の時だ?」
と、一緒に来ていたデービット王太子が、フィリアに言った後、センスに問いかけた。
「10才頃だったかと」
と、答えたセンスに、
「もはや呆れて物が言えん。クローム家の教育の仕方は、真似出来んな」
と、デービット王太子が天を仰ぐ。
「全くじゃわ。ノードスよ、クロームと言う男を騎士にしたのはお主だろう? いったいどういう男じゃ?」
と、ロローシュ伯爵がノードス伯爵に、問いかけると、
「元々は冒険者ですね。私の馬車がオークの群れに襲われましてね。護衛が次々と倒されて、諦めかけた時に、たった2人で10匹のオークを全滅させたのが、セインスの両親でした。槍のジュドと弓のフレア。北では名の知られた冒険者のカップルでした。セインスの弓の腕はフレアに似たんでしょうね。たった2人で地竜すら狩ってくる凄腕でしたよ」
と答えたノードス伯爵に、
「2人で地竜とか、もはや人族じゃねーだろ」
と、デービット王太子が言うと、
「だが、パイドは1人で地竜を狩ってくるのですよ……」
ノードス伯爵が、パイドの強さを説明した。
地竜とは、空を飛ばない竜である。
四足歩行のオオトカゲで、体に硬い鱗を持ち、体長10メートルくらいにもなる、頭頂部から角を生やした、凶暴な魔物である。
「北は化け物の巣窟か?」
と、デービット王太子が聞くと、
「他は普通だと思いますよ。だから、攻めのパイド守りのクロームと呼ばれていたんですが、パイドのやつめ! 優遇してやったのに!」
と、ノードス伯爵のパイド騎士への怒りが、湧き上がってきたのだった。




